久しぶりの再開
『巡逢の割符』は、何かしらの模様が描かれた板を半分に割って作られたアイテムだ。
そして割符の所有者のどちらかが集会所に居る時、もう片方の所有者のダンジョンに集会所への入口が出現する確率が上がるという効果を持っている。
俺が持っている割符は3人分。
まず1つ目はダンジョンでの第1遭遇者、『俺』の名付け親にして、何故か俺が気になって仕方ない美女ルキとの割符。この割符には環状の花飾りが描かれている。
次に2つ目。俺の魔法の師匠であるワイズさんとの割符……こちらは月と魔法陣のデザイン。
そして3つ目、ついさっき出会い割符を持つようになったイアスさんとの割符。これには何らかの樹形図が描かれている。
俺が関わってきた他のダンジョン攻略者の数は本当に数えられる程度しかいないから、この割符の所持数が多いのか少ないのかは分からない。
沢山持っておけばそれだけダンジョン内での安全地帯の出現率が高くなる訳だから、沢山持っておきたいという気持ちはある。
かと言ってウマの合わない人間と無理に割符を交換して、その人間と顔を合わせる回数も増えると考えれば、気軽に割符を持つ事も憚られる。
そんな中、俺との割符を持つ相手はいつ集会所で顔を合わせても嬉しいと思えるような人だけなのは、多分幸運な事なのだろう。
……こうして、集会所に当人達がやってくるのを待っていられるくらい幸運な。
「……おー、中級回復ポーションの錬成素材って結構『海淵の墓都』で手に入るんだぁ」
ルキとワイズさんのどちらかが、それか2人とも集会所に来ないかな、と希望を持ちながら集会所の掲示板で情報を集める。
石レンガの拠点に戻れば、この掲示板に書かれた事が元となった図鑑などが手に入るし、何冊か既に買ってはいる。
だが集会所から拠点に繋ぐ入口は、確か数十秒で閉じてしまう仕様になっていたはずだから、拠点に戻って誰かを待つ事も出来ない。
辛うじて、拠点に物を取りに行くくらいしか出来ないだろう。
だからこそ、図鑑の情報源である掲示板の生書き込みを見て、情報収集をして待ち時間を潰す。
「あ、ステータスを上昇出来るあの巻物って普通に目玉商品としても並ぶ事あるんだ」
『取捨選択の部屋』やイベントでも交換してきたあの『巻物』系のアイテム。上昇値が少ない物でも最低50シルバーコインはするらしい。
まあ、コインさえあればいくらでも買える事を考えたら相応の値段……か?
「でも平時でも手に入るって事を知れただけでも嬉しいな」
巻物系のアイテムはイベントくらいでしか手に入らないと思っていたから、これから長い間魔力量が25しかない状態が続くと思っていたが……目玉商品に魔力上昇の巻物が並ぶ可能性が知れた事は、本当に嬉しい。
出来れば将来的に、ダンジョン探索中常に魔力強化状態で居られるくらいの魔力量が欲しいし、更に言えばその状態でも魔法を使って戦いたい。
下手したら数千……いや数万の魔力が必要になるだろうが。
「……うん?」
そんな事を夢想していると誰かが集会所にやってきた。
30分くらい待ったか。俺の想定よりも早い来客に知っている人だったら良いな、知らない人なら性格良い人が良いな……と考えながら、誰が集会所にやってきた人を確かめると……
「ルキ!」
会いたいと思っていた人の姿が見えて、思わず駆け寄る。
「ん?……マシロか……」
久しぶりに見たルキの姿は少し疲れているように見えた。大丈夫か、と聞いてみようかと俺が考える間もなく、ルキは俺の事を認識するや否や、俺の腕を引っ張る。
「わぷっ……!?」
「はぁぁぁぁぁぁ……」
ルキは俺の事を抱き締め、長い溜息を吐いた。体格差的にルキの大きな双丘に顔が包まれてしまい、少し息苦しいので身動ぎをして何とか息を確保する。
「疲れてるね。とりあえず座ろう?」
入口の正面で立ったまま抱き締められるのもアレなので、ルキの背中を叩き席に誘導する。
「そうだな……」
誘導通りにルキは足を進めてくれたが……どうやら俺の事を離す気は無いのか、腕は俺の体に回ったままだ。ルキが席に座ってもそれは変わらず、自然とルキの膝の上に座るようの形になった。
肩に顔を埋められ……自分の体が汗臭くないか少し不安になる。
一応そういうエチケットは気にしているつもりではあるが……集会所に来る前は普通に探索していたから余計に気になってしまった。
対してルキからは汗臭くさなど微塵も感じなかった。俺と同じように探索して来たはずなのに。その上俺も使っている、売店に売っている洗剤の匂いのはずなのにどこか甘いような良い匂いが……いや、この思考は少し変態的か?
