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初めてのリザルト




 感傷に浸るのも程々に、俺は今日の戦果を確かめる為に立ち上がる。入口に置いておいたカッパーコインや木の実も回収し……どうしたらこの【淵樹の密林】への入口が閉じるのだろうと首を傾げる。


 未だ開いたままの入口からは、もう既にトンボの姿は見えないが密林の景色が伺える。

 閉じ方を分からなければ、別の階層にも行けない……などと考えていると、入口のすぐ横の壁に【閉じる】の文字が書かれた看板が掲げられていた。


「ああ、そういう事」


 思ったより単純なシステムに気付かず悩んだ自分が少し恥ずかしかった。

 看板の【閉じる】の文字に触れると、石レンガの壁に空いていた密林への入口を塞ぐように、階層選択の掲示板が現れた。

 掲示板には【淵樹の密林:第1階層】と今日の探索で見つけた【淵樹の密林:第2階層】の看板が掲げられている。


「……明日は少し第2階層を様子見してみようかな?」


 本来ならある程度お金が貯まるまで第1階層に籠り、売店の目玉商品に俺でも手が出せるようなアイテムが並ぶのを待つつもりだったけど……今日宝箱を運良く見つけたお陰で時短が出来そうだ。


 手に持っている、ずしりとした重さの鉄の槍。鈍い輝きとその重さがとても頼もしい反面、今の俺にこれを扱い切れるという自信は無かった。


「筋トレでもするか」


 ただダンジョンを探索していく為にも、この鉄の槍を扱う為にも身体を鍛えて損はないだろう。いや、むしろ鍛えるべきと考えた方がいいか。


「さぁて……」


 今日稼いだ硬貨の枚数を数えようかな、という独り言を中断する。

 なぜなら後方から……具体的には売店の方からカツカツ、とあのチョークで文字が書かれていく音が聞こえたからだ。


 はじかれたようにそっちの方向を向くと、売店のレジのある後ろの壁に、チュートリアルでも見たあの白いチョークの文字が。


 『初めての探索、お疲れ様!そこで得た戦利品の売却の仕方は、レジの画面にある『売却』を選択すると読み取り機から、スキャンのレーザー光が照射されるから、それで売却したいものをスキャンすると、そのアイテムの詳細や売却額を見る事が出来るよ!『売却確定』を選択しなければ、アイテムが売られることは無いから、鑑定機能として使ってもいいかもね!』


 最後の!マークをカツ、と描いて……拠点の中に静寂が訪れた。

 入手したアイテムの売却方法と、それを使ったちょっとした裏技を伝えに来ただけで、他に何も無いようだ。

 念の為、他に文字が書かれている場所が無いか拠点の中を見て周り、無い事を確認して売店に戻る。


「売却確定を選択しなければ……アイテムの鑑定として使える」


 白いチョークの言葉が本当なら、鉄の槍の詳細と小猿からのドロップアイテムである木の実が人間でも食用可かを調べる事が出来る。


「とりあえず木の実から」


 レジカウンターに赤い木の実を3つ乗せ、セルフレジの画面を操作して、『売却』を選択すると、バーコードリーダーから赤い光が伸びていった。

 この光を対象に当てて、全体を読み取らせればいいんだろう。


「3つまとめていけるのかな」


 ……いけなかったらやり直せばいいだけか。


 レーザー光が木の実を通過していくように、スキャナーと化したバーコードリーダーを右から左に動かすと、レジの画面に『スキャン中』の文字が表示される。


「おっ」


 数秒待っているとレジの画面が切り替わり、木の実の詳細が表示された。


 『『キイチゴの実』……レア度:無し。甘酸っぱい小さな赤い木の実。素材アイテムとして使用可能。売却額:1カッパーコイン』


「キイチゴ……苺?」


 確か果物にそんな種類があったような気がするけど、これもこの仲間って事だろうか……覚えている事と覚えていない事がチグハグすぎて、自分で自分の記憶を不便だなと感じてしまう。

 

