第1話「神官長の神獣様」
座談会でも(神官長が勝手に)言いましたが、トップバッターは彼です。
“誰得?”な話ですが、良ければ読んでやってください。
「―――ああ、申し遅れました。私は神殿で神官長を務めております、アレンと申します」
◇◇◇
『ピィー』
私の視界の端で騎士たちが走り去って行く姿が見えた。
侵入者用のトラップが発動したようだ。
「さすが王立騎士団。行動が早いですねぇ」
私の隣に立っている神官長補佐ロイスがのんびりと呟いた。
「何かあったんでしょうか?」
もうひとりの神官長補佐であるセインはどこか心配そうだ。
「騎士団長が向かったようですし、心配いらないと思いますよ。
しかし、気になりますね」
「何か心配事でも?」
「いえ、そう言うことではないのですが……」
「アレン様が気になるなら、私が見て来ます」
「いいのですよ、セイン。
――――――全員で行きましょう」
◇◇◇
その場に到着すると、遠目からだが騎士達がソレを取り囲んでいるのが見えた。
アレは一体何でしょうか?危険はなさそうですが。
「侵入者……には見えませんね。しかし、あれは…」
「獣か何か……なのでしょうか?」
2人も困惑しているようだ。
私達が近付いていくといきなり視界が白く染まった。
『ピッカーン』
そして、私は見た。その高貴さと威厳に満ち溢れた神々しい姿を。
あ、あれは………いや、あのお方は!
見間違えるはずがない。
この世に2つとないあのお姿。
どんなものにも汚されない、純白の毛並み。
人には触れることなど許されない、雄々しい角。
その身が何者にも縛られないことを表す、自由な翼。
ああっ、その神々にしか聞こえないと言う声を聞けたなら……!!
「神獣様!?」
「なんと神々しい!!」
ロイスとセインもこの方の正体に気付いたようだ。
まあ、彼らが叫ぶのも無理はない。
神獣様はまさに、
「光り輝いていらっしゃる」
そのとき、騎士達があろうことか神獣様に剣を抜いているのが目に入った。
「あなた達、誰に向かって剣を抜いているのです!?
この方を神獣様と知っての狼藉ですか!!」
「「「も、申し訳ありません!!!」」」
「さあ、早く神獣様に許しを乞うのです!」
そう言って無礼な騎士達を平伏させた。
まったく、とんでもない騎士達です。騎士団の教育はどうなっているのでしょう。
唯一、騎士団長が剣を抜いていないことだけが救いですね。
それにしても、神獣様のどこに剣を抜く要素があると言うのでしょう?
神秘さを感じさせる腹部の美しい紋様やあの愛くるしい顔をみれば、己が剣を向けて良い存在ではないと分かりそうなものですが。
その点、騎士団長はさすがです。
食えない男ですが、それを分かっていたのでしょう。
神獣様は地面に額を擦り付けて懇願する騎士達を見ても平然としている。
その威厳あるお姿…。
さすが、神獣様です!!
私はあなただけの僕になりたい……!!!
◇◇◇
王宮内とはいえいつまでも庭に居て頂くわけにもいかないので、私達は神獣様を城内の応接室へお連れした。
ちなみに、ロイスやセイン、騎士達には席を外してもらっている。
「どうぞお掛けください」
神獣様に席を勧め、失礼ながら私もその向かいに腰を下ろした。
騎士団長にも席を勧めたが、彼は立っているつもりのようだ。
「神獣様。先程は騎士たちが失礼致しました。どうかお許しください」
まずは、騎士たちの非礼を詫びる。
しかし、神獣様は特に表情を変えなかった。寛容な方のようだ。
「―――ああ、申し遅れました。私は神殿で神官長を務めております、アレンと申します」
神獣様は私と騎士団長の紹介に深く頷いてくださる。
し、神獣様に自己紹介をしてしまった。どこかおかしくはなかっただろうか。
それにしても、神獣様は侍女に淹れさせた紅茶にまったく手をつけていない。
紅茶はお嫌いなのだろうか?
「紅茶はお嫌いですか?」
そう聞くと、神獣様は静かに首を振られた。
神獣様と会話してしまった。
ああ、神獣様!もうあなた以外の他の誰とも話したくありません……!!
◇◇◇
『バァーン』
重厚な扉があらぬ音を立てて開いた。
……くっ、私と神獣様の2人の世界を邪魔するとは!何者です!?
私を含む室内にいる全員が扉に目を向けると、レオンハルト殿下がいらしゃった。
「珍獣を捕獲したとは、本当か!?」
何と失礼な!!
「殿下っ!!不敬ですよ!珍獣ではなく、神獣様です!!」
「す、すまない…」
殿下にも分かって頂けたのでしょうか。
「神獣とはあれか!?」
やはり、殿下は分かっていらっしゃらなかったようだ。
“あれ”とはどういうことです!?
ここは私が神獣様の素晴らしさをお教えしなくては。
「そうです。神獣様は―――― 」
「古くからの伝承や古文書にもある通り―――」
「つまり、神獣様とは神学的に神にも等しい存在で―――」
◇◇◇
大神官様や国王陛下によって正式に神獣様が神獣様であると認められた。
神獣様は神獣様なのだから当たり前だが。
「神獣様の滞在される場所が、なぜ神殿ではなく王宮なのです!!」
「神獣様は王宮に降臨されたのだろう?それも何か意味があってのこと。
私は、神獣様は王宮に滞在されるのが良いと思うよ」
「王宮には神獣様を良く思わない者もおります。神獣様の御身に危険が…」
「陛下がジークフリートを護衛に就けてくださるらしい。
騎士団長の彼が護衛に就くなら神殿にいるより安全だよ」
「っ!しかし……!!」
神獣様が王宮預かりになったと聞き、大神官様に直訴したが諭されてしまった。
「部屋もたくさん余ってるし、全然良いよ~。
神殿って堅苦しいし、うちのほうが楽しいよね~」
「陛下もこう仰られているし、ね?」
そうして、神獣様は王宮に滞在されることとなった。
後悔は…………している。
ほんっとに、すみません。
初めのほうで“なんだよ、神官長意外とまともじゃん!”とか思ってたら、こんなことに…。
暴走しすぎです(泣)




