表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

危険な状態らしいですよ

「ノクタさん……あなた、死んでます。死体です。」


 え?死体?死んでる?俺が?


「は?」


 反射的に声が出た。まさしくこれは「は?」案件だよ。


 いやまさかそんなことあるはずがない。俺は叫んだ。


「やり直してください!何かの間違いです!」


 シスターは申し訳ないと言いたげな表情をしている。


「これはただの診断ですからやり直すとかそういうのは……」


「死体だなんて、もう死んでるって事じゃないですか!」


「はい、もう死んでいるから、死体なんです。」


 俺はなんらかのデジャヴを感じていた。このやり取り、さっきのシンシアとシスターのやり取りと流れが一緒だ。


「ご臨終です。」


 前の世界で最後に聞いた言葉。おそらく医者が言ったであろうその言葉を思い出す。俺は一度死んで……生き返ってないのか!?


 俺は何かを確認するように自分の左胸に触れる。次に手首に指を乗せる。最後に首筋に指をあてる……そして確信する。脈が、無い!心臓は脈打っていない。けい動脈にも動きがない。


「ま、まさか……そんなことって……」


 俺は2歩3歩後ろによろめいた。そのまま体の力が抜け、倒れようとした時、背中にやわらかな温度を感じ、姿勢は保たれる。誰かが支えてくれたのだ。


「ノクタ。」


 シンシア!


 まだ体に力が入らない。ゆっくり体勢を下ろされて、床に座り込む。シンシアは姿勢をかがめる。……なんで半笑いなんだ……


「どっ……どんな職業でも一緒に……ふっ……ふぼっ……冒険しようね?」


 シンシアは最初、俺を見ないようにしていたが、やがて目が合った。同時にシンシアは大声で笑い出した。


「死体!死体て!さすがのシンシアちゃんも驚きですよ!」


 部屋にシンシアの笑い声が響く。


 この女……泣いたり笑ったりできなくしてやろうか……


「シンシアさん、笑うのは不謹慎ですよ。」


 あ、「失礼」じゃなくて「不謹慎」なんだ。もう俺ってそういう扱いなんだ。


「で、死んだ理由に心当たりはあるのですか?ないのですか?」


 シスターに問われても俺は事情を知らない。しいて言うなら、確かに俺は一度死んだよ。


「上から落ちてきた植木鉢がたまたま直撃しました。」


 シンシアの説明と同時に俺の頭がまたズキリと痛みだした。


「こ、心当たりがあるのは、わ、わかりました……」


 シスターはそう言って露骨に視線を外し、俺が視界に入らないように努力している。わかるよ、そんなマヌケな死因だったら笑うわ。ニュースに流せないタイプの死因だわ。なんなら逆の立場だったら俺も笑う自信あるわ。


「で、ここからが本題です。二人とも、椅子にかけて。」


 シスターは部屋のスミにある小さな椅子を三つほど持ってきた。位置取りがちょうど三角形になるように全員で座る。


「単刀直入に言います。ノクタさんは大変危険な状態です。」


 いやもう俺は死んでるんだから、危険もなにもないんじゃないのか?


「ノクタさんは先ほども言った通り、死体です。」


「はあ、それは聞きましたけど。」


「今ノクタさんは、なんだかよくわからない力で動いています。」


「なんだかよくわからない力……ですか。」


「その力が消えれば、ノクタさんの肉体は崩れてしまう。」


え、崩れる?体が……?いや怖いよそれ。


「本題はここから。それを阻止する方法が、ひとつだけ。ネクロマンサーから"魔力(まりょく)譲渡(じょうと)"を受ける事……」


 シスターはシンシアをちらりと見る。


「しかし、ネクロマンサーは数が少ない。雲をつかむような話です。」


 またチラッチラッと神官はシンシアに視線を送る。まあ、そういうことになるよな。


「ああ、たまたま近くにネクロマンサー様がいれば!」


「ちょっと、わざとらしいんですけど。」


 シンシアはふくれっ面だ。流石にこれはどんなにニブい人でもわかるな。


「その、魔力(まりょく)譲渡(じょうと)?っていうのをやればいいんですか?私が?」


「はい。ネクロマンサーの初歩も初歩の基礎魔法です。」


「やります。」


 シンシアは即答した。


「しかし、それをやるとひとつ問題が。」


 シスターは近くの背の低い本棚から薄い四角を取り出しながらそう言った。本?いや薄すぎないか?


「なんですか?まだ問題があるんですか?」


 シンシアはシスターに不満げなまなざしを送る。


「定期的に魔力譲渡を行うという事は、ネクロマンサーとしての才能が完全に開花してしまうことになるでしょう。」


 シンシアはネクロマンサーになりたくないと言ってたから、この話を蹴ることも覚悟しなくては。恐る恐るシンシアの方を見ると……覚悟などとうに決めた顔をしている。


「私はノクタと一緒に楽しく冒険するんです!」


 シンシアが立ち上がる。


「どんな魔法使いでも一緒に居てくれるって言ってくれたから!」


「ではそのまま、自分の体に流れている何かを確認してください。」


「……たぶんできたと思います。」


「その中で、色。特に黒い色の何かを見つけて。」


「ありました。」


「それを手のひらに集めてください。」


「こう、ですか?」


 シンシアの手のひらからグロテスクな黒いモヤのようなものがごぼごぼと漏れ出した。


「わわっ!なにこれ!?」


「成功です!その手のひらをノクタさんにブチ当ててください!」


「え、ちょま……!」


 シンシアの手に触れられ……黒いモヤが俺の体の中に……


「これは!濃密で豊潤な味わい!得も知れぬ多幸感!」


 魔力譲渡を受けた俺も立ち上がる。


「まさに黒いダイヤモンド!ドクンバクンと次から次へと……」


「ノクタさん、食レポしろとは言っていません。」


「ノクタ、やめて恥ずかしいから。」


 顔を耳まで真っ赤にするシンシアを見て、俺はハッとなり椅子に座った。


「まさか1回の指示だけで……」


「シンシア、ありがとう。」


 俺は素直に礼を言った。


「ん。」


 ちょっと照れくさそうにしながら座るシンシアのかたわら、シスターは本をポンと閉じる。


「ネクロマンサーの教本。シンシアさんに差し上げます。」


「は、はい……ありがとうございます?」


 表紙には「アンデッド(あんでっど)とともだちになろう」と読めない字で書かれていた。……カタカナにルビを振るレベルの教本!?


「いいですか?ネクロマンサーの魔法は、魔力譲渡が基本。」


 シンシアはパラパラと本の中身を確認している。俺も気になったのでのぞき込む、完全に知育絵本のそれだな……


「与える魔法です。ヒトは何かを奪わずにはいられない、罪深い生き物。そんな中、あなたは与える魔法を手に入れた。これはたいへん名誉なことです。」


 シンシアは本を閉じる。


「人を助けたりもできるんですか?」


「ええ、さっきのように。」


「そうなんですね……」


 俺はシンシアの顔を見ていた、やがて目が合う。


「シンシア、一緒に楽しい冒険をしよう。」


「ノクタ、一緒に楽しい冒険、しようね。」


 で、だ。ここまではいい話みたいな雰囲気なんだ。


 ここで完全に死んでた方が幸せだったのでは?後になってそう思うことになるとは。


 最初のうちは良かったんだよ、最初のうちはな!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