壱話「四天王会議」
「これから、四天王会議を始めます」
__今喋ったのが一番目の四天王、キアン。
きっかりしていて真面目すぎる。僕とはあまり気が合わない。種族は悪魔。
「うふふ~。毎月の会議、いつも暇だから楽しみなの~」
のんびりした雰囲気の二番目、マシロ。
ほわほわしてるけど、実は結構な戦闘狂。笑顔が逆に怖い。マシロも悪魔。
「今回は魔王様呼ぶかっ?」
おちゃらけた三番目、トレコ。
こういう軽い感じが僕は好き。
本人いわく「てんせい」してここに来たらしい。種族は人間と悪魔のハーフ。
.....で、肝心の魔王様は、最近やたら届く報告書の対応で忙しい。
でも僕はというと――眠い。
僕は思ったことをそのまま言うタイプなので、言います。
「眠い.....」
もちろん今のは僕。四番目の四天王、カルメ。
種族は亡霊と悪魔のハーフ。眠いと半透明になってくる。ほら、今も手が透けかけてる。
「眠いは今この場に関係ないだろ」
ほら出た、この真面目キアン。僕のつぶやきにすぐ反応する。
「いやっ、カルメはただ思ったことを言っただけだっ!」
トレコはこうして毎回庇ってくれる。優しいし、四天王の中で一番好きかもしれない。
「眠気覚ましに戦いしましょうよ~」
.....え?
あ、マシロの戦闘狂のスイッチ入った。すぐ戦いたがるから困る。
戦う気分じゃないんだけどどうしよう、と考えていたその時――
ふわり、と優しい気配が会議室に入ってきた。
「おやおや? 今回は何を話しているのかな?」
魔王様の声が響いた瞬間、空気が一変する。
声の主こそ、我らが魔王様――ツイレ様。
種族は悪魔.....と思ってるけど、本当は何なのか誰も知らない。
「カルメが会議に関係ない『眠い』という感想を勝手にしゃべったので注意をしていました」
「教えてくれてありがとう、キアン。では、本題に入ろうか」
「「「「はい」」」」
「.....人界で流れている噂についてだ」
その言葉で、さっきまでのゆるさが完全に消えた。
噂――魔王様が人界を支配しようとしているという、あの悪意あるやつだ。
「しかし噂とはいえ、なぜ急に広まったのでしょうか」
キアンが手を挙げる。やっぱり真面目。
「そうなんだよ.....『悪事千里を走る』とは言うけど、これはちょっと早すぎる」
魔王様の表情が曇る。滅多に見ない顔だ。
.....いや、「悪事千里を走る」って意味、少し違うような気がするけど、気のせいだよね。
「ただの噂ならまだ良いんだ。だが、この噂は意図的に広めている者がいるらしくてね」
意図的.....?
その瞬間、眠気が一気に吹き飛んだ。
「誰がそんな噂を広めたんだよっ」
トレコが珍しく真剣になる。こういう時はやっぱり四天王なんだな。
マシロは人界に紛れた魔族たちの報告をまとめていたはず。
それを見れば少しはわかるかもしれない。
「マシロ、報告のまとめを持ってきてくれ」
「わかりました~、持ってきますね~」
.....やっぱりこの人、何か怖い。
僕は半分亡霊だから殺されはしないけど、なんか怖い。
「もってきました~」
考え事をしているうちに戻ってきていた。
.....うーん、見てもよく分からない。
「実は、噂が広まり始めていた地域が特定できているんだ。この地図に書いてある」
魔王様が言うとキアンが地図を広げた。
赤いマーカーでぐるぐると囲まれた場所がある。
「メリマリア町、というところでね。人口も多い町だが、噂はここが最初だった」
メリマリア町?
あれ.....あっ.....頭が.....痛いっ.....!
――
__アレ、ココはドコ? ボクハ.....ドコニ.....?
ゴーン ゴーン
__オト.....ドコ?
――
「ヴッ.....!」
「どうしたんだ、カルメっ!」
気づけば机に突っ伏していた。寝てた.....?
でも夢の内容は、何も思い出せない。
思い出そうとすると、頭にきつく紐を巻かれたみたいに痛くなる。
でも何か、大事なことを――忘れているような.....
いや、思い出したらもっと怖い気がする。
「.....生前の記憶、いやカルメは生まれたころから半亡霊だ。『生前』はないはずだ」
キアンが小さくつぶやいた。
「カルメ、無理に思い出す必要はないよ。君が封印するのを決めたんだろう?」
魔王様の声は、まるで全部知っているようだった。
みんな.....僕の知らない何かを知っているのか?
__今知っても何も得るものはない。
.....なんで、僕こんな考えが浮かんだんだろう?
思い出さない方がいい。
思い出したら、もっと深いところに落ちていく気がする――。
「そうだ~。逆にカルメにメリマリア町に行かせてみるのはどうかしら?」
「僕、が?」
「今の状態のカルメには危険だ。私は止めておきたい」
メリマリア町。
それは僕にとって.....どんな町なんだ?
胸の奥が、不気味に脈打つ。
「カルメ、本当に行くのか?」
「.....はい。行きます」
こうして僕は――封印された自分の過去へ、足を踏み出すことになった。




