一人も入れるな一人も出すな
「なんでよ!!」
「ですから、新規冒険者の受け付けは、おこなっておりません。」
「どういうことですか!説明してください!」
「私たち冒険者になれないってコトですか!?」
ここは冒険者の街、フォンダリア。
俺たちは冒険者ギルド「ハロークエスト」でカスハラ客寸前だった。
「ハロークエストで稼がないと、もう路銀もないんですよ!?」
そう、俺たちの財布はすっからかんのすかんぴんだった。
「あなたたちを殺人未遂で訴えます!覚悟しておいてください!」
シンシアは法廷でたたかう気だ。
「申し訳ございませんが……」
受付のねーちゃんに謝罪されても、こっちとしては命の危機。
「詳細はわかりかねますが、戒厳令が敷かれていて……」
『戒厳令!?』
「新規冒険者の受け付けが出来ない状態となっております。」
「いったい、どんな理由で戒厳令を……?」
俺は一気に冷静になっていた。いやこれは有事だからな。
「それにつきましては、私がご説明いたします。」
吹き抜けの階段を下りる足音が、ギルドにカツカツと響く。
とんでもない美人があらわれた!
「ミルク=ラッテ(27)さん!」
受付のお姉さんが彼女をそう呼ぶ
「ミルク=ラッテさん?変な名前ですね。」
ミルク=ラッテ(27)
冒険者ギルドに彗星のごとく現れた顔とスタイルだけの女!
ギルドマスターの独断で採用され、職員たちの顰蹙を買っている!
「っていうお方なのです。」
「へえ、この街のナンバー2ってワケね。」
「その認識で問題ありません。」
俺はシンシアと顔を見合わせる。
「すごいじゃん、ノクタ。いきなりナンバー2よ!」
「重要な情報持ってるかもな。シンシア、失礼のないように。」
「わかってるわよ。そんなこと。」
「いやそれにしてもこの人相当美人じゃない?」
「ノクタ、鼻の下のびてる。」
「うそ!?のびてる!?」
「ウッソー。」
受付のお姉さんが笑っている。
ミルク=ラッテさんは……
「あ、あわわわ、あわわ、あわわわわわわわ……」
「ど、どうしたんですか急に!?」
「あ、言い忘れてましたが……」
「あわわわ、わわ、あわわ、あわわわわわわわわわわ……」
「ミルク=ラッテさんは、不利を悟るとガチガチになります。」
「不利を悟ると……ガチガチに。なんで?」
「お二人の、少年少女の尊いやり取りで限界ってことです。」
『ヘンなヒトですね。』
「とりあえず応接室までご案内いたします。」
うんうん、話がわかるじゃないか!そうこなくっちゃ。
「カモミールしかありませんが……いいですね?」
ハーブティーを全員ですすりながらの応接室。
「戒厳令を出すって普通じゃないですよね。」
「ハロークエストの機能も止めちゃっていいんです?」
「S級賞金首パーティーがこの街に滞在しているそうです。」
S級賞金首パーティー!なんて強そうなんだ!
「この血だまり☆えぼりゅーしょんを危険視して……」
「ちょっとまって。」
「ちょっとまって。」
流石にちょっとまってだよこれは。
「なんですか?その……血だまり☆えぼりゅーしょん?って?」
「S級賞金首パーティーの名称です。つまるところ組織名です。」
「なんか……弱そうですね……」
「ノクタ!想像以上に危険なヤバい奴らよこれは。」
「いやどう考えても弱そうな名前だろ……」
「いい?こういうふざけた名前の組織って、大抵ヤバい強いから。」
「そんなもんなの?」
「……そういうものよ。名前からもうヤバいってわかる。」
……インターネットの悪ノリが通用する世界なのかここは……
「これが血だまり☆えぼりゅーしょんのメンバー表です。」
ミルクさんは顔写真付きの書類を机の上にならべた。
「まずはさいきょうのばーさーかー、ナラザス。」
「なんでひらがななんですか。」
「彼がそう登録したからです。」
「普通じゃないわね……イカレてるわ。」
「次に……無限の黒、ネクロマンサーのラリッタ。」
「こっちは普通ですね。」
「普通じゃないわよ。」
「三人目……アークプリースト、リザルトーカー。」
「アークプリースト?凄そうですね。」
「私がなりたかった職業!」
「そして彼らを束ねる……さいきょうゆうしゃプラストゲイン。」
「あ~あ。またひらがなかよ。」
「ただものじゃないわ。警戒した方がいい。」
「以上、血だまり☆えぼりゅーしょんの全員分のデータです。」
「なんで俺たちにこんな重要な情報を?」
「ギルドマスターは冒険者の死者を1人も出すなと申し上げました。」
「はい。」
「あなたたちは冒険者ではないので、死んでもOKと判断しました。」
うっそ。判断基準そこなんだ。
名前がミルクだのラッテだのふざけやがって……
牛乳おばさんって呼んでやろうか?
「シンシアちゃんは、恰好からすると黒魔法系ですか?」
牛乳おばさん、シンシアをちゃん付けしやがった……
「そーでーす!ネクロマンサーなんだから!」
ガチャン
牛乳おばさんがカップを落とした。
「うそ!?その年齢ってことは……適職!?」
「はい。」
「どんな魔法が使えるんですか!?」
そう言われたシンシアはカバンを漁る。
「じゃーん!アンデッドとともだちになろう!」
「うわー、やっぱりそうなりますよねー。」
「?」
「シンシアちゃん。どっかーん!に興味ありませんか?」
そう言われたシンシアの目がかがやく
「どっかーん!興味あります!どっかーん!」
「ちょっと待ってくださいね……」
牛乳おばさんは部屋にある本棚を漁る。一冊の本を持ってきた。
「じゃーん。これがどっかーん!の魔法ですよ!差し上げます。」
「やったー!!」
「ノクタくんには、見せちゃダメですからね。」
あ、俺の事はくん付けなんだ。
「そして、ノクタくんとシンシアちゃんに……更にプレゼント!」
「やったー!!」
部屋の棚をガチャガチャと漁る牛乳おばさん。
「確か予備はいっぱいあったハズ……ありましたありました。」
小さな光る何かを俺に向かって投げて寄こした!
「これは……戦士って書いてありますね。」
同じく小さな光る何かをシンシアに向けて投げて寄こす。
「座学術士。なんですかこれ?」
「あなたたちの仮の冒険者タグです。左胸に付けるんですよ。」
「はあ……ありがとうございます。」
「あと冒険者規則も渡しておきますね。」
どこかで見たことあるな……ああ、学校の生徒手帳みたいだ。
冒険者心得が書かれている。……役に立つのかコレ?
「ハロークエスト!あなたたちに仕事を依頼いたします。」
「ノクタ、ぼーっとしないの。ハロークエスト。」
「は、ハロークエスト。」
ミルクさんはにこやかな表情で
「それでは今すぐ近郊のダンジョンに赴きください。」
なんていうもんだ。




