⑥ハッピーエンドとはいかないようで
リア:ヒグマ族の長の一人娘。純白のアルビノ。
アルノー:全身鎧。ふんわりとした雰囲気だが、真意を突いてくる発言も多い。鎧の中はすごいらしい。超強い。ヒグマたちも認める男。
ラグド:ヒグマ族の傍系。リアの婚約者候補。
ヒグマ族の中ではかなり強い方。
あのラグドが倒された。
愕然としたリアは棒のように立っている。
軽快に戻ってきたアルノーはリアの方に首を傾げた。
「へへっ、どうですか?」
リアはアルノーの胸に手を回した。
アルノーは自分の胸の中に入ってきたリアを見て、固まった。
すぐに顔を真っ赤にさせて目を白黒させる。
「へっ? リアさん!?」
「心配したわ」
そこへリアの父がやってきた。
「ヒグマ族の長のヤシムです。やはりあのヴィラハム家の方でしたか。三百年前に起きた人間と獣人との戦いを収めていただき本当にありがとうございます」
「いえ、ご先祖様の功績ですから。僕はリアさんが好きなだけです」
「す、すき……えっ本当に?」
両手で頬を隠すリアは顔を火照らせた。
頭から湯気が出そうなほど赤くなっている。
「もう、本当に鈍感なんですから。偶然を装った甲斐がありました」
(偶然を装った…?)
あの鎧との衝突事故のことだろうか。
生身の人間なら全治一ヶ月の怪我では済まないと思う。
決闘の勝者の周りにあったほのぼのとした雰囲気にヤシムの父親としての嫉妬の禍々しい空気が混ざる。
なぜかリアの母が一番嬉しそうだ。
「それで、いつアルノーの家にご挨拶に行ったら良いかしら?」
「おっ意外にもリアさん肉食ですね」
リアは無意識にアルノーの腕を掴んでいることに気がついた。
(でもさっきから⋯⋯)
「もう、アルノー!」
そう言いながらリアは嬉しそうに顔を綻ばせた。
「へへっ、冗談です。僕も肉食になりますよ。これからヴィラハム家に一緒に行きますか?」
「アルノー、もっ、もちろんよ!」
アルノーは緩んだ顔でリアの手を引いた。
(さっきからアルノーの綺麗な顔が素敵過ぎるわ〜!)
胸の高鳴りにリアの手には力が入った。
二人の後ろから物凄い勢いで追ってくるリアの父と顔を綻ばせた母がピタリと付いてきた。
* * *
リアとアルノーは無事に婚約した。
すると学園では少し変わったことがある。
その白銀の絹のような煌めきの長い髪に陶器のような白い肌が、通り過ぎる人々を魅了するリアの姿。
以前なら品定めか見た目の美しさの虜になったような視線に嫌気がさしていた。
でも今は違う。
なぜかもっと人間味のある⋯⋯、そう、同情のような目で見られている気がする。
リアは学園では、人間に配慮し、人間に近い姿で過ごしている。
白銀の髪からのぞかせるわずかに尖った純白の耳は隠せない。
それでも孤高だの気高いヒグマ族だのと噂されていたのに最近めっきり聞かない。
どちらかと言えば、リアの隣を歩く彼の存在がリアを普通へと寄せていると感じる。
『鎧のアルノー』と呼ばれている全身鎧の男──それがリアの婚約者だ。
リアは女性の中でも身長は高い方だ。
だが、ひと回りは優に超える鎧の姿のアルノーはすれ違う学生の生徒を振り向かせる。
もちろん良い意味ではない。
一度は頭の鎧を取ってもらったが、彼の素顔があまりにも素敵だったので封印させた。
黒くて長い前髪の隙間から見えた若葉のような黄緑色の瞳と端正な顔立ちのアルノーは女子生徒を狂わす。そう直感した。
彼女たちには勘違いされていたほうがいい。リアは固く決意した。
学園では冴えない姿でも、リアは満足だった。
それよりも⋯⋯今、リアは迷っていた。
長年心にしまってきたことがあったのだ。
言ったからといって解決しないかもしれない。
それにアルノーを困らせてしまうかもしれない。
(それでも⋯⋯)
「リアさん、何かありました?」
鎧の頭が傾いた。アルノーはリアの異変を気にしているようだ。
リアはふと、手に汗を掻いているのに気がついた。
リアは鎧に反射した自分の目が泳いでいることに気がついた。
「あのね⋯⋯アルノー、私には生き別れた兄がいるの」
リアの言葉は行き先をなくしたように辺りを彷徨った。
このお話の真面目な?異世界恋愛短編は『氷のシロクマ令嬢は微笑む』(https://ncode.syosetu.com/n2363ln/)になります(ㆁωㆁ)