 『甘酸っぱい』と書かれていたし、多分食べれるやつなのだろう。売却額も1個1カッパーコイン程度だし、試しに1つ食べてみようと、口にキイチゴの実を放り投げる。


「酸っぱ!?」


 ブルルと体が震え、口が窄むほどの酸味が口の中に広がる。これのどこに甘味が存在しているのだろうか……酸っぱいだけで、食べれたものじゃない。


「食べなきゃよかった……」


 口の中がおかしい。あまりの酸味にどうやら舌がバカになってしまったようだ。

 でも、なんか癖になる酸っぱさだったな。食べて後悔するのが分かっているのに思わず手を伸ばしてしまいそうな……


「いやいや、2個連続は流石にない。せめて何か飲み物と合わせて食べよう」


 レジの画面を操作し、キイチゴの実の売却をキャンセルする。

 キイチゴの実の保管場所は……レジカウンターが広いし、ここでいいか。


「さて、お次は本命の鉄の槍……ではなく回復ポーションの小瓶にしとくか」


 『『低級回復ポーション:中量』……レア度:コモン。飲んでも患部に掛けても効果を発揮する魔法の薬。打撲程度までなら治すことが出来る。通常よりも瓶が大きく内容量が多い。売却額:3シルバーコイン』


「3シルバーコイン……」


 ドリンクコーナーにある同じ回復ポーションは1シルバーコインで売られていることを考えるに、3倍の量入ってるのだろうか。量が多そうとは感じていたけど、ここまでとは。

 

 それに、改めて考えれば低級の回復ポーションでシルバーコイン1枚だ。この値段でさえ、今の俺では持つ手が震えるというのに……中級、上級となったら一体どうなってしまうのやら。。


「……なんか、この槍も調べるのが怖くなってきたな」


 絶対高いってもう分かる。だって目玉商品で今並んでいる『青銅の剣』で約2シルバーコインなのだから、鉄が使われたこの槍はそれより高いのは通りだろう。


「鑑定しない方が遠慮無く使えるかな……?」


 いや、気になるからやっぱり鑑定しておこう。自分の使う得物がどんなものか、知っておく必要だってあるだろうし。


 『『鉄の戦槍』……レア度:レア。通常の槍を改良し、より戦闘に特化させた槍。剣と見紛うほどの重厚な穂先が、攻撃の威力を増加させている。売却額:6シルバーコイン 83カッパーコイン』


「……」

 

 レジの画面に書かれた分を読んだ後、立ちくらみするのを感じた。

 6シルバーコインと83カッパーコイン……それにレア度がコモンやアンコモンを超えてレアだ。RARE。


 今日モンスターを倒して稼いだ金額は、俺の数え間違えでなければ43カッパーコインになる筈だ。この稼ぎを10倍しても買えないほどの値段……


「……なんて俺は幸運だったんだろうか」


 こんな値段の武器を探索開始初日、最下層の第1階層でたまたま見つけた宝箱から入手出来るなんて。


 この武器を使えば木剣と比べるのが烏滸がましいほど、戦闘が楽になるだろう。戦闘が楽になれば、探索も快適になる。そうなれば稼ぎも増える……ダンジョンの先へも進める。


「なんて好調なスタートダッシュなんだろうか」


 それにまだ宝箱から小袋の中の金額も確かめていない。シルバーコインが中身がチラッと見えた時にあったのは覚えてるが……


「よし、小袋の中身も確認しよう」


 ポーチから小袋を取り出し、中身をレジカウンターに並べていくと、シルバーコインが2枚とカッパーコインが18枚入っていた。

 低級回復ポーションや鉄の戦槍のせいで、価値が霞んで見えてしまうが、それでも十分すぎるほどの値段である。

 

 これを合わせて計算すると……宝箱の中身だけで総額12シルバーコインと1カッパーコイン。今日の全体収支はこれにプラス43カッパーコインとなる。


「当分、生活の心配はしなくても大丈夫そうだ……」


 売店はとても親切な事にどれだけ高くてもシルバーコイン1枚の商品しか売られていない。

 それにそもそも今日の目標である30カッパーコインを稼ぐのも達成しているのを考えれば……


「……はぁ〜」


 思わず溜息が出る。安堵の溜息だ。

 目が覚めたら全く知らない部屋に居て、しかも何が原因か記憶も失って……これから先大丈夫かと不安だったが、どうにかなりそうで、本当に良かった。


「とりあえず今日は豪遊しよう。記念日にしよう」


 ベッドのある寝室の端に外した革鎧やベルト、鉄の戦槍と木剣をまとめて置いておく。

 今の拠点に収納なんてものは存在しないから直置きするしかないけれど……いつか拠点を発展させたりする事はできるのだろうか。


「さて、ご飯……と行きたいところだけど、先に体を綺麗にしよう」

 