「……久しぶりだな」
俺が頭を振って変な思考を追い払っていると、俺の肩に顔を埋めているから少しくぐもったルキの声が聞こえてきた。
「うん、久しぶりだね。イベント後から……あ、もう少しで1ヶ月くらい経つ?」
ルキの息が少しくすぐったい気もするが、ルキは多分離してくれないだろうし我慢しながら口を開くと、もぞっと俺の肩に顔を埋めたままルキが頷く。
本当に一体どうしてしまったんだろうか、ルキは……いや、少しなら分かるかも知れない。
人が癒されたいと思った時、人肌が恋しくなったりすると聞く。それに確かハグはストレスを緩和させる効果があったりしたはずだ。
現在の状況的に考えて……見て分かるくらいに疲れを滲ませたルキが俺に抱きついて離れないのは、きっとそういう事なんだろう。
俺に疲れを癒せる特殊能力なんかは持ってないが……求められて悪い気はしなかった。
「……」
「……」
とりあえず俺もルキの体に腕を回し、互いに抱き合うような形になる。
お互いある程度の防具を身に付けている状態だから、それが干渉して体全体を重ね合わすことは出来ないが、それでもじんわりと温かい体温が伝わってきて、どこか安心してきた。
「そんなに疲れてどうしたさ?」
「……ここ最近、少し根を詰めすぎたみたいでな。マシロの顔を見た途端、気が抜けたのか自覚の無かった疲労が押し寄せてきた」
俺の顔はそんな気の抜けるような顔だったのか?それとも俺の顔を見て安心してくれたのか……出来れば後者である事を祈っておこう。
「あ、隈」
ルキの膝の上に座っている形なので、いつもよりもルキの顔が近い。至近距離で見つめ合っているようなもので、だからこそルキの目の下に薄く広がる隈に気が付いた。
「本当か?……少し気を付けないとな」
「近くで見ないと分からないくらい薄いから、すぐ消えると思うよ」
ルキの目の下を軽く撫でる。そんなにハッキリした隈でもないし、原因は疲労と……多分寝不足と言った所だろう。
「ふふ、少しくすぐったいぞ」
俺からルキに直接触れるのはこれが初めてだから慎重にし過ぎたらしい。触るか触らないかのギリギリがルキにはくすぐったく感じるみたいで、触られている方の目を瞑ったたままルキがクスクスと笑う。
うわ……まつ毛長……
「……マシロは『セレクトチケット』って知ってるか?」
イアスさんとは違う、人間的な美しさを持つルキの顔を楽しんでいたら、唐突にルキがそんな事を聞いてきた。
「セレクト……カテゴリセレクトチケットならこの前手に入れたよ」
「うん?それじゃあ『水妖宮』をクリアしたのか」
その言葉に頷くと、おめでとうと言ってルキが頭を撫でてくれた。
「じゃあ話は早いな……実は5日程前に宝箱から、最高レアのアイテムを1つ確定で目玉商品に出現させるチケットが手に入ってな」
「えっ!?最高レア!?……凄いじゃん、おめでとう!」
「ああ、ありがとう。買い逃さないよう金稼ぎに奮闘していたところだったんだ」
なるほど、だから疲れてたのか。もっと深刻な理由とかではなく……むしろ健全な理由で安心だ。
多分俺も似たような状況になったら、隈が出るほどお金稼ぎに勤しんで、確実に買えるように備えるだろうし。
というか『水妖宮』のクリア報酬であるカテゴリセレクトチケットをまだ使ってない理由がまさに同じ理由だ。
「最高レアって言うと……レジェンダリー?」
「いや、その1つ上の『ユニーク』というレア度だ。レア度は6段階あってコモン、アンコモン、レア、スーパーレア、レジェンダリー……そしてユニークだぞ」
「おお、6段階もあったんだ」
スーパーレアとユニーク……どちらも知らなかったレア度だな。レジェンダリーは1度見た事があったが、どうやら1つ段階を飛ばしてしまったらしい。
「レア度がユニークのアイテムは、全ての『選定の狭間のダンジョン』にただ1つしか存在していないらしく、誰かに買われたユニークアイテムは二度と目玉商品として並ばなくなるらしい」
「へえ、そうなんだ……流石、最高レアなだけあるね」
じゃあルキがこれから買う予定のユニークアイテムは、ルキだけしか持ってない特別なものになるって事か。
オンリーワンの自分専用のアイテムかぁ……憧れるなぁ。
「今まで目撃されたユニークアイテムの情報を見るに、どのアイテムも余裕で数十プラチナコインが必要らしくてな」
「プラチナ!?」
1番価値の高い種類のコインが何十枚も必要って……値段も流石に最高レアって感じだな。ゴールドコイン1枚で大はしゃぎ出来る俺からしたら、雲の上の世界だ。
俺が今居る場所で大体モンスター1体につき、1シルバーコインとカッパーコイン数枚、まあ端数は切り捨てて考えるとして……数十万体倒さないと、買えないってことか!?
