⑦生き別れの兄・セーゴ
今回はリアたちは出てきません。
アンデッド公爵:死にたがりで、毒にめちゃくちゃ精通している。妻のケネシーに出会ってから元気100倍。
妻のケネシー:元スパイ。ミッションで公爵を殺害しようとしていた。公爵いわくとってもうっかりやさん
ダイハード:敏腕執事の爺や
アンデッド公爵家はこの数日騒がしい。
数日前に行き倒れた青年を迎え入れていたのだ。
執事のダイハードは公爵の許可を得ると青年を空き部屋へと運んだ。
もちろんゲストが宿泊しても遜色のない広さと調度品を揃えている部屋。
長いこと生きているダイハードにとっても初めて見る姿の青年。
眠る姿は彫刻のように滑らかさ、だが、精悍な顔つき。
「獣人族というだけでも初めてお見掛けいたしますが、いやはや、アルビノとは⋯⋯」
ダイハードも言葉を失う。
わずかに尖った純白の耳に記憶を辿る。
「オオカミ族あたりですかな」
獣人族の中でも上位の強さだ。
それにしてもこの見た目。
ひっきりなしに用事もない侍女や従者がドアの前を通る音が聞こえる。
「奥様が来たとき以来の煩さですな」
その言葉とは裏腹に顔を綻ばせた。
* * *
次の日に目を覚ました青年にダイハードは矢継ぎ早に質問したい気持ちを抑えて、ダイニングへ案内した。
湯浴みをして、ダイハードが用意した服は背丈に合っていた。
甘いため息をつく侍女たち。
公爵は青年を一瞥した後はずっと隣の奥様であるケネシーを凝視している。
「嫉妬深い旦那様ですな、ほっほっ」と小声で呟くダイハード。
ケネシーは興奮気味に青年とダイハードをチラチラ見ている。
「奥様の反応は恋とは違うようですな」と小声で呟くダイハード。
今日の料理が運ばれてくると、ナイフとフォークの使い方は見惚れるほど綺麗。
青年の口に丁寧に吸い込まれていく食べ物はあっという間に皿から消えた。
言葉には出さないが、青年はダイハードに警戒している。ダイハードは久しぶりに肌に刺激のくる威圧感に胸が躍った。
「ご馳走様でした。美味しい食事、身体が生き返るようです」
青年は視線を向けている公爵やケネシー、ダイハードを見渡した後、身の上話を始めた。
青年の名は“セーゴ”。
ヒグマ族の長の第一子として生まれた。
妹も生まれた、ある日──。
「ドキョウの谷に呼ばれたんです」
「ど、きょう⋯⋯?」
無もなき谷。地面をきり裂くように出来たその巨大な亀裂の底は見えない。
まるであの世と繋がっているような闇が広がる。
あそこから戻ってこられれば“度胸試し”、戻ってこられなければ、魂を鎮める“読経”が行われる。
果たしてどちらになるのか。
男たちは“ドキョウの谷”と呼び、女たちは“死の谷”と呼ぶ。
「私は何日も続く会議の初日に落とされました」
一年で一番大きな話し合い。
大人たちが納得するまで終わらず、大抵は一日で終わらない。
ダイハードは淡々と話を進めるセーゴを見つめている。
セーゴの体も手も震えていない。
それは恐怖の対象ではなかったのか、それとも恐怖を超える感情を持っているのか⋯⋯。
「つまりセーゴ殿は“誰かの仕業で”ドキョウの谷に落とされた、と?」
ダイハードの言葉に注目が集まる。
セーゴの短い息が聞こえる。
ダイハードはセーゴの小さな動揺を感じる。
「叔父上です。私の妹と同じ歳の息子がいるのです。おそらく自分の血筋を次の後継者に上げたかったのでしょう」
会議の直前に叔父に呼ばれ、セーゴは少なからず会議に参加できるのかと期待した。
「落とされる直前に叔父上は言いました。『ここから上がって来られるのなら、誰もがお前を認めるだろう』と」
ダイハードは不思議でならなかった。
殺されかけた相手の話は他人の話をするかのように静かなのである。
「失礼ですが、セーゴ殿は仇討ちだけではないのでは? 自分の⋯⋯妹君を心配なされているとか」
セーゴは目を見開きダイハードを見つめた。
「あ⋯⋯そうです⋯⋯リア⋯⋯彼女を助け出さないと」
青年の身の上話に周りに控える侍女や従者までもが聞き耳を立て、小さく頷いている。
「助け出す?」
公爵の言葉にセーゴの瞳は揺れる。
「ラグド⋯⋯叔父上の息子と結婚させられてしまうかもしれない」
「旦那様、私が調査しますぞ」
「あぁ、頼んだ」
それを見たケネシーは公爵の手をぎゅっと握る。
「爺や、お願いよ」
頭を下げたセーゴは消え入りそうな声を溢した。
「ダイハード殿、よろしくお願い⋯⋯します」
話が終わる頃には、皆が青年の味方になっていた。
* * *
次の日、事件は起こった。
公爵の誕生日である。
ケネシーは元スパイ。
アンデッド公爵がいろんな方向から命を狙われるため、身体を慣れさせるために毒を服用させる。
ケネシーはその一翼を担っていた。
そして公爵の誕生日に新しい毒を完成させていたようだ。
見た目はカレー。
ケネシーは毒の帳消しのために青年のワインにポーションを入れるようダイハードに指示していた。
質の高いポーションを入れた。
だが、その日は違った。
どんな毒にも耐性があった公爵がお腹を壊した。
そして青年も胸を抑えて倒れた。
丸一日寝込んだ青年が目を覚ました。
ダイハードも一安心と、肩の力を抜いて青年の様子を見に行ったところ、青年の様子がおかしい。
何かを考え込んでいるのか自分の鼻を見つめ、目を瞬かせている。
少し間があった後、こう呟いた。
「私はどこにいるのでしょうか? なんだか記憶がものすごく曖昧でして⋯⋯」
「これは大変ですぞ⋯⋯」とダイハードの言葉が虚しくも部屋の中に響いたのだった。
こちらはコメディー短編『毒殺を狙うスパイ妻vs死にたがりのハイパーポジティブな公爵〜凄腕爺やもおりますぞ〜
(https://ncode.syosetu.com/n0293lo/)』のキャラが出てきています。ケネシーと公爵のら馴れ初めはこちらで!
また、カレーについては上の作品のスピンオフで詳しく書かれています。
コメディー短編『アンデッド公爵家の毒より危険なカレー
(https://ncode.syosetu.com/n5293lp/)』




