出発
翌日、朝の日差しによって睡眠から起床へと頭が切り替わっていく……。
はずなのだが、冬というのはどうにも布団の中の居心地のよさが良くない。俺は携帯のアラーム機能に向かって、あと五分、あと3分、あと1分だけ……、と一人半目で、語りかけていた。
しかし、携帯のアラームも常に進化を遂げているらしく、どんどんアラームの音とバイブはどんどん大きさを増していく。軽く騒音の被害で訴えられるところでやっと布団から出ることに成功した。
仰向けから、直立二足歩行に至るまでおよそ30分。俺はベッドから少し離れた机の上にある携帯のアラームを止め、実家ぐらしの癖か、
「おはよう」
朦朧とした頭は小さく呟いた。
冬の寒さ特有の朝を気だるさのなか、洗面所へ向かい、冷水に顔を突っ込む。
「ぷっはああ!」
思わず声が漏れた。
覚・醒・完・了!
時間は――7時半か。予定の9時半、10分前に着くとしてもまだ時間に余裕はある。
俺は慣れた手つきで朝食の準備をし、てきぱきと机の上に並べる。
「いただきます」
そう短く唱え、箸で朝食を食べ始めた。そして、気づいた。
あれ、今日クリスマスイブじゃね? あの松山ですら朝から恋人とイチャイチャしていると思うと、自分の今置かれてる状況が悲しく――悲しくないもん! ボク、カナシクナイ。
気を紛らわすために、光の速度でテレビを付けた。現実逃避ゆえか、いつもはぼんやりとしか見ていないテレビの内容が頭に入ってくる。
『(リポーター)いやー、今日も賑やかですねぇ! この四奈川――』
あれれー、これはこれは、盛んな若者たちが沢山写ってますねぇ、なんの話題でしょうかねぇ?
『(リポーター)今日は、どんな予定ですか? (若い男)いやー! それはお楽しみですよ! (若い女)気になる――』
ポチッ、無機質な音とともにチャンネルが切り替わった。次はニュース番組ならしい。
『(ニュースキャスター)今年は起こるのでしょうか、クリスマス装飾破壊事件――』
クリスマス連続破壊事件。それは、我らクリスマス、もとい降誕祭団体の希望であり……
『(ニュースキャスター)20○○年は市部矢の大通りの装飾がすべて破壊され、その翌年20○○年は四奈川のホテル前装飾がほぼ破壊されました(コメンテーター)四奈川の事件の時は、大きなモミの木が一本だけ残っており、希望の木などと冗談が飛び交いましたね~』
ここ二年間12月24日の深夜、と思われる時間帯にクリスマス系の装飾が破壊される事件が起こっていて、今年も起こるかという話題ならしい。深夜、と思われるというのは、どうにもこの事件の目撃者がいないそうで真相はわかっていないらしい。
ふん、クリスマスだってのに、暇な奴もいるもんだぜ……。
しゅびびん! とチェンネルを切り替える。
『(パーソナリティ)クリスマスに恋人と過ごすという方ばかりでなく、家族とはもちろん、、友人、ペットなどいろいろな過ごし方を予定する人がたくさんいますねー』
これはアンケート番組だろうか。
『(パーソナリティ)クリスマスの予定についての心境はいろいろ送られてきてますねー、「今年のクリスマスは特別!」「もうやめろよ」「べ、べつに宗教上の理由でクリスマスが無いだけなんだからねっ」「来年から一人暮らしだから家族と過ごすクリスマスは最後になりそうだ」などなど』
いろいろあるなぁ、しかしクリスマスに予定がある奴ってこんなところにメールを送ってないよな!
ポッチとな、適当にチャンネルを回していくと、なにやら壮大な音楽が流れる番組を発見した。荒野を背景に大量のサンタがあさっての方向を眺めていた。
『(ナレーター)世界を救う、サンタ達がいざ内紛で荒れている地域に笑顔を取り戻しに出発します!』
どうやら、ドキュメンタリーならしい。世界を救う、か――
『(ナレーター)昨年、いや、この企画が動き始めたのは三年前のことでした――』
こんなことを俺たちもやるのだろうか。
時計に目を向けると、時間もいい頃合いだった。テレビの電源を切り、適当な格好に着替え、身支度を済ませる。
「行ってきます」
誰もいない部屋の中に向かってひとりごちた。
テレビを見ている風にするために『』の中に()を入れてみたが、少し見にくいかもしれない。