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決着




 タコボスの触手を相手しながら、何とか情報を集めていく。欲しい情報はたった一つだけ。だがそれを相手に悟られたら、俺の試みは全て水の泡になってしまうだろう。


「(確かめたいのは簡単な事だから、チャンスが来れば一瞬だけど……)」


 盤面を整えるために、もう少し触手と戦って相手の体力、というか生命力……HP?を削りなから、そのチャンスを待つ。


「──」


 するとタコボスの声が響き、部屋の中で暴れていた触手の動きが、直接俺を狙って攻撃するものから変わる。

 触手の先が床に溜まる水に触れると、水が一斉に触手に吸い込まれるように動き始めた。


「──」


 部屋に溜まっていた海水が触手の先に集まり球体となる。

 他エリアの1階層分と同じくらいの広大な部屋……多分だが50m×50mはある部屋の床に水位が数mmも達する水の量だ。

 直径が軽く俺の身長を超える大きな球体となった。


「マジかー……!」


 魔法系の攻撃をしてくるモンスターの多い『水妖宮』を攻略してきて気付いた事なんだが……魔法には質量という物が存在しない。

 厳密には魔法で生み出した物質は魔法の効果が切れる間には存在するのだが、その効果が切れると霧散して消える。

 水を生み出す魔法を使って水を出しても、その魔法を止めれば生み出した水は絶対に無くなるということだ。

 

 ……逆に言えば、現実に存在している物質を操る魔法を使えば、魔法の効果をかき消しても魔法の効果が切れたとしても、操った物質の質量は消える事は無い。


 普通の魔法ならば、槍で2つに切ったり盾で防いで魔法としての『形』を崩せば、魔法の効果は切れて何とかやり過ごすことが出来る。だがあの大きな海水の球体をどうにかすることはもう出来ない。


「クソ……クソクソッ!」


 魔鉄の盾を構え、鉄の戦槍を地面に突き刺して対ショック体勢に移る。

 魔法を打ち落とす事は出来ない。避けるのは間に合わない……何とか防御してやり過ごすしか手は無い。


「質量攻撃してきやがって……!」


 俺がそう言うのが早いか、圧倒的な海水の塊は俺に向けて放たれる。

 すぐさま押し潰されそうな衝撃が腕に走り、全身に力を込めて踏ん張る。地面に突き刺し固定した槍を掴んでいたおかげで、俺の体がこの水球に吹き飛ばされることはなかったが……


「ゴポッ……!」


 球体の形をしていた海水は崩れ、勢いのままに俺のことを飲み込んでいく。押し潰されそうになったかと思えば、今度は押し流されそうになる。

 大量の海水が俺を包むせいで呼吸が出来ない。そんな中、全身に全力の力を入れて流されないように耐える。


 盾を持つ腕が水流の勢いによってガタガタと震える。肩ごとちぎれ飛んで行ってしまいそうだ。

 あれだけ頑丈な作りの鉄の戦槍も、ギシギシと今にも折れてしまいそうな負荷が掛かっているのが持った手から伝わってくる。


「……ぶはっ!?」


 タコボスの海水を利用した攻撃は、いくら大量の水とは言え部屋の床をほんの少し満たす程度……10秒もしないうちに、海水は流れ底が尽いた。


「はあっ……はあっ……!」


 呼吸が出来ない状態で全身に強い負荷が掛かった結果、俺の肺と心臓は悲鳴を上げる。いくら息を吸っても酸素が足りない……そんな気分だ。


「呼吸……出来ないって!……こんなに、辛いんだな……!」


 だがそんな状態をタコボスは見逃してくれるはずもなく、すぐに触手が俺を襲う。


「ああ、もう!」


 体を捻って攻撃を回避し、後隙を狙って触手を切り裂く。

 戦いながら着実に2本触手の片方に攻撃を集中させた結果、今の一撃で傷だらけの触手がだらんと力無く垂れ下がる。


「これで8本中、2本!」

 

