第2話
いつの間にか、私は遊園地の着ぐるみバイトから異世界の神獣(仮)にジョブチェンジしていました。
そういえば、着ぐるみ脱いでなかった…。
◇◇◇
さっきいた場所は、王宮の中庭だったらしい。正直森だと思っていたので、城の敷地内だと聞いて驚いた。今は、下にも置かぬ扱いで案内された城内の応接室にいる。
私が座っているこのソファは、一体いくらなのだろうか。座っているのがこんな薄汚れた着ぐるみで申し訳ない。
「神獣様。先程は騎士たちが失礼致しました。どうかお許しください。
―――ああ、申し遅れました。私は神殿で神官長を務めております、アレンと申します」
と、にこやかに声をかけてきたのは、中庭で私を“光り輝いていらっしゃる”と称した青年だった。やはり職業は神官で間違いなかったようだ。
「そして、こちらが王立騎士団の団長を務める、ジークフリートです」
ジークフリートと呼ばれた彼は、中庭で会った上官らしき騎士だ。
敵意もないが、愛想もない。と言うか、頭ぐらい下げろよ。私は下げたぞ。
相変わらず探るような視線を向けてくるので居心地が悪い。
この礼儀知らずめ。神官長を少しは見習えよ。
神官長、さっきアホとか思ってゴメンナサイ。
とりあえず、話の通じそうな神官長に声をかけようとした瞬間―――
『バァーン!!』
扉を破壊しそうな勢いで部屋に入ってきたのは、まさしく王子様だった。
「珍獣を捕獲したとは、本当か!?」
「殿下っ!!不敬ですよ!珍獣ではなく、神獣様です!!」
ビンゴ!やっぱり王子か。
この世界の人たちは職業が分かりやすくていい。王子が職業かは謎だが。
「神獣とはあれか!?」
「そうです。神獣様は―――― 」
神官長の話は2時間にも及んだ。
…神官長、まともな人かと思ったのに。
◇◇◇
神官長のやたらと神獣への賛美と崇拝に満ちた話を要約すると、
―― 白く美しい毛並み(くすんだ灰色ですが)、雄々しい角(アイスクリームのコーンをひっくり返したようにしか見えない)、天からの御遣いであることを示す翼(ツギハギだらけでパッチワークのようになっている)、神々にしか聞こえない声(………)、人語を解し、人々を教え導く優しき獣(盛り込みすぎなんじゃ…)―― らしい。
……早く着ぐるみを脱いで、神獣ではないと伝えなければ。
◇◇◇
恐ろしいことに、神官長の話はまだ続いていた。
「何より腹部の美しい紋様!!」
ひょっとしてチャームポイントの星マークのことですか?
「この紋様は、王族の方々や大神官様ですら使うことを許されていません」
もしかして、中身が人だとバレたらマズイんじゃ…。
「まあ、人の身であれば死罪だろうな」
騎士団長サマからの有り難いお言葉を頂きました。
………バレないようにしよう。
とりあえず、目下の目標は3人に気付かれないようにすることだ。
神獣オタクの神官長。
今のところただのバカにしか見えない王子。
まったく考えの読めない騎士団長。
しかし、この着ぐるみにしか見えない私を本当に神獣だと信じているのだろうか。
「そう!神獣様とはこの世界で最も気高く愛らしい生き物なのです!!!」
「おおぉぉぉ!!!神獣バンザーイ!!」
いつの間にか王子は神官長に洗脳されてしまった。なんと恐ろしい。
私の足元に跪くのはやめてください。
この2人にバレる心配はなさそうだ。アホだし。
ただ不安要素は「アレが生き物に見えるのか…?」と呟いた騎士団長だけのようです。