 売店でハンドタオルを5カッパーコインで購入し、洗面所で水を含ませる。

 それで体を拭いていくと、少し冷たいタオルの感触が疲れた体に気持ちよく感じた。


「【淵樹の密林】の川で水浴びでもしとけば良かったかな……今度からはそうしよう」


 でもやっぱり風呂がいいなぁ、と思ってしまうのは日本人としての性か……記憶の大半を失っているというのに……


「ん?……ちょっと傷があるな」


 腕などの露出していた肌が枝などに当たって傷付いていたらしい。濡れタオルで拭いていると少しだけジンジンと沁みる。

 小猿に殴られた右肩にもアザが出来ていた。

 

 ……低級回復ポーションの効果は打撲程度の怪我を治せるというものだが、こういったちょっとした生傷には効果があるのだろうか。

 『打撲程度』という基準が曖昧な分、細かな部分を検証して知っておかなければならないだろう。


「いざ飲んでも怪我が治りませんでした、じゃ困るからね」


 ちょっとだけ低級回復ポーションを飲んでみよう。ほんのちょびっとだけ。それでも効果があるのかも知りたいし。


 そう思い、体を拭く手を止めレジカウンターに置きっぱなしにしていた低級回復ポーションの瓶を手に取る。

 瓶の栓を開けほんの少しだけ……1口の3分の1程度だげ、口に含んでみた。


「……」

 

 飲んでみた感想は清涼感を感じるスッキリとした味で、意外と美味しい。感覚としてはお茶に近いだろうか。


「……おお!」


 果たして回復ポーションの『回復』の効能はどんなものかと、自分の腕を見てみるとバッチリ生傷が無くなっていた。

 生傷の中では1番酷かった、薄皮が剥けて血が滲んでいた場所も薄皮が張られている。

 それに小猿に殴られた右肩のアザも随分と小さくなっている。


「なるほど、摂取量によって治る量も変わるのか」


 これは良い検証結果になった。

 これから先回復ポーションを使う時に節約が出来るぞ、とほくそ笑みつつ、最後に洗面所で頭や着ていた服も全て軽く洗う。


「よし!……何食べようかな。記念日に相応しいものあるかな」


 水気を絞った服やタオルを適当に干して……石レンガの拠点には誰も居ないことを良い事に、全裸で売店をウロウロする。

 しょうがない事だ、だって現状で服は1着しかないんだから。俺だって恥ずかしい、でもしょうがない。大事だから2回言う。


 全裸のまま、売店で何を食べようか迷い……コーラとハンバーガーを買うことに決めた。

 売店に売っていたハンバーガーは、ハンバーガー店で売られるようなものと比べれば地味ではあったが、惣菜パンやおにぎりなどの軽食程度ものしか売られていない売店のラインナップでは、俺の目には十分豪華に映った。


「欲を言えば温めたかったけど……外で焚き火でもすればいいのかな?」

 

 ハンバーガーを咀嚼しながら、今後の生活の仕方に着いて考える。

 現状のこの石レンガの拠点では必要最低限の生活しか出来そうにないが、ダンジョンの物を活用すればどうにか出来る気もする。


「モンスターの対処が出来れば……だな」


 その為にももっとダンジョンを探索して、もっと強くなって、もっとモンスターの生態の詳しくならなければ。

 最上階までどれくらい掛かるか、今の俺には判断出来ない。つまりダンジョンから解放されるのがいつになるのかも分からない。


「だけど一生ダンジョンの中に居るつもりもない」


 諦めるつもりなんて一切無かった。このモチベーションがどこから来ているのか、自分でも謎ではあるが……やる気がある内にやれる事はしておこう。


 決意を胸に、ハンバーガーの最後の一口を飲み込んだ。



 

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