 ……というか、こんな敵普通に戦ってどう倒せばいいって言うんだ。

 ボスは部屋よりも大きく、ダンジョンの外から攻撃をしてくる。こちら側から何とか攻撃をしても、ダメージを負うのはボスにとって体の末端部位であり、本体には影響が無い。

 その末端部位でさえ、撃退してもすぐ次が現れる。


「──」


 タコボスが3本目の触手を部屋に転移させる為に魔法陣を構築する。

 ……その瞬間を俺は待っていた。


 太もものホルダーから投剣を1本抜き取り、新たに現れた魔法陣に向けて全力投擲する。

 魔法陣に吸い込まれるように飛んでいく投剣は……『魔法陣の中』に入っていき、ダンジョンの外の触手に突き刺さった。

 そして投剣が先端に突き刺さった触手はそのまま魔法陣を通ってこちら側にやってくる。


「(……よし、バレてないみたいだ)」


 タコボスの様子を見る限り、今の俺の攻撃はただの必死の抵抗としか映ってないようだ。

 だが俺からすれば、ほとんどタコボスに対して王手を掛けられるくらいの……知りたくて知りたくて堪らなかった確証だ。


 タコボスは魔法陣を通して、その8本足の触手をこちら側に転移させている。そしてその隙間からドバドバとダンジョンの外の海水が流れてもいる。

 伸ばされた触手は魔法陣を通っているし、引き込まれた触手も魔法陣を通っている。


 ……魔法陣が外から中への一方通行では無いという、確証が俺は欲しかった。

 そして魔法陣はだだ外と中を繋ぐ通路であり、通過する際何かしらの変化が起きないという事が知りたかった。


「(……魔法陣はタコボスだけじゃなくて!俺も利用する事が出来る)」


 ギュッと鉄の戦槍を握り締める。

 

 俺の考えた作戦がこれで実行出来る事が分かった……魔法陣を利用してダンジョンの外にいるタコボスの本体を攻撃するという作戦が。


 条件は既に揃った。最初の魔力強化で消費した魔力も全快している。

 後はタコボスが再度ブレスを使おうとして、顔の前に魔法陣を浮かべてこちら側と繋がる瞬間を待つだけ。


「クッ……」


 触手の先端が肩に掠り、体勢が崩れてしまう。

 俺がこうして苦戦するのをタコボスは変わらず、ただ嘲笑い楽しむだけ。


「──」


 タコボスが吸盤を向けて俺に触手を振り下ろしてくる。

 吸盤が盾や体に吸い付かれると困るので……翻るロングコートの裾の長さも考慮に入れながら回避を選択する。


「……そういう事もしてくんのか、お前」


 床の水を撒き散らして叩き付けられた触手が振り上げられると、吸盤一つ一つに海水が吸着していた。

 球状になって吸盤に張り付く海水は触手がぶるりと震えると……ポポポ!と音を立てながら俺に向かって飛んでくる。


「ふっ!……はっ!」

 

 機関銃の弾幕のように飛んでくる海水を、盾で受け流し槍で打ち落とし……飛び上がって避けたり蹴り落としたり、何とか対処を重ねていく。

 一つ一つの威力は大した事は無いんだが如何せん量が多すぎる。

 それに加えて別の触手も襲ってくるから、対処にかかりきりでは居られない。


「ぐっ……!」


 全ての海水に対処しようとはせず、軌道的に危険度の低い海水は無視してわざと攻撃を喰らう。

 海水を無視した事で生まれた余裕で、もう1本の触手の動きを警戒する。


 魔鉄が織り込まれたロングコートは防御力も高いのか、海水がぶつかった場所は殴られた時のような鈍痛を感じるだけで、怪我をした様子は無い。


「──」

「……来たっ!!」


 タコボスの笛を何重にも重ねたような声が響くのと同時に、タコボスの口に大量の水が吸い込まれていく。


「《属性は風》《槍に纏う空気の刃》」


 触手を避けながら、魔法の構成式を構築する。それと並行して、魔力強化の為に全身に魔力を広げていく。


「《羽のように広がり、攻撃範囲を広げる》」


 初めてこんなに同時並行で事を進めるから、頭がパンクしてしまいそうだが……チャンスはこの一度きり。

 後先考えずに全力で頭を回転させる。


「──」

 

