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サンタ狩り

 女性は一旦ステージから降り、何か大掛かりなものの準備を始めた。スクリーンや資料などの準備だろうか。

 しかし、今さっきの言葉を聞かされて準備の間会場は静かなはずがなく、一度は静まった空間も騒がしくなり始めた。

 ざわざわ……、そんな効果音が似合いそうな状況だった。違うかもしれない。

 周囲が騒がしい中、手持ち無沙汰になってしまった。

 ざわざわ……圧倒的な退屈……ッ!

 そんなわけで、なんとなく隣の学生らしき男に話しかけて見ることにした。

「君は、この広告どう思う」

 軽く肩を叩き、手にしていた広告を片手に学生に話しかけた。こんな状況だからか学生もすぐに返答してきた。

「わくわくしかないっすよ! なんですかっ! このサンタ狩りって!」

 こちらの思惑と違って嬉々とした表情で返してくる学生。

 暗がりで容姿はっきり見えないが、たぶん俺より年下だろう。

「いやいや、いかにも怪しくないか!?」

「分かってないっすねぇ! そこがいいんじゃないっすか! 怪しさ、不自然さ、面妖さ、そこにロマンを感じるじゃないっすか!」

 なかなか社交的な学生である。それにしてもこの懐かしくもムズムズした感じは……

 その時、ビー、という映画館で聞きそうな低重音が会場内に響いた。準備が整ったのだろう。

 言葉を何かつなげておこうかと学生の方に目を向けたが、学生は何かが始まるステージの方に興味を持っていかれたらしく、若干前のめり気味でステージに釘付けになっていた。

 俺は、頭の中で思いついた言葉を四散させ、ステージに注意を向ける。

 先ほどの金髪巨乳な女性がステージに上がってきた。変わった点は女性の後ろに巨大なスクリーンがついたことだろう。何かを上映するらしい。

 そこで、俺の中で結論が出た。

 なるほどな、やっとわかったぞ。サンタ狩りという主題の映画を取るんだな、サンタを狩る理由は分からないが――腹いせか何かだろう。

 先に気づいてしまった、達成感に浸っていると、女性が話の続きを始めた。

『お待たせしました。申し遅れましたが、鶴島彩ツルシマアヤと申します、引き続きよろしくお願いします』

 鶴島さんというらしい、正直そんなことはどうでもいい、タイミング悪いよ鶴島さん……

『さて、本題である『サンタ狩り』ですが……』

 ごくん……、とつばを飲み込む音が聞こえた気がした。

『……口で説明するより、映像を見たほうが早いでしょう、後ろのスクリーンに注目くだ ステージに集まっていた光もほとんど消灯された。代わる代わる、スクリーンに一枚の写真が映し出されてた。

 数分後には完全に撤去されるであろうほどにボロボロになったすべての装飾の数々が映しだされていた。

 ん……この写真何処かで……?

 何処かの広場だろうか、よく見るとサンタクロースの人形や、モミの木などクリスマス用の装飾だろう。そして、遠くに映しだされているビル群……

 思い出した――

『見覚えのある方も多いんではないでしょうか? では次のスライドを』

 言葉とともに、次の写真が映し出された。

 先ほどの写真と同様にクリスマス用の装飾がほとんど破壊されているのだが、一本だけ巨大なモミの木がしっかり根を地面に張っていた。

 そう、あれは今朝のニュースでやってた――

『これらは、一昨年と昨年にあったクリスマス連続破壊事件と一般に言われている事件の写真です』

 しかし、その事件と今回の広告になんの関係があるのだろうか。

『率直に言えば、これらの事件の真犯人を私達は知っています。それも破壊する決定的瞬間も見届けてきました』

 わぁ、嫌な予感しかしない……

 他の人達も俺と同じ事を思ったのか、周囲のざわつきを感じ取れた。

 サンタ狩り、それは映画なんていいものじゃないかもしれない。先ほどの発想と達成感が恥ずかしくなったが、それどころではない。

 女性は話を続ける。

『そして、この事件と直接関係のある仕事――それが今回の広告の内容です

 ここからの話は突拍子もない、現地味を帯びない、奇怪なお話となりますが、今回の広告を見てここに来て下さった方達なら飲み込んでいただけると思います』

 さて、どっちだ。女性の次の言葉は攻撃か守備なのか。それだけで話の意味ががらりと色を変える。

 危機感から反射的に俺は非常用の出口を探した。会場全体を見渡したが、ソレらしいものは見つからない。

 女性は話を続ける。

『今回の事件の真犯人は、サンタです』

「はっ?」

 思わず声が出てしまった。静かだった会場に声は響き、一瞬視線が一点に集まる。自分の声だと気づくのに数コンマ。自分に視線が集まっているということに気づくのに数秒。 うわぁ、と身じろぎして顔を隠したいとも思ったが、余りの疑問に声を張って質問する。

「サンタってあの赤い服で空を渡るトナカイに乗ってくるやつですか?」

 俺の言葉に、会場の沈黙が破られ、波紋を立てるようにざわめきを帯びた。

 女性が一度静かに、と一言断りをいい。こちらに視線を向けた。

『そう、そのサンタクロースです。あの事件は複数のサンタが12月24日の夜中から12月25日の明け方に行いました』

 会場が騒がしくなるより早く、矢継ぎ早に言葉をつないだ。

『先程も言ったようにこの話は奇怪でにわかに信じがたいでしょう。しかし、事実です。ここから話すことに虚言はありません。信じてください、とは言いません。これは事実であり私達の二年間の記録なのです。』

 辺りの騒がしさは収まり、全員の視線が女性に集まっていた。

 女性は一呼吸置くと、『サンタ狩り』について語りはじめた。


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