「結婚叶想曲」
私は………どうやら結婚するようです。
◇◇◇
「―――このままだと、“アノ”神官長のいる神殿で女神をすることになるぞ。
神殿に行くのと、俺と結婚するの、どちらが良い?」
「………その聞き方はズルいですよ。なんですか、その究極の二択」
私が着ぐるみを脱いでから、もう1か月が過ぎた。
こんなにあっさりと受け入れられるなんて。
私の3か月間の努力は………。
まあ、着ぐるみを脱いだところで何が変わるわけでもありませんけどね。
もちろん、生活はかなり快適になりましたが。
強いて、変わったところを上げるのならば。
―――団長から迫られていることくらいだろうか。
私の護衛騎士であり、よき理解者でもあったジークフリートは、こんな人だっただろうか。
………。
こ、こんな人だったような気がする。
「どうした?この俺が告白しているのに、考え事か?」
「ええっ!?今のセリフのどこが、告白だったんですか?
むしろただの脅しですよね」
「失礼なヤツだな。正式なプロポーズだろうが」
さすが、異世界。
こんなところに異文化の壁が…。
「ほら、さっさと“ハイ”と言え」
「あなたはどこの暴君ですか」
いやいやいや、ここはさすがにスルーするのはマズイです。
「だいたい、神殿で女神をするってどう言うことですか?
そんな話、初耳なんですけど…」
確かに、“アノ”神官長は危険かもしれませんが。
………神殿に行かなきゃいけない、なんて聞いていませんよっ。
「お前は、あの変態がこのまま女神を放っておくと思っているのか?
ずいぶんとおめでたい頭だな」
「………団長こそ、ずいぶんと嫌味っぽいですね」
着ぐるみのときと態度が違いませんか?
あの絶妙なフォローをしてくれていた団長は一体どこに…。
「優しくしてほしいのなら、俺を選べ。この世界の誰よりも大切にしてやろう」
………あまっ。
そんな甘ったるいセリフを真顔で吐かないでくださいっ。
「俺の想いは、この1か月で十分に伝わっていると思っていたが」
「ま、まあ…。さすがに、口説かれているのは分かっていましたが。
どうして、一足飛びに結婚なんですか?」
そりゃあ、まあ。デートみたいなこともしましたし、他にもイロイロありましたが……。
はっきりとお付き合いしていた訳ではありませんし。
「?」
なんですか、その“意外なことを言われた”みたいな顔は。
「俺はお前を愛している。だから、結婚して俺だけのものにする。
それのどこがおかしい」
「いや、おかしいですよ!
私の気持ちをまったく聞いていないじゃないですかっ」
「確かに、お前から直接気持ちを聞いたことはなかったな。
……だが、お前は俺を好きだろう?
俺からのプロポーズに、断りの言葉が浮かばない程に、な」
……………っ!?
私がドヤ顔の団長に、渾身の右ストレートをくり出したのは言うまでもない。
………しっかりと避けられたが。
◇◇◇
団長のプロポーズを、渋々、ほんっとうに渋々受け入れてからはあっという間だった。
結婚式の準備って、こんなに簡単にできましたっけ。
なんで、採寸もしていないウェディングドレスのサイズがぴったりなんですか…。
完全に、団長によって外堀が埋められていたようだ。
一体いつから狙われていたんだ………。
今にして思えば、団長の家にお世話になることにしたのが間違いだったような…。
「神獣でもないのに、いつまでも王宮にいる訳にもいかないだろう。
しばらくは、俺の邸にいたら良い」
「えっ、でも迷惑じゃないですか?さすがにそこまでお世話になる訳には」
「気にするな。
お前はこの世界に頼る家族もいないんだ。俺に甘えておけ」
「……はいっ。ありがとうございます」
くっ、あのとき妙に親切だと思ったら……。
私の感動を返せっ!!
◇◇◇
はぁ…。というか、もう式当日とか早過ぎですよ……。
「まあ、とってもお綺麗ですわ。奥様」
「このウェディングドレスも奥様に本当に良くお似合いですっ!!」
団長の家のメイド達が口々に褒めてくれる。
……………はあぁ。
メイド達の奥様呼びにも、もうツッコミを入れる気力もなかった。
「ほぉ、美しいな“俺の花嫁”」
この状況の元凶である、団長サマの登場です。
この人、日々どんどん甘くなっていくんですが、仕様ですか。そうですか。
なんて迷惑な。
「なんだ、緊張しているのか?
まだ式までに時間がある。茶でも飲むか?
俺は、まだ鬱陶しい挨拶があるんで相手はできないが」
あなたに相手をされるぐらいなら、着ぐるみを着ていたほうがマシですよ。
「いいえ。お茶は要りません。
…それより、手紙を書きたいので紙とペンを貸して頂けますか?」
◇◇◇
異世界の結婚式は、元いた世界のものとほとんど変わりませんでした。
まあ、参列者席で奇声を上げながら号泣していた神官長の存在は異世界でしたが。
なんで、あの人を招待してしまったんですか…。
ハプニングもありましたが、とりあえず結婚式は無事に終了しました。
………若干、式の開始が遅れてしまったのは団長の所為です。
「どうした?ハルカ」
「……何でもありません。
ところで、この後どうするんですか?初夜とか、すっっごく今更な気がするんですが」
「何を言っている。
初夜は、結婚という特別な日の夜のことだ」
「……………」
私の呆れかえった目に、さらに呆れた目を向けるのはやめてください。
なんで、私が悪いみたいな空気になってるんですか…。
「ハルカ」
「何ですか?」
「式のときにも言ったが、もう一度改めて言おう」
そう言って団長は跪いた。
……っ!?
この人が跪くのとか、初めてみましたよっ。
「この剣と魂にかけて、お前への永遠の愛を誓おう。
愛している、ハルカ」
真剣な顔で誓いの言葉を言う団長は、正直格好良かった…。
こんなこと言われたら、多少雰囲気に流されちゃっても仕方ないですよ、ね?
◇◇◇
「結婚式の準備、一体いつからしていたんですか?」
「お前の顔を初めて見たときからだな」
「……………」
この小話のタイトル、最初は“叶想曲”ではなかったのです。
実は………“狂騒曲”だったのです!!
いつか、拍手小話とかで、狂ったように騒いでいた(?)結婚式の様子も書けたら良いなぁ…。