 タコボスは水を吐き出す前に、俺を目視して狙いを付けて魔法陣を浮かび上がらせる必要があった。

 狙うは魔法陣の先……タコボスがブレスを吐く為に口をこちらに向け向ける前、狙いを定めるその瞬間の目と目の間。


「全力、投擲……だぁぁあああ!」


 腕に集中させた魔力強化。鉄の戦槍に纏う風の魔法。


 どうにかタコボスのブレスが発動する前に間に合わせる事が出来たそれを、部屋の中に魔法陣が浮かぶ瞬間……槍投げの要領で逆手に持った鉄の戦槍を一直線に投げる。


 一瞬の魔力強化によって投擲された鉄の戦槍、ヒュゴッ!と空気を切り裂いて進んでいく。

 

 魔法で羽のように横に広がる空気の刃を思い描いたおかげで、一寸のブレも無く飛翔する槍は……魔法陣に吸い込まれ、その先のタコボスの眉間に突き刺さった。


「──……」


 風の刃を纏った鉄の戦槍がタコボスにくい込んで行った瞬間、タコボスの青紫色のした体表がサッと面白いように白く変色していく。


「ハッハァ!……巨大タコの一本締め完了ォ!!」


 触手の先まで白くなったタコボスは力が入らなくなったように海中をただ浮かぶのみ。

 どこかで知ったタコの締め方……記憶喪失でこの知識を忘れていなかった事が、今回の俺の勝因だ。

 そしてタコボスの敗因は戦いを舐めた事。


「この場に置いて、戦いとは命と命を奪い合う行為……それに遊びを見出した時点で、お前の負けは決まっていたよ」


 タコボスの体が風船のように膨張し……数多の気泡を生み出しながら爆散して消える。

 タコボスが生み出していたダンジョンの外と中を繋ぐ魔法陣も既に消えているため、ダンジョンの外の海の中を沈んでいく鉄の戦槍。


「……」


 思い返せば、あの槍にはダンジョン初日からずっとお世話になってきた。何度命を救われたことか……何度鉄の戦槍のおかげで戦いに勝てたことか。

 今だって厄介な『水妖宮』のボスも、鉄の戦槍があったおかげで倒す事が出来た。

 

「ありがとう……」


 壁際まで走り、沈んでいく鉄の戦槍を見つめ感謝を伝えると……


「んっ!?」


 唐突にダンジョンの外に魔法陣が浮かび上がった。タコボスが触手などを部屋の中に転移させていたものと同じ魔法陣だ。


 俺の後ろで、大量の海水が部屋の中に流れ落ちていく音が聞こえる。

 鉄の戦槍が魔法陣に吸い込まれるようにして……部屋の中にガランガランと槍が転がる音が響いた。


「……マジか」


 振り返ると丁度魔法陣が消えていく所だった。

 床にはもちろん鉄の戦槍が転がっている。それにいつの間にか、部屋の中には宝箱も設置されていて……多分ボスを倒した報酬が入っているんだろう。


「帰ってくるんなら……お礼言い損じゃない?」


 武器に対して恥ずかしいなんて気持ちを抱くなんて思ってもみなかったよ。どうせなら、もっと早く返してくれても良かったんじゃないか?


 こうもピンポイントで槍が帰ってくるのなら……魔法陣で槍をこの部屋に転移させた存在が一連の流れを見ていたって可能性もある。

 ありがたい、とてもありがたい事ではあるが……覗き見されていた気分で恥ずかしかった。


「締まらないなぁ……タコは締めたのに」


 部屋に溜まった海水もどっかに流れていっているのか、どんどんと水位が低くなっていく。

 そんな床を滑らないように気をつけながら歩いて、鉄の戦槍を回収し、宝箱を開ける。


 宝箱の中身はいつものようにエリアやボスモチーフのアクセサリーが1つ。ゴールドコインは2枚に増えていて……


「『カテゴリセレクトチケット』……?」


 今度は拠点をどうこうするチケットでは無さそうなチケットが用意されていた。



 

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