「……すっごいね。大変だ」
上の階層、上のエリアに進む事でモンスターがドロップするコインの数は多くなると考えても、その上昇値には限度があるだろう。
逆に考えて、一体どんな効果を持ってればそんな高い値段がつくのか……
「そうだな……けどある程度力を付けたら、1日で1エリアクリアとか出来ると思うぞ」
「えー?本当に言ってる?」
「ああ。モンスターの強さの上限みたいなのがエリアの数によって区切られてたはずだ……確か、10エリア分ずつだったかな?」
なるほど?確かに階層を進む毎に、エリアに進む毎にモンスターが強くなってるとは思ってたけど……10エリアを境目にモンスターの強さは決まってるのか。
20エリア目に通用する力を持ってたら、1~10のエリアなんて雑魚ばっかに感じれるって事なんだろう。
「マシロも多分もうそろそろ『強さの壁』を超えて、急にダンジョンの探索が楽になってくる頃じゃないか?」
「壁……そうかな。全然そんな感じはしてないけど」
まだまだモンスターとの戦いで苦戦することもあるし……いや、ルキの視点からすればそれが強さの壁を超えてないからって事なんだろう。
「あとは……やはり武器や防具のレア度だな。レア度が高いアイテムを、エンチャントとか強化アイテムを使って強化していけば、攻略スピードは段違いに変わる」
「エンチャントかぁ……まだ目玉商品として並んだ事無いし、取捨選択の部屋でしか見た事ないんだよな〜」
あの時は見たのは、確か攻撃力を高めるエンチャントだったと思う。上を目指すなら、そういう機能も使っていく事が重要か。
「まあ、私が使っているこれはレアのものだから、あまり人の事は言えないんだが……」
ルキはそう言って腰に差してある剣の鞘をポンと叩く。
「えっ!?それレアの武器なの!?」
「実はそうなんだ。私に合う剣と中々出会えなくてな……エンチャントを幾つも重ねて誤魔化してるが、そろそろ火力不足気味なんだ」
そうか……俺はダンジョンに来てから戦うようになったから、特に何も感じなかったけど、来る前から戦いに身を置いてた人は自分の戦い方に合う武器を見つける必要があるのか。
「でも、レアの武器でも使い手次第じゃもっと上目指せるって事だよね」
「まあ、そうだな。私が集会所で出会った人には、コモンの武器を愛用する人なんかも居たよ。ああ、あと自作する人も」
「……それは、ちょっと度が過ぎてると思うけど」
コモンの武器を愛用、ならまだ分かる。コモンのアイテムはどれもシンプルな造りで癖がないから。
ただ自作とまで行くのは……確かに自分で自分に合うように作れば、これ以上無い武器だろうけど、それを作るだけの技術も必要だ。それに素材集めも大変だろうに。
「他にマシロに必要なものと言えば……いつか自分の戦い方を模索していって、自分の芯になるものを見つけていく事か?」
「戦い方の芯、か……」
現状で言うと、盾で攻撃を防ぎながら槍のリーチを活かして戦う方法か?……でも芯って言うほどの物でも無い気もする。槍じゃなくて剣を使う事もあるし。
……分からなくなってきた。もうこれは素直に聞いてしまおう。
「芯って何?」
「武術の型、みたいなものだよ。それを発展させると、自分の必勝パターンになるもの」
武術の型が発展して必勝パターン……?
「?……???」
「ふふ、まだ難しい話だったか。すぐに築くものでもないしな。これは地道にやっていくのが一番の近道だから、今はこの話を覚えておくだけでいいぞ」
余計に頭がこんがらがって来た俺を見て、ルキが俺を笑いながら撫でる。
よく分からなかったが……ただ戦ってモンスターを倒すだけじゃダメな事は理解出来た。
そもそも槍という武器種をメイン武器に見据えて行くかすら決まってないんだから、まだまだ俺には早い。
一応、盾を使って戦うのが肌に合っていると自分では思っているが……いやこれは確か、まだまだ筋力が足りずに鉄の戦槍を十全に扱えてないから考えた戦い方だったっけか?
今じゃあもっと良い戦い方があるのかもしれない。
「ちょっとずつ考えてみるよ」
「ああ、頑張れ」




