表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

◇5

下品な蛇足です。



「聞いたよ!うまくいったんだって?」



出社した私に開口一番そうぶっ込んできたのは、毎度お馴染みちょいとお尻がたわわな同僚の夏季だった。

私は彼女の首根っこを掴み、今入った扉を出て女子トイレに連れ込む。


「ななな…!?夏季サン…!?どどどうして…!」


そこまで言ってはた、と気付く。

昨日部長の口から『夏っちゃん』という言葉が出た事を。


「拓ちゃんから全部聞いたわ!翔平(しょうへい)からも珍しく絵文字付で色々ありがとうってメール来たし」


見て見てとデコった携帯を出しキラキラ星がついたメール文を見せて貰ったが、その送信主の『忍足翔平』という文字を見て口があんぐり開いた。

想定しうる一番嫌な仮定が浮かび、そんなまさかと頭を振りながら恐る恐る聞いてみる。


「拓ちゃんって…翔平って…まさかね!あはは!」

「井手拓馬(たくま)は私の彼氏で、忍足翔平は私の従兄弟だよ」


キャピッと肩を寄せ、お尻を突き出して言った。

うわぁぁああああああああ!!!!

そのポーズはとても可愛く私の理想ではない尻だが非常にマニア心をそそr…ってそんな事言ってる場合ではなくってだな!

部長と付き合ってるのは内緒だよ~と言ってる同僚の肩を掴みガクガクと揺さぶった。それはもう思いっきりさ!


「なん…っ!?え…!?知…っ!?」

「どうどう。落ち付きたまえまどかチャン。大団円になった今、全て話してあげよう」


洗面台に腰をかけ、長い脚を組んだ。

そして白くて細い綺麗な人差し指を顎に当て、妖艶に微笑んだ。




夏季曰く私達が初めて出会った日、自分のデスクに帰った忍足さんは自分の権限を使って個人情報(を勝手に見ていいのかは知らないが)を調べたり夏季に連絡をして情報を集めているうちに、容疑者(?)は私だと浮上し、全ての情報が筒抜けになったらしい。


そして第1回お触り会の後、『二度と負けてたまるか』という鬼気迫るヤツに気圧され、夏季は朝方までジャンケン必勝法を掴むのに付き合わされたと。おおうなんて負けず嫌い!

そこで気付いたのが夏季とのお茶当番ジャンケン。その時に出した手とヤツとの対戦で出した手が同じだったと気づいたという。

試しに次の日同じ手を出したらそれが功を奏し、ヤツの百発百中という連勝に結び付くという話だ。…私…そんなに単純だったのか…。


で。何も知らない私が会議室に向う間にヤツにメールでチクり、私が撫でまわされていたという訳だ。


それで仲良くしている2人を見つけ、抜け駆けはずるいとゴネた部長こと井手さんが話を聞き出し仲間に加わったそうな。

ちなみにストッキングの予備は夏季が用意したものらしい。やり方も夏季が教授したという。

…ホッ。なんか安心した。その用意周到なのはいただけないが。いつかはヤる気満々だったんじゃないか。


しかし。


「…つまり、最初から夏季と忍足さんがグルになって私をハメようとしていたって事…?」


そっちの意味ではなくてね!純粋に罠という意味ででね!


「いやだわぁ、ハメるだなんて人聞きの悪い!私は変t…おっと、偏食の従兄弟の恋の為にひと肌脱いだだけなのー」

「…ふぅん…。じゃあなんでジャンケンに負けたくないのよー。どれだけ負けず嫌いなの」

「まぁ負けず嫌いもあるけど…」


何やら珍しく言いよどむ夏季。

明らかに知っている風なのに、教えて貰えないのは非常に気になるじゃないか。


「何?教えてよ」

「それはやっぱり本人の口からの方がいいかも。変わりにヒントをあげる。知ってる?あいつヤる時は絶対足触ったり見たりしないんだって!なんでだと思う?」


きょるん、と首を傾げられても、知るかそんなの!というか朝っぱらからこの子は…!

