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木漏れ日  作者: 双鶴


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2/6

2話

土曜日の午後、陶子は等々力渓谷を歩いていた。

仕事のある平日は、広告の締切と会議の波に揉まれている。

けれど週末だけは、渓谷の風に身を委ねる。

木々の間を抜ける風が、裂地の模様のように細やかで、静かだった。


五島美術館の展示を見た帰り、陶子はふと思い立ってメールを送った。

件名は「茶道具の本について」。

本文には、こう書いた。


こんにちは。

茶道具についての本を探しています。

特に、器の“景色”や“見立て”について書かれたものがあれば、教えてください。

先日、志野の茶碗を見て、縁の欠け方に惹かれました。

使われてきた器の“語らなさ”に、少しだけ触れた気がしました。


光書房からの返信は、夕方に届いた。


ご連絡ありがとうございます。

『茶の湯のかたち』という本がございます。

景色や見立てについての記述も豊富です。志野の縁の欠け方、私も好きです。

完璧な器より、少しだけ欠けた器のほうが、余白がある気がします。よろしければ、発送いたします。


陶子は、返信を読みながら、渓谷の木橋に立ち止まった。

川の音が、釜の湯気のように静かに響いていた。

完璧ではないものに、心が動く。

それは、器も、人も、同じなのかもしれない。


その夜、陶子は煮物を小さな片口鉢に盛った。

器が変わると、食べ物の表情も変わる。

そして、食べる自分の気持ちも、少しだけ丁寧になる。


光書房からの本は、翌週の土曜日に手元に届いた。

包みを開けると、裂地のような柔らかな紙に包まれていた。

器の本なのに、布の手触りを感じた。


陶子は、ページをめくりながら思った。

器は、語らない。

でも、語りたくなる。

その余白が、茶の湯の美しさなのかもしれない。


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