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今度は教える側




「ああ、そうだ。私の名前はイアス。気軽に呼んでくれて構わないからね……マシロ少年のお名前は?」

「あ、俺はマシロです」


 イアスと名乗ったエルフの人は、俺の名前を聞いてニコリと笑いながら「良い名前だね」と頷く。

 ルキが名付けてくれた自分の名前が褒められた事に喜びを感じつつも……イアス、さんの性別がどちらかが全くわからなくて疑問に思う。


 男としても女としても見れる完成された容姿。

 体格を見れば分かるかと思い、イアスさんの体を目線を向けても……どちらとも言えなかった。

 線の細い男性として通用するし、胸の小さい女性としても通用する体つき……究極の中性、といった印象だ。


「えぇっと……ダンジョンについて、だったよね」


 俺も知っている事は決して多くは無いが……知っていることを頭の中で反芻して、どう伝えるか言葉を構築していく。

 ルキから教わった事、自分で知った事、掲示板の書き込みを見て集めた事……それらを思い返しながら口を開く。


 まずダンジョン攻略は基本的にソロで行うしか無い事。

 それぞれが固有の……しかし内容は共通したダンジョンに転移していて、自分の居るダンジョン内に自分しか人間が存在してないが、この集会所という場所では他のダンジョンに繋がり、他人と交流出来るという事を最初に伝える。


「ほう?……じゃあ私のダンジョンとマシロ少年のダンジョンが集会所を通して繋がってた結果私達は出会えたという事か」

「そういう事……あとは集会所以外にも、イベントっていう催しが不定期開催されるみたいで、そこでも他人との交流が出来るよ。つい……数週間前に開催されたばかりだから次がいつかは分からないけど」

「ふぅむ……」


 それから集会所で出来ることから始まり、何から何まで知っていることをすべて話す。イアスさんからの質問に答えたり、普通に雑談したり……小一時間話しただろうか。緊張が程よく解けて、イアスさんの容姿にも慣れ、会話の中で距離も縮まり仲良くなれたとは思う。


「へぇ、マシロ少年が居た世界じゃあ魔法なんてものは無かったんだ……平和な世界だったんだね」

「俺が認識してる限りでは……の話だけどね。もしかしたら裏でそういう事があったっておかしくないし」


 実際俺が『転移』なんて現象を身をもって体験し、そんなファンタジーな出来事が存在していると知った身では、日本が本当に安全な国だったかは分からない。

 ……もちろんそういうファンタジー的な安全か、という意味でだ。


「でも、ここに来てから魔法を使えるようになったんだよね」

「そうだね、さっき話したイベントで知り合った人が魔法の研究をしていて、その人に色々教わったよ」

「……私の居た世界とは違う魔法体系か。ちょっと気になるな。マシロ少年さえ良ければ、機会があればその人のことを紹介してほしいね」

「もちろん……と言いたい所、だけど集会所での交流って運がほとんどだからな」


 紹介しようにも、本人が居ないと難しい。まあ……とりあえず、ワイズさんのことを触り程度に教えよう。名前と容姿と、どんな雰囲気の人か……それくらいなら話しても良い筈。