答えられずにいると、手を引っ張られ女子トイレを連れ出された。

そしてどこかへ向う足取りの中、振り返って満面の笑みで爆弾を落とした。


「萎えるんだって!」


廊下で歩いていた人達がぎょっとした目でこっちを振り返った。

こ の 子 は … っ !


そして忍足さん、極端すぎる…!私でもそこまでじゃなかったのに!

そんな潔癖ではイキ…生き辛いだろうに…!







夏季に連れられた先は、喫煙ルーム。

箱の中が煙たく覆われている中、知っているお尻、もとい顔2つが仲良くお喋りしていた。今日もいいお尻です。チェックはバッチリです。

私達に気付いた2人は煙草を消し、少し煙を纏わせながら箱の中から出てきた。

近くに寄ってくる忍足さんは、いい香りが負けて煙草の匂いがした。


「おはようございます、まどかさん。朝から会えるなんて思ってなかったです」


嬉しそうに私の目を見つめにっこりと微笑んだ。


「おはようございます、忍足さん、井手部長。今日もいい天気ですね」

「おはよう、まどっち。事務的な挨拶ありがとう。もうちょっと砕けてもいいのに。忍足の彼女なんだからさー」


…まどっち?

変なあだ名で呼ばれた気がして部長を見ると、大きな図体で泣き真似をしていた。ううん…髭が邪魔をして全然可愛く見えない。

そんな部長に対して隣にさらっと身を寄せる夏季。おおうこっちはなんて可愛いんだ。


「ほらまどか。翔平に聞きたい事あるんじゃない?」

「え、私に?」


目を丸くして少し頬に朱を差して私を見下ろしてくる。

相変わらず大きいくせに、やる事なす事いちいち可愛い。それも計算だとしてももう許してやろう!


「あ、はい。えっとですね」

「なんでしょう」

「どうしてジャンケン負けたくないんですか?私に対する嫌がらせなんですか?」


イエスと答えられたならば、次はもう少し揉む力と撫でる力を緩めてもいいと言おう。

結局昨日分かり合えた(?)後もそう簡単に触る事が許されず、ラッキースケベレベルの偶然を装わないと触らせてくれなかった。


「っ」

「ぶっ」

「ふふっ」


三者三様で噴出された。上から忍足さん、部長、夏季の順番だ。

後者2人は肩を寄せ合い肩を震わせている。

やはりここでも私は除け者なのか…!

居心地が悪くなって忍足さんを睨むと、ふよふよと視線を彷徨わせた挙句、口をきゅっと引き結んだ。

むむぅ…。そんなに言いたくないのか頑固者め。ならば仕方ない。押してダメなら引いてみるぜ。


「…別に言いたくないならいいんです」

「え…」


少し目を伏せ寂しげに言うと、忍足さんの目尻が少し下がる。

両手が私の方へ伸ばすも途中で動きを止め、引いたり忍足…押したりと、いかにも慌てたような動きを始めた。

それが面白くて笑いを堪えるのが大変だった。


「…た、ただ、もやもやするので今日は夏季とお昼を過ごします」

「っ」

「えっ!本当!?やったぁ久しぶりだー!」

「ああ、何やら夜の食事までに網タイツ穿きたい気分になるかもしれないですね」

「っ!?」

「何、網タイツ駄目なの!?何で!?」


私のイジリに気づいた夏季が私に抱きつき、部長が忍足さんの肩を抱く。

目に見えてうろたえる忍足さんの顔色が、赤やら青やら忙しなく変わっている。

手で口を押え、それでも言いたくなさそうで、本気で言いたくない事なのだと思うと少し申し訳なくなる。


「あ、あの忍足さん…、じ、冗談ですからね」


思わず前言撤回してしまった。早っ。私の意気地なし!


「…っ、こ、こんな事…言うものじゃないです…。…本当に…貴女に引かれ、そうで…」


私の手を取って、消え入るような声で言った。

…今更何に引くと言うのだ。

なんて、失礼な事は声に出して言わないけど。


「だけど…」

「…だけど?」


握る手に力が込められ、縋るように潤んだ瞳を向けられて思わず唾を飲んだ。う、麗しい…!

