⑤バッキバキ決闘回がやってきた
リア:ヒグマ族の長の一人娘。純白のアルビノ。
アルノー:全身鎧。ふんわりとした雰囲気だが、真意を突いてくる発言も多い。
ラグド:ヒグマ族の傍系。リアの婚約者候補。
決闘の開始の合図が響く。
ラグドは獣そのものの咆哮を上げるとともにヒグマの姿に戻る。
目の前のアルノーとの身長差は一メートルを超える。
ラグドの先制攻撃。鋭い爪。
当たらないようにアルノーは大きく身体を傾けた。アルノーの目の前を鋭い爪、そしてラグドが通り過ぎる。
「無駄ですよ」とアルノー。
ラグドの攻撃は空振りし、近くの岩に当たる。
轟音と粉塵が周りに立ち込める。
「ちぃ、運のいいやつめ」と余裕のラグド。
壊れた岩を見て、リアはアルノーの姿を重ねると悪寒が全身に走った。
(ラグドの攻撃が当たればアルノーは岩と同じ目に合うわ!)
リアの心配をよそにアルノーの全身から赤い湯気のような光が立ち上り始めた。
風が空気を切る。
ラグドは宙に投げ出され地面を滑っていく。近くの岩にラグドは背中ごと身体を埋めた。同時に瓦礫の音が聞こえる。
「ぐっ⋯⋯」とラグドの唸る声。
「性格は温厚な人が多いですがね、私たちヴィラハムの血筋は戦闘に特化しています。
先程、私はあなたの頬を叩いたこと、気が付きましたか?」
「なっなにぃ!?
(じゃんけんなら俺はパー、あいつはグーだったのに!)」
アルノーは近くの瓦礫の中から頭くらいの大きさの岩をひょいと拾い上げる。
「リアさんを懸けて必ず勝ちますよ」
拳でその岩の塊をラグドの方へ飛ばす。
土煙が立ち込める。
すぐ後に瓦礫の轟音。
かすかに土の匂いが鼻腔をくすぐる。
岩が当たったのかラグドの濁声がすぐに聞こえた。その声にヒグマたちは青ざめ始める。
「強すぎる」「ニンゲンコワイ」と引き気味のヒグマたち。
「おそらく騎士科には僕と互角に戦える人はいないでしょう。たとえ剛剣の教師だったとしても。だから王家は爵位授与をして、力の制限を誓約させ続けるのです」
「調子に乗りやがって、この人間ごときが!」
ラグドが黄色の揺らめく光を纏う。
追い詰められた獣のように、目だけが不安定に揺れていた。
それをかき消すように、すぐに紫の光に変わる。
リアはそれを見て叫んだ。
「ラグド、アルノーを殺す気なの!?」
猛獣と言われるヒグマ族でも最大の力を出す時の予兆である。
この状態のヒグマ族に勝てる種族はいない。
血のような濃い紅の瞳に変わった。
立ち上がっていた巨大なラグドは地面を揺らしながら前足を下ろす。力を溜めると前へと勢いよく飛び出した。
猛獣と同じく四本の足で走ってくる。
そのスピードは六十キロメートル。
ラグドの走りに地震のように地鳴りしながら揺れている。
画面から飛び出さないのが残念なくらい。
「アルノー逃げて!」
リアは震える拳を握りながら声を振り絞った。
「リアさんを前に男が背中を向けられません」
アルノーは拳をゆっくり引くと、構えた。
ラグドとの距離残り五歩。
ラグドの猛獣の咆哮が辺りにビリビリと響く。その咆哮は風となりアルノーの前髪を大きく揺らした。
前髪からのぞかせる若葉のような緑色の瞳は黄色を帯びている。
あまりの端正な顔立ちとその瞳にリアは釘付けになる。
「ありー!」 「人間良い!」 「強さは正しい!」ヒグマ女子たちの黄色い声。
アルノーの前腕筋だけでなく上腕二頭筋・三頭筋、僧帽筋は弾けそうなほど隆起した。
ラグドの拳は普通の人間に避けることは出来ない。なのにアルノーの頬の横をすり抜けていく。
手応えのない感触にラグドは目を見開く。
そのままラグドの顔はアルノーの拳で大きく歪んだ。それはスローモーションのよう。
三メートルを超えるヒグマの巨体がアルノーの目の前で一瞬止まった。
鈍い重低音が鼓膜を一度揺らす。
ラグドの巨体は大広間の石壁に当たった。爆発したような破砕音の後、壁はいとも簡単に軋轢すると幾つもの破片が四方に飛び散った。
そして砂煙が辺り一帯に広まる。ラグドの姿は煙で見えなくなった。
「ラグドォ!?」
叔父の狼狽えた声。
そしてふらつく足を引きずりながらラグドの下へと足を運び始めた。
ラグドは砂にまみれた姿で地面に横たわっていた。
このお話の真面目な?異世界恋愛短編は『氷のシロクマ令嬢は微笑む』(https://ncode.syosetu.com/n2363ln/)になります(ㆁωㆁ)




