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桜、時計、本棚

作者: 羽賀優衣

僕は窓から流れる風を感じて、本を閉じて視線を外に移した。

視線の先には花びらを舞い散らせている桜。

花びらが部屋の中に舞い込んでくる。僕はそっと手のひらに花びらを乗せて、眺め始めた。

二年前、入学した時もこんな風に桜が咲き乱れていたような気がする。

時間が経つのは早いものだ。

つい昨日のことに思えるのに、二年も前の事なんだから。

そう呟いて、花びらを机に置いてから本を本棚に戻し、また違う本を手に取り、再び席にもどった。

学校の一階にある図書室の 窓際の席。

そこが僕の定位置だ。

三年になり、進路も決まってやる事がなくなったので、放課後をここで過ごしている。今日はその最終日。明日で卒業だ。

本を読むのは楽しい。

時間が流れるのを忘れられるくらいに楽しい。

新たな旅立ちへの不安を忘れられるくらいに。

席で次の本を読み始めた僕の元にまた、花びらが飛んできた。

若干邪魔だな、と思ったが、気にすることなく、僕はただ本を読む事に集中した。

そうしている内にチャイムが鳴り、最終下校時刻になってしまったので、僕は 昇降口で靴を履き替え校門に向かった。

僕は数メートル歩いて歩みを止めた。

目の前に広がる光景に心を奪われた様に止まってその光景をじっくり眺める。

そこにあったのは桜の雨が降る桜並木。

僕の新たな始まりを祝う様な、一つの終わりを悲しむ様ないろいろな表情を見せながら、雨を降らしている。

背中を誰かに押してもらっている様な錯覚を覚えた。

不思議なものだ。

入学の時には何も思わなかった桜の木に、今、こうして励まされているのだから。

桜の花は、春に綺麗に咲く。

夏にはもう散っている。

花びらではなく、緑の芽に変わっている。

芽になってしまうと、人には見られなくなってしまう。

だが、次の春には再び綺麗な花を咲かす。

咲いている時期は短い。

僕は人の一生に似ていると思う。

人が輝いていられる時間は長くは続かない。

盛者必衰という言葉がそれを示している。

今、僕は花を散らして、新芽を出した状態だ。

桜は次に花を咲かせるまで一年待つが、人はそんなに待たない。

いや、少なくとも僕はそんなに待たない。

入学してから、また花を咲かす。

すぐに新しい花を咲かせなければならない。

それが人。

僕はまた花になれる。なる事ができる。

大丈夫だ。

心配ない。

次でもうまくやれる。

「さっさと帰れ~!」

先生がやってきて、僕に怒鳴った。

完全に自分の世界に入っていた僕はその声で正気に戻り、時計を確認し、驚いた。

さっきから10分も経過している。

目を奪われた、とはまさにこの事だろう。

それくらい、綺麗で心に響いてきたのだ。



僕は桜の道を清々しい気持ちで歩き、家に帰った。

もう、不安を消す為に本を読まなくてもいい。

本棚の本はもう必要ない。





新しい旅立ちを祝う雨はまだ降り続いている。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なけるね( ´ ▽ ` )ノ
2011/04/16 23:08 退会済み
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