意識の渦 1
王都襲撃に危機感を感じたハイランド国王は
僕に対する討伐軍を編成し、
何度もオウル村廃墟に押し迫った。
しかしその度、僕は姿を消し逃げた。
怖いのはハイランド軍ではなかった。
それを壊滅させるまでに使う魔力で
自分の体を痛めてしまう事が怖かった。
闇の魔法は諸刃の剣。
相手も僕も傷つく。
しかしその剣は手放すわけにはいかない。
だから逃げるのだ。
やがてハイランド国王は、
オウル村を囲むように砦を築きそれを国境とした。
僕を殺すのを諦め防御に徹したのだ。
そして出来た小さな僕の領土。
ハイランドを暴れまわった結果、
手に入れたものはこんなちっぽけな土地だった。
――・――
アンゼリカ、ローズマリー、……
僕はビンの中に浸してあるそれらを抜き取り、
それを煎じ煮込む事で調合する。
「……足りない」
僕はビンの中にあるハーブを見て呟いた。
魔力水薬に使うローリエが足りないのだ。
ローリエを調達する必要があった。
ローリエは魔力水薬を練成するハーブの一種だったが、
配分を間違えると毒薬になる。
温暖な気候では育たず、この近辺では採取できない。
寒冷地である国境沿いのウドラ山脈にいく必要があるのだ。
僕は家のドアを開けて外に出た。
雨がしんしんと降っていて僕のローブを濡らした。
ウドラ山脈はハイランド王国と魔族の領土の境目でもある。
そこでは絶えず小競り合いが続いている。
日々人間が魔族が殺し殺され、山に捨てられているのだ。
僕は山間の道を歩く。
ふと声が聞こえる。
「大人しくしろ!」
「離して下さい!」
「ママ!」
……兵士だ。
2人組みのハイランド王国の国境警備兵が魔族の母子ともみ合っている。
やがて兵士は剣の柄で母親の首を殴ると
彼女を抱え、泣き叫ぶ子を連れてどこかへ去っていった。
――・――
「ドーン大臣はこんな汚ない魔族のどこがいいんだか」
「王都に住んでりゃ魔族なんて珍しいんだろうよ」
「ま、金さえもらえれば文句はないけどな」
彼等は山間の小屋にいた。
「ん――!」
縛られ、猿轡を噛まされた魔族の母子は身動きできない。
それでも抵抗しようと彼等を睨む。
「おい、母親の方は殺していいぞ」
「大臣様はそういう趣味かよ。気持ち悪いな」
兵士の1人が剣を抜いた。
そして魔族の母親に近づく。
「ん――!!」
魔族の子は必死にもがくが、
縄が体に食い込むだけで動けなかった。
兵士は手馴れた手つきで剣を揺らし、
やがてそれを頭上に振り上げた。
人の本質は悪だ……。
「お前はその母親を殺すのか?」
僕は剣を振りかぶる兵士の影の中から身を乗り出し彼に問う。
兵士は、ひっ、と短い悲鳴を上げ尻持ちをつくように倒れた。
恐怖に顔が歪んだ。
僕は彼に問う。
「お前は、母親を、子供の前で、殺すのだな?」