「彼が護衛に就いたワケ」
「ここが、お前の部屋だ。好きに使え」
ジークフリートの言葉にソレは困ったように首を傾げた。
ソレ――王宮の庭に突如現れた(神官長曰く)神獣は、彼から見れば中に人間が入っているとしか思えないハリボテであった。
顔が全く見えないにも関わらず、困っている様子が伝わってくる気がするのは行動がやたらと人間臭いからだろうか。
◇◇◇
侵入者用のトラップが発動し、彼が駆けつけた先にいたのは薄汚れたハリボテだった。
「あれは何だっ」
「ま、魔物か?」
「なぜ結界が反応しないっ!?」
ほぼ同時に駆けつけて来たらしい部下達が焦った声を出す。
まあ、この王宮でトラップが発動することなどほとんどないので、彼らが焦るのも仕方ない。
魔物?…魔物かどうかの区別もつかんとは、一度遠征にでも行って群れの中に放り込むべきか。
彼が珍妙な侵入者を観察しながら、今後の部下達の指導方針――あるいは、暇つぶしの方法――を考えているとハリボテが手を挙げようとした。
その動きに反応した部下達が剣を抜く。
どうやら彼らの中では、ハリボテは危険なものであると判断されたらしい。………どこで、そう判断したのかは不明だが。
ハリボテは明らかに剣に怯んだ様子で、後退さった。
『ピッカーン』
今度は別のトラップが発動したようだ。
…とりあえず、このハリボテは運が良くないのかもしれない。
その後、駆けつけて来た神官長がハリボテを“神獣様”だと言い出したので、城内の応接室へと移動することになった。
…ハリボテを無意味に警戒し、魔物と勘違いしかけていた部下達はジークフリートから“後で指導をしてやる”と言われ泣いていた。
神官長が挨拶しているのを見ながら、ジークフリートはハリボテの観察を続ける。
神獣?
明らかに中に人間が入っているだろう。こいつの頭は大丈夫か。
しかし、ハリボテにお茶を勧め出した神官長は神獣だと信じきっているようだった。
ジークフリートには刺繍にしか見えない口も、彼には何か特別なモノに見えているのだろう。…たぶん。
目の前で繰り広げられる茶番劇を見ながら、ジークフリートはこの侵入者をどうするべきか考え始める。
彼の雇い主である国王――一応、尊敬はしている。…はずだ――に危害を加えるような存在であるのならば消すだけなのだが、このハリボテからはそういった雰囲気は全く感じられない。
むしろ、珍しいモノ好きの国王なら“何これ~?珍獣なの?僕のペットにしよっかなぁ~”くらいは平気で言いそうだ。
そんな彼の考えを遮るように、慌ただしい足音が近付いて来た。
………ああ、バカ殿下か。
足音で相手を特定した彼はその人物には興味がないのか、それ以上の反応を示さなかった。
『バァーン』
扉を破壊しそうな勢いで部屋に入ってきたのは、やはり第3王子だった。
「珍獣を捕獲したとは、本当か!?」
「殿下っ!!不敬ですよ!珍獣ではなく、神獣様です!!」
…王子の乱入により、神官長の話がヒートアップしてしまったのは誤算だったが。
◇◇◇
結局、ハリボテは王宮で保護することに決まった。
神官長は神殿で保護すると言い張っていたが、大神官に説得され渋々と帰って行った。…大神官は国王の無二の親友である。たぶん、国王のために置いていったのだろう。
「あのハリボ……神獣サマとやらの護衛は俺がしよう」
「ええっ!?ジーくんが自分からそんなこと言うなんて、どうしたの~?」
大げさに驚いてみせた国王に、ジークフリートはアッサリとその理由を話した。
「興味があるからだ。…中身に」
「ふ~ん?珍しいねぇ。ジーくんが何かに興味を持つなんて。
中身って、あの“神獣”くんに何かあるの?」
国王は、いつもと少し様子の違う彼に不思議そうに問いかける。
…毎日暇を持て余しているくせに、ジークフリートはあまり周りに関心がない。
「さあな。だが、多少の暇つぶしにはなるだろう」
「まあ、別にジーくんが護衛してくれるなら良いけど。騎士団の仕事はどうするの?」
「そんなもの、他のヤツにやらせておけば良い」
騎士団長にあるまじき発言をしたジークフリートを見ながら、国王は思った。
…ヨシュアたんの胃に穴が開かないと良いねぇ。
胃に穴が開かなかったとしても、副団長が過労で倒れるのは確実だろう………。




