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チャックのあるヒロインはいかがですか?  作者: 遊雨季
小話「チャックを開けてみませんか?」
26/37

「彼が彼女に恋したワケ」

 …ひょっとしたら、ずいぶん前から“コイツ”の声が聴きたかったのかもしれない。 



   ◇◇◇



 ジークフリートという男は、基本的に他人――人や物、すべてかもしれないが――に興味がない。仮に、何かに興味を抱くことがあったとしても、それが継続することはなかった。

 彼が打ち込んでいることなど、たぶん剣術くらいではないだろうか。


 目下のところ、そんなジークフリートの興味を一身に引いているソレは、同時に彼の“お気に入り”でもあった。


 彼が、ハリボテの護衛という名の暇つぶしを始めてから3か月が経とうとしている。 

 ………副団長の過労もそろそろピークかもしれない。


 そう、最初は暇つぶしだったのだ。

 退屈な毎日に現れたちょっとした刺激――そんなつもりで傍にいただけだった。


 …今は、今は少し庇護欲をそそられている。


 もちろん見た目にではない。…ましてや、どこぞの神官長のようにハリボテを崇めだした訳でもない。


 ただ、アレの中の人間に惹きつけられていたのだ。 

 自分で思うよりもずっと。



   ◇◇◇



「じゅ、準備中です」


 “神獣”の部屋の中にいた女は戸惑ったように、そう言った。

 確かに、彼女は準備をしていたのだろう。…皮――あるいは、ハリボテ――を被る準備を。


 しかし、ジークフリートの目は見慣れてしまったハリボテではなく、彼女の姿に釘付けだった。

 今の彼相手ならば、襲撃も成功するかもしれない。………いや、やはり無理だ。


 不意に、彼女がこちらの方を見た。

 彼女と目が合った瞬間、ジークフリートは動き出した。邪魔な連中を排除するために。


 邪魔な2人――宰相は、彼が見惚れている間に消えていた――を扉の向こうに捨て、キッチリと鍵まで掛けた男は、固まってしまっている彼女を見る。


 美しい女だった。

 この国では、珍しい髪と瞳の色をしている。

 ………まあ、どんな容姿であれ“ハリボテ”以上に変わった姿はないだろう。


 コツコツと彼の足音が室内に響いている。

 ジークフリートは彼女から目を逸らすことなく、ゆったりとした足取りで近付いて行った。


「あんなふざけたハリボテの中身が、まさかこんな美人だったとはな」


 まさに、“中身”は彼の好みそのものだと言えた。


「女だろうとは思っていたが、これは嬉しい誤算だな」


 思っていたと言うよりも、彼は“確認して”知っていたのだが。

 ………無断で部屋に侵入されていたことを知ったら、彼女はどうするのだろうか。今更、どうしようもないのかもしれない。


「どうした?ようやく話ができるんだ。かわいい声を聞かせてみろ」


 先程から一言も話さない彼女に、ジークフリートは甘く囁き掛けた。

 彼らの距離は、あと数㎝もなくなっている。………しかし、心の距離は果てしなく遠いと思われる。


「か、顔が近いのですが」


 漸く答えた彼女に微笑みながら、そっと口付けた。

 自分の想いを伝えるかのように。


 残念だな。もうお前は俺のモノだ………。永遠に、な。  




 彼女――ハルカとの、ある意味2度目となる出会いの後。


 ジークフリートは着々と“ある準備”を進めていた。

 ハルカが彼と結婚するまで、あと1か月―――。





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