「チャックが閉まる前」
拍手小話を割り込みで投稿してます。
………ずいぶんとふざけたツラのハリボテだな。
それが、ジークフリートの“彼女”を見たときの感想だった。
◇◇◇
ここ、ハイディングスフェルト王国は非常に平和な国である。
特に、王のお膝下である王都ベヒトルスハイムの治安の良さは他国の噂となる程であった。…いや、噂となっているのは、その治安の良さというより“ある人物”の存在の方かもしれないが。
そんな他国にまで響き渡る悪名………名声を持つ男の名は、ジークフリート・フォン・シリングス。
この国の王立騎士団を束ねる騎士団長であった。
暇だな…。
泣く子も黙る、どころか悪人が泣いて逃げ出してしまうような武勇伝の持ち主たる彼は、暇を持て余していた。
平和過ぎるこの国において、彼の非常識なまでの戦闘能力はまさに宝の持ち腐れである。
まあ、騎士団長の仕事は決して敵の殲滅や罪人の討伐などの荒事だけではないのだが、彼はデスクワークに興味がないため、その他の雑事――あくまで彼の認識だ――は副団長が行っている。
ちなみに、騎士団のトップたる彼の仕事は圧倒的にデスクワークが多い。………副団長が過労で倒れるのは時間の問題かもしれない。
自分の机の上にある書類の山を認識すらしていないジークフリートは、いつものように王宮を散策している。
王宮の警備も騎士団の仕事なので一通りの構造は理解しているが、この王宮は突発的に増築されることがあるため、散策にはもってこいの場所であった。
警備ではない、散策である。
要するに仕事をサボっている訳だが、誰も彼を注意できないため放置状態となっている。
…注意されて、行動を改めるような素直な性格でもないが。
散策にも飽きた彼は、鍛錬場にでも行って部下をシゴクか、街に下りて破落戸共でもぶちのめすか、などと迷惑極まりない暇つぶしの方法を考え始めていた。
そんな、不憫すぎる部下や破落戸達を救ったのは―――
『ピィー』
王宮中に仕掛けられているトラップの警報音だった。
ほお、侵入者か。
良い暇つぶしになりそうだな。
そんな思惑を持ちながら、彼は音のした方へと駆けて行った。
それがある種の運命の出会いであるとも知らずに………。




