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チャックのあるヒロインはいかがですか?  作者: 遊雨季
本編「チャックのあるヒロインはいかがですか?」
2/37

第1話

 作者に着ぐるみについての知識はありません。

 チャックを閉じると―――そこは異世界でした。



   ◇◇◇



 一口にバイトと言っても色々あるが、花の女子大生として、このバイトを選択したことは間違いだったとしか言えない。

 まず第一に、暑い。夏にする仕事ではない。次に、汗臭い。しかも年季の入った匂いがする。そして、重い。素材がイマイチ不明なのだが、綿ではないのだろうか…。


 この仕事には笑顔は必要ない。どれほど不機嫌顔で舌打ちしても、相手にはまったく伝わらないからだ。目の前を覆う壁は厚い。


 そう、私は着ぐるみを着ている。


 

 雇われの身で言うのもなんだが、バイト先の遊園地は寂れている。

 大して上がりも下がりもしない、ジェットコースター。なぜか馬ではなくロバを使っている、メリーゴーランド。過剰なまでのピンクアピールが痛々しい、観覧車。そのすべてが園長の趣味だ。


 もちろん私が着ている着ぐるみも園長がデザインしたもので、いわく、「ユニコーンとハムスターの奇跡のコラボレーション!その名も“ユニ☆スター”」らしい…。ちなみに、全体の9割はハムスターで、ユニコーンの要素は額の角のみである。背中に付いている謎の羽については

「えっ、ユニコーンって羽付いてるじゃん」

…どうやらペガサスと混同しているようだ。

 チャームポイントはハムスターと掛けたと言う星マーク。本当にセンスがない。




 その日、私はいつもの様に更衣室で、すっかり相棒となった着ぐるみを身に着け、チャックを閉めようとしていた。



 ―――そして、話は冒頭に戻る。



   ◇◇◇



 私は、よく他人から「冷静だ」「落ち着いている」などと評価されるが、これほどまでに混乱したことがあっただろうか。いや、ない。

 わたしはこんらんしている。


 なぜ、周りの景色が更衣室内からいきなり屋外に変わっているのか。

 なぜ、澄みわたった青い空に太陽が二つもあるのか。

 なぜ、園長の趣味のようなピンクの綿菓子雲が浮かんでいるのか。


 夢を見ているか、園長の脳内世界に迷い込んだのでなければ、ここは異世界…なのだろう。…たぶん。


 迷子の鉄則はその場から動かないことだが、この場合は状況把握を優先しようと、私は一歩踏み出した。


『ピィー』


 何も分からない私ですらマズイと思う音が鳴り響く。

 

 私の異世界での小さいと思っていた第一歩は、なかなか大きかったようだ。



   ◇◇◇



「あれは何だっ」

「ま、魔物か?」

「なぜ結界が反応しないっ!?」


 現れた4人の男の職業は私にも分かる。騎士だ。間違いなく騎士だ。

 3人は何やら私のことで揉めているようだが、上官のように見える男は冷静に探るような視線を向けてきている。

 とりあえず、敵意がないことを示すために両手を挙げようとして、揉めていた3人に剣を抜かれてしまった。なぜだ、うら若き乙女がそんなに危険に見えるのか。

 怯んで、思わず後退さった。


『ピッカーン』


 眩い光が辺りを包む。


 …もう私は動かないほうが良いのかもしれない。



   ◇◇◇



 光が収まった後、私の目に映ったのは7人の男だった。

 3人増えてる!?しかもお前ら神官だろ!!


 …しまった、冷静さを欠いていたようだ。



「神獣様!?」

「なんと神々しい!!」

「光り輝いていらっしゃる」

「ただのトラップだろ…」


 神官達は口々に私を褒め称えてくるが、私は最後の騎士の意見に同意したい。

 ちなみに、剣を向けていた3人は額を地面に擦り付けながら、許しを乞うている。




 私は今、何だかアホの集団に囲まれているようです。





 ピィー(音)とピッカーン(光)は魔法によるトラップです。

 魔法の出番はほぼないと思います。

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