嫌いにならないでとか言うのだろうか。それはそれで可愛いじゃないか。


「網タイツは絶対ダメです…!貴女の神ラインに余計な筋を入れる挙句肌の質感まで低下させますし何より魚の鱗を彷彿とさせ全然エロくない上手触りが最悪ですのでまどかさんの美しい足には!全く!!これっぽっちも必要ないのです!!!」


途中から懇願→説得の顔へと移り変わり、声高々に私に説いた忍足さんに、周りの2人がビシリという音が聞こえそうな程目に見えて固まった。そして顔が引きつっていた。


「ちょ…おま…凄ぇな…!?そこまでだったのか!俺何言ってるか全然分かんなかったんだけど!」

「わぁ翔平がこんなに熱く喋ってるの初めて見た!内容がアレだけど!」


2人で忍足さんに捲し立てるが、その視線はまだ私から逸らされていないので返答を待っているのだろう。

ならば返事は1つしかない。


「そうですか。じゃあやめておきますね」


人の嫌がる事をしてはいけない。

私もあの尻がブカブカのトランクスを穿いていたら泣いてしまう。折角の尻神の究極の造形美を隠してしまう上に揉んだ時に布がずれてしまうあの感触が許せない。

理解し合い、うんうんと2人で頷き合っていると、横にいた夏季に頭を小突かれる。


「こら!そんな会話が出来るのにどうして本題はいけないのよー!!」

「ほんとだよ!あーもうまどろっこしい!見ててイライラ胸やけするぜ!あのなぁ、まどっちよぉ―――」

「い、井手…っ!」


慌てた忍足さんが部長の口を封じようと手を伸ばすも一歩遅く、


「いくら堅物とはいえ、好きなヤツにケツ揉まれまくったらちんこ勃っちまうんだぜー」


ぜー、と伸ばしている部長の口がようやく忍足さんの手によって封じられた。

よって私は全部聞こえた。

横にいる夏季を見ると、うんうんと頷いている。

ああ…そういえば昨日そんな風な事言ってたような気がしないでもない。ここに繋がるのか。

最初の日の昼間大変だったんだぜーとゲラゲラ笑っている部長。なんでそんなに詳しいんだおい。まぁ…それはいい。それは置いておいて。


真相は分かった。

だけどこれだけは言わせてもらおう。


「朝っぱらからどうして伏せ字当てないんだこのバカップルが!!!」


削除されt…あ、いや、大人としての秩序を守ってぼかして欲しいんだけども!

