表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お仕えしている愛の女神に嫌われている巫女ですが、最高神さまに溺愛されています  作者: 絹ごし春雨


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/3

後編 (完)

 一年に一度の豊穣祭。豊穣の女神を讃える祭りかというと、違う。


民衆は、作物を捧げ、神に感謝する。すべての神に。


リネは、儀式の祭壇が組まれていくのを見守っていた。祭壇を組むことを許されているのは、もっと高位の神官と巫女だ。



歌い、踊る民衆の声。


「神に感謝を!」


讃えるそれは夕方に近づくにつれてどんどん増していく。

そして、夕日が水平線に差し掛かる時、民衆に熱気は最高に達する。



刻限、場の雰囲気が変わった。

夕日を背負い、最高神ルゥが顕現する。高く積み上がった儀式台のその遥かてっぺんに。


リネは片時も目を離さず、それを見ていた。


神官が感謝を告げる声が遠くの世界の出来事のようだった。


リネは、ルゥを視界に映し続ける。どうしてか、胸がひどく傷んだ。


昨日、つい昨日隣で笑っていたルゥが、遥か遠くにいる。


これが、本来の距離。

知っていたはずなのに。


つんと鼻の奥が痛む。


「……ルゥ様」


それは無意識だった。リネの唇からその言葉が出た瞬間、ルゥの瞳が、リネをとらえた。


リネは目を逸らさず、見つめ返す。それが応えかのように。


ふと、ルゥは微笑んだ。

刹那、リネの心臓が、どくりと音を立てる。


……繋がっていく。

遥か彼方にいるルゥと。

リネはもう、寂しくなかった。 




 リネは、後片付けをしていた。

祭りの余韻がまだ胸に残っている。


解体された祭壇に寂しさを感じるが、ルゥとの距離が壊されてしまってほっとしていた。


「巫女……失格ね」


呟いたその時、


「リネ」


背後に気配が落ちた。

リネは振り返る。


「ルゥ様……」

呼んでしまってから、唇を押さえる。


ルゥはその手をそっと引き剥がした。


「呼んで、リネ」


「……ルゥ様」


本当はずっと呼びたかった。リネは胸がいっぱいで唇が震えた。


ルゥはそっとリネを抱きしめた。


「わかってる? もう逃げられない」


「ええ、はい。……逃げません」


リネは前よりもずっと、ルゥを近くに感じた。繋がっている。存在が、溶け合っているかのような、不思議な感覚。


リネが不思議そうにしていると、ルゥは言った。


「君を、私の眷属にした。君は……人間じゃない。半神だ」


え、と唇をかたどったまま、理解する。不思議と、意外だとは思わなかった。


「私を、儚いもののまま見送りたくなかったと、そう信じても、いいですか?」


抱きしめられる腕の力が強まる。


「信じていい。

……信じてほしい」


苦しげな囁き、全能の神とは思えないくらい。

リネは微笑んだ。


ゆっくりとルゥに腕をまわす。


抱きしめられた、ルゥの身体が、震えた。


「私……幸せです」


ルゥは、堪えきれないと顔を歪めた。


とても、人間らしい、仕草だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