 ワイズさんもきっとイアスさんのようなエルフの人が使う魔法がどんなものか気になるはずだし。


「ああ、そうだ。じゃあイアスさんが良ければ『巡逢の割符』を俺と持たない?」

「集会所で買えるアイテムの事だったね……うん、もちろん。むしろ私からお願いしたいくらいだ」

「やったー!」

「ふふっ」


 イアスさんから賛成を得られたので、早速レジに向かって『巡逢の割符』を購入する。

 ルキとの割符とも、ワイズさんとの割符とも違うデザインの割符の片方をイアスさんに渡す。


 ……いろんな意味ですっごい人と友達になっちゃったな。


「これを持っていれば、マシロ少年が集会所に居る時私の所に集会所の入口が出現しやすくなるんだよね?」

「そうそう……拠点に置いといても効果あるみたいだから持ち運びしてなくて大丈夫だよ」

「うんうん、分かったよ。ありがとう、マシロ少年」


 フッと優雅に笑いながら割符を撫でるイアスさん。この光景を絵画みたいに切り取って飾ったとしたら、名画間違いなしってくらい様になっている。


「……俺の方からもちょっと聞きたい事があるんだけど」

「うん?私の事かい?……そうだねぇ、私は果物なら何でも好きだよ。特に果汁の多い果物に目が無くてね。私のおすすめは……」

「いや、好きな食べ物は聞いてないから……」


 イアスさんと会話をするにつれて分かってきた事だが、この人は今みたいに小ボケをする事が多い。

 聞いてもない事を喋ったり、ダジャレのように韻を踏んだ時に「えっ!?」て反応するし……話し出したら止まらない癖に、止めないの?って目で見てくる。


 随分愉快な性格をしているが……それすらも長所として受け入れてしまえそうだ。やはり、美しさは万物に勝るという事なのか。


「イアスさんは、弓使いなの?」

「ああ、これかい?」


 俺が聞いた言葉にイアスさんは隣の椅子に置いていた『鉄の弓』を掴み取った。

 確かアンコモンのアイテムだった気がする。木製の弓にフレームとして鉄が貼り付けられた弓だ。


「そうだね……弓使い、と名乗れる程度には弓の腕には自信があるね。元々森の中で生活していたっていうのもあって、狩猟をよくしていたよ」

「そうだったんだ……でも、それにしては矢筒が見えないけど」


 俺も1度弓に手を出そうか考えた事もあったから分かるが、このダンジョンで『弓』というカテゴリーの武器は結構不遇気味だ。

 

 矢の補充方法が目玉商品として並ぶくらいしか存在せず、矢も使用すれば折れたり、例え無事だったとしても、回収出来なかったりとほとんど消耗品のようなものだ。

 そんな物を毎日のように消費するし、補充方法が目玉商品に並ぶまで待つしかないという矢の数は、直ぐに底をついてしまうだろう。


 それ故に弓矢を使う人間の事を、イベントの時は全くを言って良い程見なかった。

 その事をイアスさんに伝えると、俺の疑問になるほど、と合点がいくように頷いた。


「マシロ少年が気になるのも無理は無いね。でも私は特殊な魔法が使えてね……元居た世界でエルフのみが使用できた魔法で、草花や木々を生み出したり成長を早める事が出来る」


 植物を?……ワイズさんからも聞いた事ない魔法の属性だ。


「それを使って木の矢を量産出来るんだ。木を圧縮すれば鏃としての強度も十分だしね」

「へぇー!そんな事も出来るんだ!……木を操って矢を量産かぁ」


 確かにそんな事が出来れば矢の数の心配はしなくて十分だ。最初だけ乗り越えてお金さえ貯めれば、あとは目玉商品に『矢』のアイテムが並ぶのを待てば、万事OKだろう。


「だからその場その場で矢を生成させれば、矢筒なんて荷物は持たなくて済むんだ」


 イアスさんの慣れた様子を見るに、ダンジョンに来る前から似たような事をしていたと分かる。

 だから数日で初期エリアをクリア出来たんだろう。もしかしたら、俺が居る階層なんてイアスさんは一足飛びで越えていってしまうかもしれない。


「マシロは……剣士って所かな?」

「あ……うん。今はそうだね、でも槍とか斧とかも使って戦うよ」


 今度はイアスさんが俺の隣に置いてあるものを見る。

 俺のことを剣士なんて言ってくれたが……そもそも武器をまともに扱うようになったのも、多分ダンジョンに来てからだろうし、剣術なんて当然修めてない。

 我流と言えば聞こえはいいけど、到底剣士と名乗る気にはなれない。


「じゃあマシロは戦士だね。特定の武器も特定の術も持たず、ただただ戦う者」


 その事をイアスさんに打ち明けると、微笑みと共にそんな事を言ってくれた。


「戦士、かぁ……」


 モンスターを倒せれば良いってスタンスの俺には、それすらも少し烏滸がましいが……謙遜も過ぎれば嫌味になる、か。


「さ、私はダンジョンに戻ろうかな。マシロと出会えたおかげで大体の疑問も解消されたしね」

「……むしろ大した情報も知らなくて、ごめんって感じだけど」

「全然そんな事ないよ!何から何まで気にして生活するのは気がすり減るからね。それに自分にとって本当に必要な事は自ずと知れてくるものさ」

「本当に必要な事……」

「そう、必要な事。まだまだ比較的下のエリアを攻略している私達にとって、このダンジョンが何のために存在してるのかを知ってもまだ意味が無いって事さ」


 イアスさんは「分からない事はまだ分からないままで良い」と達観したような、そんな事を言いながらダンジョンへ戻る準備を進めていく。


「いずれ知る必要がある事だとしても『今の私』は知るべきでない、みたいなね」


 イアスさんのそんな言葉がストンと俺の心に響く。『今の自分』『未来の自分』……そんな自分の事を分けて考えるようなその考え方が、俺の考え方と似ていて妙に納得出来た。

 記憶を失う前の『俺』と記憶を失ってからの『俺』とで、決別を図った俺にとっては。


「マシロはこの後どうするんだい?」

「ん……ああ、俺はこのままちょっと残ってるよ」


 もしかしたらルキやワイズさんが来るかもしれないし……それにテーブルにはまだ一口も手を付けてないホットドッグが残っている。


「そうか……じゃあ、また集会所で再開する時までさよならだね」

「ダンジョン攻略、頑張って」

「ああ、ありがとう……マシロに精霊の導きがあらんことを」


 イアスさんは最後に何やら言って、集会所から出ていく。

 

 ……精霊の導きが〜、なんて言っていたけど、エルフの文化かな。



 

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