プロローグ
この街にはイケメンが多いい。左を見てもイケメン、右を見てもイケメン、その事に違和感を感じたのは私が小学5年生の時だ。私のお父さんも、お兄ちゃんも、近所のお兄さんも、皆テレビに出れるんじゃないかってぐらいイケメンだ。周りがイケメンだらけだから特に騒ぐ気にもならないけどね。
そして違和感がついに恐怖になったのは中学生の時、イケメンだらけの世界だと気付いてからはもう恐怖しかなかった。本当にイケメンはいらん。イケメンなんか滅んでしまえ。毎日、お父さんとお兄ちゃんの顔を見て脅える生活なんて嫌過ぎる。
違和感に気付いた理由は小学生の時に旅行に行った時だった。今までは、私の地域のその近くの宿とかに泊まったり、親戚の叔父さんの家に泊まりに行ったりしかなかったから、すごくテンションが上がった。そして、初めての県外の世界。そう!!その時に私の中に不信感が湧きあがったっ!!どこを見てもイケメンがいないっ!!そこそこな顔はいたがいつも超絶イケメンを見ていたせいで普通の顔にしか見えなかった。いや、むしろブスの領域っ!!速攻私は窓から視線を戻して、父さんと兄さんの顔を見ちゃったよ。あまりにも衝撃だったからねっ!!だけどお父さんやお兄ちゃんはごくごく普通の顔で、見なれている顔で、ここで私は初めてお父さんとお兄ちゃん、そして私の周りの人間が皆イケメンなんだって気が付いた。今までの顔基準で世界を見てはいけなかったんだ、そう気付いたよ。それからはイケメンが恐くて恐くて、今まで仲が良かった幼馴染の男の子も、男の子の友達も今までだったら普通の平凡顔にしか見えなかったのに、イケメンに見えて、今までイケメンだと思っていた人たちはもの凄い超絶イケメンに見えて、今まで根暗って言われて女子に煙たがられていた同じクラスの男の子はイケメンな顔をしていた。わお、今まで気付かなかったよ。
この時からだ。私が男と話せなくなったのは。
でも、まだこの時はよかった。うん、良かった。まだ恐怖心より違和感が勝ってたからね。
そんなこんなで私が中学生になったある日、私の友達の音々ちゃんが雑誌をちょっと興奮気味に見せてきた。最初は不思議に思ったよ。この雑誌が何なんだろうって、そしたら音々ちゃんがあるページを見せてきた。”イケメン特集”と書いてある記事。見てみるとイケメン達の写真が載っていた。そう、載っていた。イケメンが。ここである恐怖心が生まれる。このイケメンは私基準のイケメンだ。私の周りにいたらむしろブスだろ位の顔、私は音々ちゃんの返答にただただ驚くしかなかった。音々ちゃんはこの人たちをイケメンだと、そしてこの学校にはこんなイケメンがいないからなーって言った。いやいやそれはおかしいだろ、私は慌てて音々ちゃんにこのクラスの男子もレベル高いじゃんと言ったら、音々ちゃんは不思議そうな顔をした後、そうだね康祐くんはカッコいいよねーと頬を染め、黄色い声を出しながら私の幼馴染だけを褒めた。康祐くんは私の幼馴染で私が超絶イケメンだと気が付いた子だ。でも違うだろ、周りの男子だってイケメンじゃんっ、康祐くんには負けるけど・・・。
ここでついに私は気が付いた。私だけがこの街に住んでいる人たちのイケメンさに気付いているんだって。
私はイケメンに恐怖を感じてしまった。だっておかしいじゃん今まで私がイケメンだって思っていた人たちがこの雑誌に載っている普通顔の人たちに負けてるんだよっ?!違和感ありまくりで恐すぎるよっ!!
そして、私はある事に気付いた。というか気付かされた。それは私が修学旅行で沖縄に行った時。そこはイケメンだらけだった。音々ちゃんはイケメン大好きだからきっと喜んでるんだろうなぁと音々ちゃんを見たときだ。そうデジャブを感じた。音々ちゃんは目の前にイケメンがいるのに何の反応もしないのだ。
ここも私の街と同じなんだと分った。それから私は家族旅行をするとき積極的に色々なところに行ってみた。ついに私は分かった。それはある法則性だ。イケメンだらけな場所は有名な場所にしかなかった。東京、大阪、沖縄・・・そう、よく漫画やゲームなど二次元で題材として書かれるような場所。特に東京は凄かった。どこを見てもイケメンしかいない。もの凄く恐かった。
そして超絶イケメンの法則も分った。バスケ部だ。近所のお兄さんも幼馴染も皆バスケ部だ。しかも、イケメンだらけの場所の学校は絶対に全国に行っている。そこであれっと思った。まるでこれはあの有名なテニス漫画のようではないかと。ひたすら騒がれているイケメン達・・・、王子様ではないか。気付いてしまった。私の世界は漫画の世界なんだって事をっ!!しかも少年漫画の世界だと!!
それ以降イケメン=恐怖&漫画関係の人物に繋がってしまい、幼馴染はおろかこの街の男子全員に恐怖しか湧かなくなってしまった。お父さんとお兄ちゃんにもだ。二人は反抗期がきたと騒いでいるがそれも恐怖しか湧かなかった。めっちゃ恐い。
しかし、私のお母さんは反抗期ではなく私が男子恐怖症かは男嫌いになってしまったと悩んでいる。そりゃそうだろう反抗期にしたらおかしいからだ。男をみたら過剰反応し、そして極限まで離れる。どう見ても拒絶反応だ。だけど、気付いてくれ。旅行先ではそんな反応見せてはいない。むしろ逆ナンしそうな勢いだ。イケメンでなければの話だけどね。フツメン最高ー!!家族にはバレていないが最近の私の趣味はフツメンを見つけて写真に取ることだ。決して盗撮ではない、私の心のより所である。タイプだったら逆ナンをしてメアドゲット!今私の携帯にはフツメンのメアドで一杯だったりする。
この世界について気付いてからの私の人生、あまりの孤独感にたびたび一人ひっそり泣いたことは数知れず、誰かにこの気持ちを曝せないままついに私も高校生となってしまった。
神様とやらがいるのなら言わせてくれ、てか言わせろ。
なぜイケメンばっかなんだっ、私はフツメンが好きだっ!!!!!!!
「夢子ちゃん」
「ん、どうしたの?音々ちゃん」
一番の親友の持田音々ちゃん。少しくせっ毛の髪を緩く二つにくくっている。ぶっちゃけ言う。もの凄く可愛い。親友のとか女の目とか全部放置して、メチャクチャ可愛い。私が思うにこの音々ちゃんこそがこの漫画のヒロインなんだと思っている。だってバスケ部のマネージャーだし、音々ちゃん可愛いし。ぶっちゃけ、私はこの世界が漫画だと気付いてから主人公を探してみた。そして高校生になってついに見つけたのが一年でレギュラーいりしたイケメン君。なんとあのテニス漫画のように帰国子女でバスケが上手でイケメン、そしてバスケ部部長にお前はこのバスケ部のなんとかかんとか言われて認められて、もう完璧主人公じゃん。きっと今からこの漫画は始まるのだろう。
「夢子ちゃんと今日遊ぶじゃん、それなんだけど・・・」
「どうしたの?用事できた?」
「何か部活のミーティングが入っちゃって、嫌だと思うけど部室前で待っててくれないかな?」
「絶対イヤ」
「男嫌いなのは知ってるけど、お願いっ!!」
「っちょ・・・・・はぁ、分ったから頭上げて、私が悪いみたいじゃんか、てか男嫌いじゃないし」
「いやいや、夢子ちゃんそれで男嫌いじゃないって、おかしいよっ!!」
「・・・そうかな、」
「そうだよっ!!いっつも男の子の前だと嫌そうな顔するし、完璧男嫌いじゃんっ!!」
「そ、そうだね・・言われてみれば、そうかもね」
頬が引きつるのを気にしながらも笑顔を作る。そうか、私は友達にまで男嫌いだと思われているのか。いや、まあ嫌いだけど、イケメンだし、でもフツメンは超好きだよ。皆の前ではそんなこと言わないけどね。だって皆の周りにいるイケメンは皆にとってのフツメンだし。私の感性がおかしいとか思われるのイヤだし。
「それじゃあ、待っててねっ!」
「おっけー、頑張ってねー」
少し申し訳なさそうに眉を下げる音々ちゃんに手を振った。