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『図鑑』入手と……




「へえ……あのタコのボスの名前『アスティウラ』って言うんだ」


 石レンガの拠点、その寝室でベッドに寝転がりながら辞書のように分厚い『本』のページを捲る。


 この本の名前は『モンスター図鑑』……『選定の狭間のダンジョン』の各エリアに出現するモンスターの情報が、ボスを含め記載された本だ。

 タコボス……いや、アスティウラ討伐後の『蒼映の湖畔』でリフレッシュしたり、溜まっていた素材アイテムでポーションを錬成したりと休暇を取ってたら、いつの間にか売店に並んでいた。


「前ルキが、集会所の掲示板を拠点でも見れるようにしようとする人達が居るって話してたけど……本として売られるようになったんだな」


 多分だが、このダンジョンを作り俺らをここに転移させ、管理している存在が、ダンジョンの攻略に有用だと思ったからだろう。


 確かに今まであだ名のような感じで呼んでいたモンスターの名称が知れるだけでもありがたい。その上、主な攻撃方法、ドロップアイテム、弱点部位や弱点属性……果てには生態なんてものも載っている。多分生物学者とかそっち系の人が関わってそうだ。


「まあ、ネタバレにもなるから好みによって買う人も買わない人も居そう」


 俺もそういうの少し気になるタイプだから、先の階層のモンスターの事は名前ぐらいしか覚えないようにしている。

 詳しく読むのは、倒した事のあるモンスターのみだ。


「……ん?」


 そんな中、つい先日倒したばかりのタコボス……アスティウラについてのページを読んでいると気になる記述を発見した。


「……『当ボス戦は討伐では無く、ある程度ダメージを与え撃退する事で、次のエリアへの道が開かれます』……?」


 どうやらアスティウラの8本足の触手の半分を、切り落としたりダメージを与えて動けなくする事でボス戦が終了するらしい。

 時間制限ありの撃退戦が『水妖宮』のボス戦のギミックだと、図鑑に書いてある。


「『撃退したボスは後述のエリアで再登場し、そこで討伐という流れになります』……」


 もし第3エリアで討伐した場合は、別エリアのボス戦はスキップ出来る代わりに……ドロップするアイテムがエリア相応のものとなります。


「マジ……かよ……」


 慌ててアスティウラの本来のドロップアイテムを見る為、本来アスティウラを討伐する事になるエリアでの、アスティウラの詳細ページに移動する。

 するとドロップアイテムの詳細には、ゴールドコイン20枚や何やらすごそうな名前のアイテム名が書かれていた。

 

 図鑑から目を離し拠点の天井を仰ぐ。


「……ッスゥーーーー……」


 俺が『水妖宮』でアスティウラを倒した時に貰えたドロップアイテムはまずゴールドコインが2枚だ。

 この時点で本来の報酬の1割しか無い。


「そして『海洋のピアス』……水属性の魔法の被ダメージを減少するアクセサリーと……」


 ……『カテゴリセレクトチケット』の3つだ。

 

 このチケットは前にあったイベントのランキング上位の報酬としてあったものと同じもの。

 目玉商品に並ぶアイテムのカテゴリーを1回だけ操作出来るというもの……細やかなカテゴリーを指定出来るのではなく、大まかなカテゴリーしか指定出来ない。

 剣や槍オンリーでは無く、全種類まとめて『武器カテゴリー』……みたいな。

 そういうチケットだ。


「って事は……『水妖宮』でアスティウラを討伐するうま味ゼロってマジ!?」


 撃退でも同じ報酬貰えるのに!?


「……ま、まあ先のエリアのボス戦をスキップ出来た事が最大の報酬っておも、おおお……お、思おう……」


 それが一番良い……倒してしまったものは仕方ないし……


「んな事思えるかっつーの!なんだよぉぉ……!倒されることくらい考えとけよぉぉぉ!!」


 あれか!?鉄の戦槍がダンジョンの外で回収出来なくなった時、なんで部屋の中に転移させられたんだって思ったけど、本来倒されるはずのないモンスターが倒されちゃったから様子見でもしに来てたんか!?

 だからピンポイントで鉄の戦槍転移させてくれたんか!?


「うわぁぁああああ!」


 ベッドに突っ伏して足をバタバタさせる。

 これは引きずる。少なくとも3日はこのモヤモヤした気持ちをズルズルと引きずるね。


「……切り替えよ……」


 実際、倒してしまったものは仕方ないのは本当の話だ。いくら悔やんだって、どうにもならない。

 ベッドで不貞腐れてても、何も生産性が無い。


「……はぁ」


 ダンジョンに出て気分転換でもしよう。

 もう十分休んだしそろそろダンジョンの攻略を再開しようと思っていた所だ。

 せっかく『カテゴリセレクトチケット』を消費したのに目玉商品に並んだアイテムがどれも高すぎて買えない……なんて事が起きないようにお金も貯金しておきたいし。


 ため息を吐きながらベッドを降り、第4エリア……『海淵の墓都』を探索する為に準備を始める。


「今日は、騎士の剣を使おう」


 アスティウラ戦で思い切り海水を浴びた鉄の戦槍は、錆びないように手入れはしておいたけど……今回は休みという事で。


 魔鉄シリーズの防具を身につけ、剣を鞘ごと腰に下げる。

 ポーチには回復ポーションから毒消しポーションなど、各種ポーションを入れて有事に備える。


 『海淵の墓都』は海底に沈んでしまったピラミッドの中のエリアで、内部にはミイラやスケルトンといったアンデット系と分類されるらしい死霊のモンスターや墓守のモンスターが出現すると図鑑に書いてあった。


「アンデットかぁ……」


 『水妖宮』から思ってた事だが、とうとう出現するモンスターもファンタジー感が強くなってきたな、と何故か感慨深くなる。


「さて……中級回復ポーションの錬成素材もドロップするらしいし、気合い入れていこう!」


 流石にダンジョン内に、やらかしてモヤモヤする気持ちを持ち込むのは命取りにやる。

 バシバシと自分の頬を叩き、沈んでいた気分を無理矢理持ち上げる。


 『海淵の墓都:第1階層』……全体を通して13階層目になる新エリアの最初の階層。

 そんな場所に足を踏み入れて始めて思った事は『不快感』だった。


「……雰囲気悪っ」


 砂を固めた砂岩で作られたピラミッド……その内部の空気は墓として相応しいくらいに澱んでいた。

 海底にあるという事で壁にフジツボがあったり、かと思った蜘蛛の巣が張っていたり……一部が欠けて水が滴っていたり……ロウソクの小さい火ぐらいしか光源が無く全体的に暗い。


 細く狭い通路には圧迫感を感じ、どこからかくぐもった音が響いてきた。


「嫌ぁな感じ……」


 床は海藻や珊瑚にも侵食されているし……というかなんか、特定の何かの匂いがするわけではないけれど、ちょっと臭い気がする。

 顔を顰める程でもないが、あまり気分の良いものではいない……死臭、というものだろうか。


「うわ、普通に骨とか転がってんだ」


 モンスターの気配を探りながら中を進んでいくと、白骨が道の先に落ちていた。

 1本の骨は半分程度から砕けていて、多分元の形がどんな形をしていたか分からないが、多分長細い形をしていたんだろうなと推測が出来る。


「人の骨……だったりしてー……」


 自分の腕を見下ろし、骨の形を想像して見比べてみる。

 ……墓でピラミッドの中だから、普通に有り得そうで思わず鳥肌が立ってしまった。


「やめよう……雰囲気に引っ張られて思考が良くない……っ!?」


 狭い通路を歩いて、曲がり角に差し掛かり道を曲がった瞬間……目の前が骸骨の顔でいっぱいになる。


「うわわっ!?……あっぶね!?」


 急なホラー展開に驚いて数歩後ずさったおかげで、頭蓋骨の持ち主……スケルトンの腕の振り下ろしを回避する事が出来た。


「うぉ……ほんとに、ビビったぁ……」


 ひとりでに動く人型の白骨死体と距離を取って、騎士の剣を鞘から抜き、魔鉄の盾を背中のホルダーから外す。


 目の前に急に骸骨の顔が広がったのには心底驚いた。

 アンデット系のモンスターっていうのもあって、どうやら気配を感じ取れなかったらしい。


「……索敵に苦戦しそうだなぁ」


 『水妖宮』に出てきた水の幽霊……アクアレイスの存在を捉えるのも、苦手な節が前々からあったし、俺は今のところちゃんと生きている生物の気配しか感じ取れない可能性が出てきた。


「カタカタカタ」


 スケルトンは顎の骨を揺らしカタカタと音を立てながら、俺に近付いてくる。

 そのスピードは人が普通に歩く程度で、動きも人のそれと変わりは無いが……全体的に骨が揺れてるせいでちょっとホラーチックだ。


「というか、普通に攻撃通るのか?……っは!」


 試しに騎士の剣をスケルトンの胴体に向けて斜めに振り下ろす。

 ガキン!と骨にぶつかったにしては硬い音と感触が伝わってくる。それでもスケルトンの……鎖骨あたりに一筋の傷を付ける事は出来た。


「……生前、牛乳が好きなタイプだったりしました?」

「カタカタ」


 澱んで暗い雰囲気とさっきのホラー展開が相まって軽口を挟まずには居られない。

 俺の問いの返答は鋭く尖った骨の指先での引っ掻きだった。


 ギャリギャリと魔鉄の盾の表面を引っ掻くスケルトンの尖った骨の指先。

 金属が擦れる甲高い不快な音に眉を寄せつつ、今度は人だったら当たり前に弱点である頭部を狙って、騎士の剣で刺突をする。


「はあっ!」


 普段槍を使って戦っているから『刺突』という攻撃方法には少し自信がある。

 そのおかげかは分からないが……騎士の剣の切っ先は狙い通りスケルトンの頭蓋骨を貫く。


「おっと!」


 貫くが、やはり真っ当な生物では無く頭蓋骨の一部が掛けた程度ではスケルトンは微動にしない……所か、気にせず引っ掻こうとしてきた。


 そもそも人間の頭部が弱点の理由は、生きる為に必要な脳があるからだ。死んで脳なんか必要ないスケルトンが、頭が弱点な訳無かったか。

 ……頭蓋骨の中、空だし。


「あー……どう倒せば良いんだ?」


 白骨死体にとって、怪我とかのダメージらしい傷をどうやって与えれば良いんだろうか。

 骨を折ったり砕くのが良いか?


「せい、やっ!」


 その場でくるりと一回転をして、遠心力を乗せてスケルトンを蹴り飛ばす。

 その際に足から確かな手応えを感じると共に、吹っ飛んで行くスケルトンから明らかに骨に異常が起きましたって感じの、バキッという音が聞こえてきた。


「なるほど……打撃か」


 地面をガラガラと転がるスケルトンが起き上がってくる前に剣を鞘に納める。


「ふっ……!」


 そして起き上がろうとするスケルトンの頭蓋骨に向けて、右手の握り拳を突き出した。

 バキバキと骸骨の表面を砕き……スポーンと頭蓋骨だけがスケルトンの体から飛んでいく。


「……」


 飛んでいった先でスケルトンの頭蓋骨は砂岩の壁に激突し、バラバラに砕け散った。

 俺の回し蹴りで肋骨辺りの骨がバキバキに折れているのと、今の頭蓋骨への攻撃で、スケルトンを倒すに至るダメージを与えられたらしい。

 スケルトンは他のモンスターと同じように膨らんで爆散して消えていく。


 カランとシルバーコイン1枚とカッパーコインが数枚、砂岩の床に落ちる音がして、『海淵の墓都』での初戦闘が終わる。


「なんか釈然としないなぁ……」


 アンデットに対して自分がどれくらいのダメージを与えられたのかイマイチ感覚が掴めない。

 生物を相手にするのとじゃ、正反対の感覚に戸惑うばかりだ。


「まあ、探索していけば慣れていくか」


 とりあえずスケルトンとは1回戦ったし倒した。探索した後でも気になるようなら帰った後、図鑑でスケルトンを事を調べるか。



 

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