死体ってなんだよそれ職業か?
「ご臨終です。」
俺は死ぬのか……
意識が遠のいていく……
――ああ、ロクな人生じゃなかったよ――
「あ、動いた!」
突然の女の子の声で意識が戻る。体の感覚があるし、どうやら目も開けられそうだ。恐る恐る目を開けると、めちゃくちゃ可愛い女の子が目に映る。
「良かったあ。」
可愛い女の子に起こされる、なんてすばらしい状況なんだ……ってこの子誰!?
「キミはダレ?」
反射的に聞いてしまった。看護師さんにしては若すぎるし、こういう時に訪ねてくるこれくらいの年齢の親戚もいないし。そういうケアワーカーさんはいるかもしれない、あるいは職業体験とか。そのていど。
「そっか、頭を強く打ったから記憶が……」
頭を強く打った、そう聞いたとたん頭がズキリと痛みだす。痛いけど痛いだけなので、ゆっくり体を起こす。レンガ造りの部屋に小さな机と椅子、どう見てもここは病院じゃない。
「私の名前は、シンシア。」
赤い髪で金色の眼をしたこの美少女は、シンシアと名乗った。
「よろしくね、記憶喪失中のノクタ。」
「ノクタ?」
「……自分の名前も忘れたの?」
「ごめん。」
「謝ることじゃないから。生きてたってだけで、よかった。」
「じゃあ、ありがと。看病してくれて。」
部屋の床には水の張ったタライと俺の頭に乗ってる水を含んだ布。いきさつはわからないが「シンシア」と、この体の持ち主「ノクタ」はそれなりの仲だったのかも。
「うええええん、ノクタあああああ!」
泣き出したシンシアに抱きつかれる。
この距離間感、"幼馴染み"だ!
それで、俺はどうやら一度死んで異世界にやってきて……マジか、本当にそんなことあるんだ。とりあえず俺はこう思わないといけない。
ノクタくん、ごめんね☆
「すう、すう。」
シンシアは疲れからか寝てしまう。かなり長い時間看病してくれていたみたいだ。こう体を持ち上げて、そのまま彼女をベッドに寝かし、立ち上がる。やっぱり頭は痛いだけだ、問題ない。
「さて……」
この世界は、どういう世界か知る必要がある。
窓の外を見る。カラフルなレンガ造りの家と石畳の道路、道行く人の服装から見るに……なるほど。
そして小さな机に手を掛ける。本が何冊かあったのでそのうちの一冊を手に取る。「ゴブリンでもわかる!祝福魔法の基礎!」と読めない文字で書かれていた。
この世界にはいるのか、ゴブリンが。あるのか、魔法が。
「やはり、ここは病院じゃない。……ナーロッパだ……」
入院中、色々な漫画や小説を読んでいた。その中でも特に好きだったのが、異世界転生モノだ。
「そういった世界のことをナーロッパって言うんですって。」
若い看護師さんがそう教えてくれた。何かの造語だろうが、語源はわからない。
その手に取った本は小さな紙きれが大量にのり付けされていてかなり使い込まれている印象。あるページを開くと本文に加えてびっしりとメモ書きがされていた。
<ノクタは怪我しやすいからここ重要!>
<ノクタはどんくさいから補助魔法をかける!>
等々。なるほどシンシアはノクタと一緒に冒険がしたい、的な?
「なに見てるの。」
この文字も女の子特有の可愛らしい丸みのある文字だし。
「ねえノクタ、なに見てるの。」
ベッドの方を見るとシンシアが顔を真っ赤にしながら立ち上がり、ゆらりゆらりとこちらに歩を進める。
「カ、カワイイ文字デスネ……」
乙女の秘密を勝手に見たことがバレた。有罪!
だがしかしこれはチャンスだ!次のアクションでシンシアの「タイプ」がわかるからだ!暴力タイプならグーパンが飛んでくるだろうしツンデレタイプならバリゾーゴンが飛んでくるだろうし……頼む!わかりやすいやつ!わかりやすいやつ来い!
「どうやら歩けるみたいね。」
シンシアはずいと顔を近づけて俺の手から本を取り返した。
「行くわよ、教会まで。」
「きょ、教会!?」
若い男女が教会に行くって……
「け、結婚式でもするの!?」
「それは5年後。」
再びこう思うわけだ。ノクタくん、ごめんね☆
「"適職診断の儀式"。本当はおととい行くはずだったんだけど。」
――この世界の人は特殊なチカラを持っていてェ!15歳になった少年少女はこの儀式を通じて自分の適職がなんであるかを鑑定してもらえる公共サービスが存在するのだァ!……君たちが40歳以降、毎年受ける健康診断のようなものだ。……あーダル。
「ああ、適職診断の儀式の話ね。今から行こうか。」
今誰かに何かを説明されたような気がするが気にしないでおこう……
あとシンシアの「タイプ」が今一つわからない……
「ええと礼拝ですか?献金ですか?」
教会に入るとシスターがにこやかに対応していた。
「私たちの適職診断なんですけど……」
「まあ!それでは特別礼拝室までご案内します!」
「楽しみね。」
「シンシアは何が理想?」
「ノクタさん何を今さら~魔法使いに決まってるでしょ~」
それもそうか。
「一緒に楽しい冒険しようねっ」
楽しい冒険か、なんか憧れるな。歴史に名を残さない系も悪くない。
「それではまずシンシアさん、前へ。」
促されて特別礼拝室の壇に上がるシンシア。シスターはシンシアの頭に触れ、しばらくした後。
「ネクロマンサーですね。」
シンシアの動きが……完全に止まる。
ネクロ……マンサ―……?あの死体を操ったりする?
「"黒魔法派生"の最上級職。非常に稀有な才能です。」
シンシアの肩がぶるぶると震え出した。
そして叫ぶ。
「やり直してください!何かの間違いです!」
「これはただの診断ですからやり直すとかそういうのは……」
「黒魔法使いなんて、悪人しかいないじゃないですか!」
「それは偏見です!善良な黒魔法使いに謝罪なさい!」
「とにかく!私はネクロマンサーなんかになりませんから!」
シンシアがそこまで言い切るとシスターは優しく語るように。
「あくまでただの適職です。別の道を歩んでも良いのです。」
「………………。」
シンシアがこちらを振り向きざま、俺の胸元に飛び込んできた。しばらく何も言わなかったが、かすれた声を絞り出す。
「ノクタ……ごめんね。」
こういう時はフォローした方がいいよな。
「シンシアがどんな魔法使いでも、一緒に冒険するから。一応魔法使いだし、希望は通ってる。」
「うわああああ!黒魔法以外って言えばよかったああああ!」
泣き出すシンシア。気持ちは痛いほどわかるから、もう何も言えないな。
「それではノクタさん、前へ。」
さて俺はどうなる?シンシアの想定なら、俺は前衛職が理想だ。シスターの手が頭に触れて……さっきより沈黙が長い。
「ええっと……あれ?ん?……これ、合ってるんでしょうか?」
来た。
来た来た来た!
どうやら俺はとんでもない職業が適職の可能性が高い!
異世界転生の定番中の定番だ!
いやしかし俺は楽しい冒険をするんだ、あんまりヘビーなのはナシな。
う~ん、でもサインの練習、した方が良さそうだな!
俺は飼い犬のようにワクワクしながらシスターの言葉を待った。
「死体です。」
は?
「ノクタさん……あなた、死んでます。死体です。」
え?死体?死んでる?俺が?




