第4話「王子の恋」
あ、甘酸っぱいです…。
恋をしてても地味なのは変わらなかった。
「神獣殿、先程は失礼した。
私はこの国の第3王子、レオンハルトだ。これから、仲良くしてもらえると嬉しい」
◇◇◇
「彼女は私のことを、好き、嫌い、好き、嫌い、好き……嫌い。
はぁ、また“嫌い”か、…もう23回目だな」
私の足元には、数えきれないほどの花弁の残骸がある。
「………はぁ」
自然と溜息が口から漏れた。
「レオン様、一体どうなさいました?
ずいぶんとお悩みのようですが…。良ければ、この爺に話してみませんか?」
「ヨハン……、ありがとう。だが、これは人に話してもどうにもならないことなんだ。
わざわざ声を掛けてくれたのに、すまないな…」
私はダメだな…。
庭師のヨハンにまで心配を掛けてしまった。
「……レオン様は“恋”にお悩みなのではないですか。
恋愛と言うものは、本人達よりも意外と他人のほうが分かることも多いものですよ」
…っ!?
「な、何故私に好きな人がいると分かったんだっ!?」
まさか、ヨハンっ!!心が読めるのか!?
「心など読めませんよ。
先程からずっと花占いをされているではないですか。
そろそろお止めしないと、この辺りの花壇の花をすべて使われてしまいそうだったので、お声を掛けさせて頂いたんです」
うっ、……すまない。
◇◇◇
神獣殿が脱皮して、実は女神であることが分かってから、もう1か月が経とうとしている。
彼女は本当に美しい人だ。あれ程までに綺麗な人を見たのは初めてだった…。
も、もちろん、神獣姿のときも愛くるしかったぞっ!!
神獣姿のときはオスだと思っていたのでな。
友人になれないかと、私のお勧めの虫などを持っていったりしていた。
あまり喜んではもらえなかったんだが、女性だったからかな…?
今は、その…、友人ではなくこ、恋人になれればと思っている。
まあ、ひと目惚れだな。
好きなのは顔だけではないぞ。声も仕草も、彼女のすべてがいとおしい…。
なんだか恥ずかしいなっ。
…おほん。それで、私はどうすれば良いとだろうか?
教えてくれ、ヨハン。
◇◇◇
「……なるほど。素敵な恋をされているのですね」
「そうだろうか。ははっ、て、照れるな」
ずいぶんと長い間話し込んでしまった。
ヨハンに淹れてもらったお茶も、とうに冷めてしまっている。
「レオン様」
改まった声に顔を上げると、真剣な顔をしたヨハンと目が合った。
「告白なさるべきです、レオン様」
◇◇◇
何だか鬼気迫った様子のヨハンに送り出され、彼女の部屋へと向かう。
しかし、ヨハンが言っていた“……もう手遅れかもしれませんが”とは、どう言う意味なのだろう?
「あっ、ジーク!!」
彼女の部屋から出てきたジークに声を掛ける。
「…殿下。何の用だ」
「い、いや、少し彼女に話したいことがあってな」
「話?………ちょうど良かった。俺も殿下に報告することがある」
ジークは部屋を指さしながら、はっきりとこう言った。
「あいつとの結婚式の日取りがようやく決まった。
――――1週間後だ」
……………。
……な、何っ!?
「結婚!?ジーク、お前とか!?」
「他に誰がいる。
ああ、そうだ。あいつも俺を望んでくれているからな」
そ、そうなのか……。
「…私は彼女のことが、す、好きだったんだ」
「………」
「絶対に彼女を幸せにしろっ、いいな!!」
「………。言われなくとも、誰よりも幸せにする」
はっきりとそう言ったジークを頼もしく思う。
彼ならば、彼女をきっと幸せにしてくれるだろう…。
「殿下も報われない想いなど忘れて、新しい恋でも探しに行ったらどうだ?」
…っ!!余計なお世話だあぁっ!!!
団長サマ、ほんとに嫌なヤツですね。
こんなのがヒーローって……。
王子は地味だけど、良いヤツです。




