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衝動 1


僕は魔術師になった。

魔族にしか使えない闇の魔法を使う魔術師だ。


僕はその強大な魔法で、

多くの剣を折り、盾を割り、鎧を砕き

そして命を奪った。



「許して下さい……私達が何をしたというのですか!?」


「人は、何もできずに、死ぬものだ」



幾つもの魔族の、人間の村を襲っては

泣き叫ぶ彼等を、彼女等を殺した。


だけど僕は満たされない。

この呪いは果たされない。


そう……。


足りないのだ!!!!

圧倒的に足りない!!!!

血が! 肉が! 骨が! 嘆きが! 呻きが! 悲しみが憎しみが!! 

数多の血で僕を濡らせ!!

果ての無い慟哭で僕を満たせ!!


殺しても殺してもまだまだ足りない!

僕の悲しみは呪いはこんなものじゃ拭えない!!



やがて1人の男が僕の前に現れた。



  ――・――



僕は今まさに1つの町を破壊した。

田畑を枯らし、井戸は毒に濡れ、家は崩れ去った。

それでも僕は満たされない。


黒い煙を吐きながら、ゆっくりと崩れていく街並みを

丘の上から見下ろす頃には夜になっていた。

ここはアシュベルの街と呼ばれていたが、

もうそれも今日で終わるだろう。


草を踏む音が背後から聞こえた。

振り返ると、そこには一振りの剣を持った男が立っていた。


「お前が俺の街を……?」


鎧は着ていない。兵士や騎士ではないようだ。

となれば村人だろう。

僕のいる位置に勘付くとは

運がいい。いや悪いのだろう。


「聞いてるだろうがっ!!」


突然、切りかかってくる。

だが振りかぶっては見え見えであたりはしない。



踏み込みが早い。

避ける間もなくその剣は

僕の頭上に降ってくる。


避けれないのなら……消えるまでだが。


僕はスッと夜の闇に姿を消した。


「なにっ!?」


当る直前で、それは宙を切った。

僕を見失い辺りを見回す彼の動作には焦りが見えた。


おそらく闇の魔法を見たのは初めてなのだろう。


「卑怯だぞ! 出て来い!」


言われなくても出て行くさ。

僕は彼の背後から姿を現し、後ろから短剣を突き刺した。

彼の胸から刃が突き出し、

鮮血が舞った。


「うぉぶ……」


突然の致命傷に、その場で倒れ込む。


「げほ……お前、本当に人間……か」


最後の言葉だった。



僕が人間か?

僕は人間だ。

僕こそ人間だ。

僕こそ本当の人間だ。


誰よりも、世界の誰よりも他人の痛みを理解している。

だからこそ、憎むのだ。


僕は死んだ男の髪を掴み持ち上げた。


「僕は人間だ。そして人間こそが怪物なのだ」


夜の闇が駆り立てる。

もっと、もっと、もっともっともっと!!!

屍の山を! 城を! 国を作るのだ! と。


きっとその憐れな国の王は、僕だ……。



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