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プロローグ

稀にきつい描写があります。苦手な方は注意して下さい。



「そんなに商人になりたければ、母さんがなればいいじゃないか!」


そう叫んで僕は家を飛び出した。



僕の名前はアレフ・ガードーナー。

ハイランド王国のオウル村に住んでいる。


僕の家族は、元々は王都に住んでいた。

騎士だった父は魔族との戦争で死んだのだが、国からは何の恩賞もなかった。

父と土地を失った僕と母は、やがて財も費えこの村に流れ着いたのだ。


母さんの僕を探す声が聞こえる。

僕は近くの茂みに身を潜め息を殺した。

今、母さんには会いたくなかった。

僕を商人にしようとする母さんは嫌いだ。

僕は知っている。

今の暮らしが辛くて苦しんでいる事。

父さんが死んでから毎晩泣いている事。

1人息子を養うために……苦労している事。


僕は騎士になりたかった。

父さんを殺した魔族が憎かったから。

母さんを悲しませる魔族が憎かったから。

僕が騎士になれば、以前の生活が戻ってくるような気がしていたから。

そうやって母さんを守りたかった。


それが僕の夢だった。

そんな事を考えていると意識が段々と遠退いていくのを感じ、僕は眠った。


  ――・――


息苦しさに目が覚めると、何だかとても煙い。

木が燃える匂いがする。

はっとして体を起こすと辺りは暗く既に夜だった。

その暗闇の中で木が燃えていた。

家を組み立てている木が燃えていた。


家、が燃えていた。


(魔族だ――)


直感的にそう思った。

母さんを助けなくちゃと立ち上がろうとした時、気付いた。

僕が潜んでいる茂みの前で、誰かが黒い鎧を着た魔族ともみ合っている。

そして悲痛な叫び声と共に彼は倒れた。


隣に住んでいるおじさんだった。

肩から腹にかけて引き裂かれ、傷口から血が噴出している。

思わず吐きそうになり口を手で覆った。

僕は震えながら見つからない事を祈った。


やがて黒い鎧を着た魔族は村の方へと歩いて行った。


母さんを助けなきゃ、と思ったけれど立ち上がれなかった。

今の僕に一体何ができるというのだろうか。

僕が行ったところで同じじゃないのか?

ちらりと目の前に転がるおじさんの死体に目をやる。


(騎士団……)


僕は立ち上がり駆け出した。

この近くには駐屯騎士団の兵舎があるのを思い出した。

助けてもらおうと思った。

母さんを、助けてもらおうと思った。

騎士は勇敢だ。父さんの様に戦ってくれる。そう思った。


僕は走った。

走って、走って、走った。


やがて兵舎が見えると、息を切らせながら夢中でそのドアを叩く。


「お願いです! 助けて下さい! お願いです!」


少しだけドアが開くと不機嫌そうな騎士がその隙間から顔を覗かせた。


「なんだ?」

「オウルの村が魔族に襲われてっ! 僕……母さんがっ!」


言葉が上手く出て来なかったけれど、

内容が伝わったらしく、険しい顔をした。


「本当か?」


騎士の質問に僕は何度も頷いた。

何度も何度も頷いた。


助かる。と思った。

母さんが、村の人が、彼等の命が救われると思った。


「おい、どうした?」


兵舎の中から他の騎士の声がする。

ドアに立つ騎士は振り返り言った。


「いや、何でもない」


衝撃だった。

どうしてそうなるのか分からなかった。


「お願いします! 母さんを助けて!」

「そんな小さな村のために命なんて張れるか」


ドアがゆっくりと閉じられていく。


「ま、待って……!」


僕は必死にドアに手をかける。


「しつこいぞ。クソガキ!」


突然、下腹部に衝撃を受けた。

その騎士の膝が僕の腹を蹴り上げたのだ。


「うぅぁ……」


僕は呻き声を漏らしながら、その場に膝を着いた。

ドアがゆっくり閉まって行く。

僕は痛みに耐えながらそれに手を伸ばしたが、

やがてドアは閉まり、ガチャリと鍵の閉まる音が聞こえた。


絶望に涙が溢れて来る。

目の前で起きた事が信じられないのだ。


どうして?

夜だから?

眠いから?

面倒だから?


「開けて下さい!」


泣きながら閉じられたドアを叩いたけれど、反応はなかった。


僕は踵を返し、村に向かって走った。

ここまで来るのに体力を使い切った僕の足は、

まるでガラクタのように歪な動きをした。

更に蹴られた腹はズキズキと痛む。

何度も足がもつれ転んだ。

それでも立ち上がりまた走った。


母さんに謝りたかった。

喧嘩なんてしなければ良かった。と思った。

母さんが助かるなら商人でも何にでもなる。とも思った。

もし神様がいるなら、と奇跡を望んだ。


村まではまだ遠いのにも関わらず、僕は限界だった。

転がるように倒れ気を失った。


薄れゆく意識の中で呟いた。


「母さん……」





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