「新婚幸親曲」
私は………どうやら母親になるようです。
◇◇◇
「…っ!!ハルカ!!
子どもが生まれたのか!?」
「……………。いや、生まれていませんよ」
この世界に来てから、もう7か月が過ぎた。
最初の3か月間は着ぐるみ姿だったが………。
それも今では良い思い出だ。…そういうことにしておく。
私の人生にとって、異世界トリップとは大きな転機であったのだろう。
まあ、何かが変わったと言うわけでもないのだが…。
強いて、変わったところを上げるのならば。
―――結婚したことくらいだろうか。
私の夫であるジークフリートは見たこともない程、慌てていた。
「ハルカ、お前は寝ていろ。起きていると身体に悪い。
今、毛布を持って来てやるからな。…安心しろ、俺がついている」
……………。
ここまで慌てられると、いっそ面白いですね。
「はぁ、病気じゃないんですから。
というか、この状態のジークがいても安心できません」
毛布どころか、氷枕や胃薬まで持って来ようとしている。
どれだけ混乱してるんだ。
私は、一体何の病気なんですか?
それにしても、胃薬って。副団長にあげたほうが良いんじゃ……。
「そうか、そうだな。
まずは、医者を呼んで来る」
そう言うと、ジークはまさに風のように走って行った。
…ジーク、一体どこに行ったんですか。
先生ならこの部屋にいましたよ、ずっと。
◇◇◇
「奥様。おめでとうございます。ご懐妊です」
なんだか、最近身体がダルいとは思っていた。
月のものも来ていないし、ジークとの夫婦関係を考えると…。
まあ、妊娠しても当然ですよね。
「そうですか。今、何か月くらいか分かりますか?」
結婚してから、3か月。
子どもができる時期としては、かなり早いほうだろう。
「2か月程ですかね」
………はやっ!
いや、結婚前からイロイロあったからなぁ。
先生は、やはり慣れているのか、テキパキと注意事項を伝えてくる。
ほとんど学校などで教えられることだったが、有り難く拝聴しておく。
「ところで、旦那様には奥様からお伝えになられますか?」
「いえ、先生から伝えてください」
私が思わず即答すると、不思議そうな顔をされてしまった。
だって、自分の口から言うの恥ずかしくないですか?
ジークの反応が読めないし……。
「奥様からお伝えになったほうが、旦那様はお喜びになると思いますが……」
先生が控えめに進言してくれる。
ううぅ、分かってますよ。
こういうことは妻の口から言うべきだって!
「旦那様も夕方にはお戻りになるでしょうし。
今のうちに、お話があることだけでも伝えに行ってもらいましょう」
いつの間にか、先生の中では私から話すことになっていた。
……意外と強引ですよね、先生。
◇◇◇
夕方どころか、たぶん伝令役の言葉を聞いてすぐさま戻って来たと思われる夫は、また慌ただしく部屋を出て行ってしまった。
おい、伝令役はだれだ。
私の数十分前の決意を返せ。
「………。で、伝令役の者が間違って伝えてしまったようですね」
先生、むしろそのフォローが辛いです……。
ジークがようやく戻って来た。
ちょっと、遅過ぎませんか?
一体どこまで探しに行ってたんです……。
「医者はここにいたのか。早くハルカを診察しろ」
「もう診察は終わりましたよ。
先生もヒマじゃないんですから、いつまでも引き止めては悪いです」
「この世にハルカより優先するべきことはない。
…本当に大丈夫なのか?」
ひょっとして、出産までこの調子で心配してくるんですか。
……冗談ですよね?
「ジーク、いいですか。妊娠は病気じゃないんですよ。
そんなに心配しなくとも大丈夫です」
「そんなことは知っている。
だが、妊娠は母体にかなり影響があるだろう」
………。
何で中途半端に知識があるんですか、厄介な。
「確かに、母体に影響は出ますが、今から心配するようなことではないですよ。ねぇ、先生?」
ここは、先生に援護してもらおうと話しかけるが…。
「ま、まあ、初めてのご出産ですし。旦那様が心配されるのも尤もかと……」
おいっ!?
う、裏切者ぉ。いくらジークが変な威圧感出してるからと言って、い、医者のくせに!!
「ほら見ろ。専門家がこう言っている。
大人しく俺に世話をされておけ」
甘ったるい笑顔で近付いてくるジークには、もう溜め息しかでない。
「はぁ。じゃあ、よろしくお願いします。
…………お父さん?」
最後に悪戯っぽく付け加えて微笑んだ………ら、ジークがフリーズしました。
意外と可愛い人ですよ、ね?
◇◇◇
「子どもの名前は何にする?」
「だから、まだ早いですって。
というか、ベビーグッズはまだしも、幼児用の玩具は早過ぎですっ!!」




