④ヒグマに囲まれた鎧
牙冠の大広間──。
荒廃した地面には大きな岩が幾つもの落ちている。円形闘技場のように丸く囲む岩壁が遠くに見えた。
土の匂いが鼻腔を刺激すると共に熱気のある集団。
ヒグマ、ヒグマ、ヒグマ、ヒグマ、ヒグマ、ヒグマ、ヒグマ、ヒグマ、鎧、ヒグマ、ヒグマ、ヒグマ、ヒグマ──。
ヒグマ族の直系から傍系まで少なくとも四十人以上集まっていた。
輪の中心に集まるのは獣人の姿のリアの家族とラグドと家族。
三メートルにもなる大きなヒグマがずらりと周りを囲む。
リアが鎧姿のアルノーを婚約者だと説明した。
群衆から鼻で笑うような声がそこかしこから。
(ほぼ全員ね、後でリアチョップをお見舞いしてあげるわ!)
リアはチョップの素振りを始めた。
「私はアルノー・ヴィラハム。ヴィラハム公爵家の第一子です」
リアの父が不自然なほど、身を硬くした。
そして真剣な顔で深く頷いている。
「それでリアはうちのラグドよりも、この青年と婚約しようとしているのか。
(というか全身鎧は誰もツッコまないの?)」
群衆の一番前にいるのは叔父──ラグドの父だ。リアの父より少し大きな体格。
ラグド同様、大事なことが声にならない。
「! (俺は勝つことでしか証明できない。ヒグマたるもの、じゃんけんはパー)」
ラグドは父の声に反応し、じゃんけんの心の準備をする。
ここで負ければ、リアだけでなく、自分の価値まで失う。
「はい、そうです」とリアの不機嫌パンチ。
「知っての通り、ヒグマ族は力第一。軟弱者に長の一人娘の婚約者は務まらない」と叔父の反撃パンチ。
叔父の言葉にリアの心は焦れる。
(くっ⋯⋯お父様から了承さえ取れれば)
「でも長が──」とリア。
「アッシム──」と叔父の名を呼びかけるリアの父。
それを掻き消す叔父の低く響く声。
「ラグドと決闘してもらおう。強さこそヒグマ族の正義だ。
(最初はグーから始まるんだろうな?)」
“決闘”の言葉に歓声を上げる周りのヒグマたち。
『待ちなさい!』
張り上げたリアの父の声は他の者たちの歓声にかき消された。
「分かりました」
静寂をもたらしたのはアルノーだった。
「鎧を取って決闘いたしましょう。
ただしじゃんけんはなしです」
「なっ!? (なんてやつだ。俺たちの心の声を汲むなんて⋯⋯)
人間にしては話の分かるやつだな。
素手での決闘──負けを宣言するか、相手が倒れるか、だ」と形勢を立て直す叔父。
その声とともにヒグマたちは邪魔にならぬよう端へと移動していく。
その間にも大きな金属音を立てる鎧。
外れた鎧はすぐに片付けられた。
リアよりも少し大きな身丈。
だが、人間だとは思えないほど、全身の筋肉が盛り上がっている。
全ヒグマがアルノーの身体に注目した。
「えっ⋯⋯人超えてない?」と隠していた心の声が漏れるラグド。
(こんな時なのに、アルノーから目が逸らせないわ)
見つめていたリアはアルノーとしっかり目が合う。
大きな目を見開いてリアは間抜けな顔になっていた気がした。
「さっきうさぎ小屋で、騎士科は禁止されていることを言いましたよね。これからその意味を見せますよ」
「その意味⋯⋯?」
リアがその答えを見つける前にアルノーはラグドの目の前に歩いていく。
ラグドとアルノーは対峙した。
次回はバッキバキ回です!
このお話の真面目な?異世界恋愛短編は『氷のシロクマ令嬢は微笑む』(https://ncode.syosetu.com/n2363ln/)になります(ㆁωㆁ)




