⑩記憶喪失を戻そう!
アンデッド公爵:死にたがりで、毒にめちゃくちゃ精通している。妻のケネシーに出会ってから元気100倍。
妻のケネシー:公爵いわくとってもうっかりやさん
ダイハード:敏腕執事の爺や
リアの兄のセーゴ:ヒグマ族の長の嫡子。リアと同じくアルビノでめちゃくちゃイケメン。
アンデッド公爵家のキッチンにて──。
ケネシーのカレーを食べて記憶喪失になった兄を助けるべく、何かを作ることを決意したリアとケネシー。
問題の記憶を飛ばしたカレーは残っていないため、別のものを作ることにする。
その様子を外から見守る公爵、ダイハードこと爺や、アルノー、そして記憶喪失のセーゴ。
アルノーがセーゴに聞いてみると、「目を覚ましたらここにいた」というのだ。
爺やからカレーを食べた後に倒れて、起きたら覚えていなかったことを説明される。
そして昨日セーゴから聞いた身の上話をアルノーに話す。
すると、短く声を上げたアルノー。何か心当たりがあったようだ。
「リアの叔父の息子は僕が倒しました」
アルノーは師匠である爺やに事細かく説明する。
公爵は興味津々といった様子で何度も頷いている。
ひとしきり話したが、まだ料理は終わらない。
公爵の馴れ初めを聞き始めた外野。
「なるほど、アンデッド様は毒耐性をつけるのに努力されているわけですね」
「小さい頃からの習わしというか⋯⋯もう慣れました。今はケネシーもいますしね」
妙に“ケネシー”の部分だけ強調する公爵。
そこへアルノーから驚くべき提案が出された。
「ヴィラハム家の血筋は毒が効きません。師匠、血清でも作りますか?」
「ほっほっ、アルノーさま、よろしいのですか?」
アルノーはキッチンの中で賑やかに声を上げて楽しんでいるリアとケネシーの姿をみると微笑んだ。
「アルノー殿、助かります! 代わりにうちの鉱山で取れる宝石を見ていってください。リア嬢が気に入るものもあるかもしれません」
この話から二人の公爵が関係を近くしたことで国の政略図が大きく変わることになる、がそれはまた別の話。
* * *
出来上がったばかりの料理を見に行く外野。
作られたのはロールケーキのようなもの。
自信のなさそうなケネシーとその横で胸を張っているリア。
「ロールケーキです」
「この生地に練り込まれたのは⋯⋯いや、聞かないほうがいいか」
生地には斑点のように見える柄が全体に広がっている。
「ちょっと薬草を混ぜてみました」
「薬になるといいですな」と爺や。
リアは大皿の端から端まである長いロールケーキをセーゴに渡した。
「さぁこれをおひさまの方に向かって、無言で一気に全部食べてください」としっかりと頷くリア。
「食べ方の暴力!」とたまらず声を上げるケネシー。
得体のしれない長いロールケーキ⋯⋯らしきもの。
これを一気に全部⋯⋯。
穏やかなセーゴはロールケーキをそっと持ち上げるとひと口齧り付く。
一口目でむせている。
苦しそうだが、セーゴは口に押し込み続けている。
端正な顔立ちと口から伸びるロールケーキの絵面が控えめに言っても酷い。
段々とペースダウンしてくる。
「やっぱりパサパサで牛乳が欲しくなるかしら?」
「ロールケーキがやや優勢ですね」
押しても押してもふわふわとしたロールケーキは中々減らない。
無理に押そうとすると手に触れている生地とクリームが解散しそうになる。
そして見届けること十三分。
ようやくセーゴがロールケーキを制した。
慌てて牛乳の援軍を呼ぶ。
それが終わると、セーゴは頭を抱え始めた。
「お兄ちゃん、大丈夫? 戻ってきて!」
リアの願いは届くだろうか──。