忍足さんの方を見ると、おおう…可愛そうに…あんなに真っ赤になって…。お尻チャンも超可愛くピルピルと震えているよ…。


「お…忍足さ…」


おずおずと手を伸ばすと私から距離を取り、腕で顔を隠すように覆ってそのまま喫煙ルームを飛び出していった。


「いじめすぎよぉ拓ちゃん」

「…だって仕方ねぇじゃんー。あいつが真っ赤になってうろたえる所なんて初めて見たんだからよぉ」


ツンツンと部長の頬を突く夏季。ポリポリと髭に覆われた顎をかく部長は、ちょっとやりすぎたなと顔が反省していた。

うーん、2人の忍足さんへの好意が重い、という事でいいのかなぁ。


「…ありがとうございます。きっと私だけじゃ教えてくれなかったと思うんで。私、行きますね」


ごめんね、とヒラヒラと手を振る2人を尻目に、忍足さんが行った廊下に向った。




直線の廊下をしばらく走ると、不自然に開いている昇降口の扉があった。

音を立てないようにそっと開けて覗くと、手摺に肘を置いて俯いている忍足さんがいた。

静かに隣に立つと、こちらを見ずにすみません、と声をかけられた。


「…あんな事聞かされて、引いたでしょう?」

「いえ?今更それ位では引きませんよ。それに忍足さんは何も悪くないですよ。私の十数年培われたこのテクニックがいけなかったんですよ、きっと!」


私の技に応えてくれたという事だろうと手をわきわきすると、ピクリと身体が動いた。

するとようやく顔を上げ、私を見た。

その顔は少し赤みが引き、潤んだ瞳が長い睫毛に縁どられ男の色気を出していた。

そしていつも私を翻弄させていた男が今、この手の平の上で転がっているという謎の優越感が私を支配し、すっかり気分が良くなった。


「いつも余裕で私を触るのに、いざ触られるとダメだなんて可愛いですねぇ」


しかし、恥ずかしがる男の人というのは結構ツボにくるんだね。キュンキュンする。

1回目のお触りの日、尻に集中してばっかりで惜しい事をした。きっと頭上でこんなに顔を真っ赤にさせて我慢していたんだろう。

もう1度チャンスがあるならばしっかりガン見しようと心に固く誓っていると、手摺にあった腕が私に伸しかかった。


「忍足さん…!?こ、ここ外…!見えちゃいますって…!」

「…私が、余裕で貴女に触れていると?…それは間違いですね―――」


ぐっと身体で押され、手摺にはりつけになり、あまりの息苦しさにミンチにでもするつもりかと抗議しようと手を上げようとするも、それも叶わなかった。


「いつだって必死でしたよ。―――君をその気にさせる為に、自分の欲望を抑える為に、ね」


まどかちゃん、と足の間に割り込ませられた忍足さんの太ももが身体に密着し、手を取られたままスカートの上から自分の太ももを撫でられた。


「俺の尻を揉むのはいいが、正面から抱きつかれる形で顔を埋められて。挙句胸を押し付け、イイ香りを漂わせてくれれば。いくら我慢してもしきれる筈ないだろ?」


段々と熱が上がっていくのが分かる。

首筋にかかる息が酷く甘い。

私を覗き込む瞳にくらりとした。


グッと押し付けられる熱くて堅い身体に腕を回そうとした時―――


キーンコーンカーン


始業を知らせる鐘が鳴り響いた。

合わさらなかった唇が、小さくため息をついた。


「…うーん…参ったな。このままどこかにしけこみませんか?」


息が当たる近すぎる距離のまま、ツンツンと頬をつつかれる。

いたずらっぽく笑うヤツの目の中に、物欲しげにぐだぐだに惚けている私の顔が見えた。

ヤツのセリフにハッとして視線を逸らし、意識を戻す。通常に。そして片腕の包囲網を突破し、距離をとってヤツを睨んだ。


「…!し、しませんからっ!仕事あるでしょう!」

「それは残念」

「ていうか本当に貴方達3人似た者同士ですね!朝っぱらから何を考えているんですか!?」

「んー。何って、ナニ?だってようやく貴女が手に入ったんですよ?日がな一日触れていたいと思うのは当たり前です。貴女は私に触れたくないですか?」


ニコニコと笑顔で言い募るヤツに、内心頭を抱えた。

本当にどうしようもない変態に捕まってしまったんではないか。

こんな私の方がまだ可愛く見えるんじゃないだろうか。


このままでは私の秩序も、足もとから崩壊していきそうで。

非常に怖い。



「好きです。まどかさん」



ヤツの言葉が非常階段に響いた。

それは私とヤツの戦いのゴングを鳴らしたかのようだった。





おそらく、ヤツが私の足に絡みついた時にはもう逃げられなかったんだろう。


雁字搦めに捕らえられ、ずるずると引きずり込まれてしまった。




狡猾で小悪魔なフェチ男に。






前途多難な、長い長い恋の始まりだ。






これにて最後です!

こんな変態ばかりの話を最後まで読んでくださりありがとうございます!!

当人これはギャグ恋愛ファンタジーとカテゴライズしております笑((´∀`))

フェチって同じ部位?場所?でもそれぞれなので面白いですよね★

そして相変わらずの粘着系優男ヘタレヒーローで申し訳ない!やっぱり好きらしいです。

だがちゅっちゅは減らしたぜ!!(*´σー`)


馬乗りになって尻を揉む描写が入れられなくて残念です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