3話
陶子は、裂地の本を探していた。
器を包む布、茶道具を飾る裂、祖母の箪笥にしまわれていた帯。
それらが、少しずつ重なって見えるようになった。
光書房へのメールは、短く書いた。
こんにちは。
裂地についての本はありますか?
名物裂の写真と由来が載っているものがあれば、ぜひ教えてください。
青井からの返信は、翌朝届いた。
ご連絡ありがとうございます。
『名物裂百選』という図録がございます。
利休好みの裂地や、茶道具に添えられた布の写真が豊富です。裂は、器の記憶を包むものかもしれませんね。
よろしければ、発送いたします。
陶子は、返信を読んでから、祖母の箪笥を開けた。
そこには、色褪せた帯が数本、丁寧に畳まれていた。
手に取ると、布の手触りが指先に残った。
模様は、どこかで見たような気がした。
けれど、思い出そうとはしなかった。
その週末、等々力渓谷は少し冷えていた。
木々の葉は赤くなり、風が裂地のように細やかに吹いていた。
陶子は、五島美術館の展示を見たあと、渓谷の木橋に立ち止まった。
川の音が、布を撫でるように静かだった。
光書房から届いた図録は、裂地の写真が美しかった。
布の模様は、器の縁に似ていた。
どちらも、語らない。
けれど、見ていると、少しだけ語りたくなる。
陶子は、青井に短いメールを送った。
図録、ありがとうございました。
“間道”という裂、祖母の帯に似ている気がしました。
なんだか、懐かしいです。
青井からの返信は、いつも通り、静かだった。
間道は、縞の間に余白がある裂です。
その余白が、語らない記憶を包むのかもしれません。ご感想、ありがとうございました。
陶子は、メールを閉じて、湯を沸かした。
器に茶を注ぎ、裂地の図録を開いた。
語らないものに、少しだけ寄り添う時間。
それが、週末の静けさだった。




