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実験




「98……99……100……!」


 逆立ちの状態で行う倒立腕立て伏せからその他もろもろのトレーニングを各100回分終わらせて、近くに置いておいたタオルで汗を拭う。

 最後にクールダウンのストレッチを行えば……ここ最近の俺の毎日のルーティーンの終わりだ。


 かいた汗をシャワーで軽く流し、2度目の朝食を食べ、今日という一日が始まる。

 ちゃんとした鎧が目玉商品に並ぶまで『水妖宮』のボスには挑まず、『水妖宮』を軽く探索しながらお金稼ぎをしたり、下の階層に戻って錬成に使う素材を採取する。

 

 別にそれ自体は自分で決めた事だし、着々と素材もお金も溜まってきているが、こうして筋トレをしてまで体を動かさなければ、少し物足りないと思ってしまうほどの平穏の日々だった。


「今日は午前中はポーションを錬成して……午後から探索にするか」


 物置部屋に置いていた低級回復ポーション錬成用の素材が沢山入った籠を担いで、隣の作業部屋に移る。


 大釜に大量の水を入れ、火を起こし湯を沸かす。

 その間に魔力水の錬成を行う。


 まず『清水』……これは綺麗にしたペットボトルで『黒岩窟』から採取してきた。

 ダンジョンの更新で、湧水がある階層や場所が都度変わるのが面倒だったが……一度に制限無く集めようと思えば集められるので、大した手間は掛からなかった。


「清水に関しては、売店で売ってる水でも代用可だけど……」


 文字通り清い水であればなんでも良いのか、間違えて探索の水分補給用に用意した水を錬成の台座に使ってしまった時は、失敗を覚悟したんだが……ただ普通に成功した時は本当に驚いた。

 流石に無料で手に入るから、わざわざ買うような事をしないが。


「ペットボトルで取った清水を……『淵樹の密林』の第3階層で採った『月光草』と錬成して、と」


 錬成の台座の起動時に発生する光は、売店で売っていたサングラスで遮る。

 見た目は安物のサングラスって感じで、これを掛けて人前にはあまり出られないが……遮光効果は十分ある。


 そうして魔力水をペットボトル3本分……大体1.5L錬成していると大鍋の湯も沸騰していた。


「まずマスクをつけてっと……」


 売店で売っていたマスクをしっかりと付けて、薬草を3束……いや4束を大鍋に投入する。すると途端にお湯が緑に染まり、青臭さが部屋の中に広がるが……マスクをつけたお陰で匂いの大半を遮る事が出来た。


「おー、試しに買ってみたけど結構いいね」


 30枚入で3シルバーコインで、ちょっと割高かもしれないと思っていたが……これは良い買い物が出来たかもしれない。

 錬成中に何がキツイって、この青臭さが作業中ずっと匂ってくる所だからな。


「〜〜〜♪」


 辛うじて記憶に残っている地球の国の歌を鼻歌で奏でながら、大釜に浮かぶ薬草のアクを取っていく。

 薬草3束分だから、出てくるアクの量も3倍だが……皿がアクで満杯になりいちいちシンクに捨てに行く、なんて事は無い。

 たまたま目玉商品でバケツなんていう一見買ったって倉庫の肥やしにしかならないアイテムが並んだからだ。

 それに初めての錬成の時から今回で3回目の錬成になる。もう作業も手馴れたものだ。


「よし、5分〜」


 薬草を大釜から皿に取り出し、粗熱を取っている間に大釜の緑色になったお湯を捨てる。

 そして売店でいくつか買い物もし、作業部屋に戻る。


「さて、ポーションを作って行きますかねぇ〜」


 まず最初は、普通に茹でた薬草1束:魔力水1本のレシピ通りの低級回復ポーションを作る。


「……グラサン付けててもちょっと眩しいかも」


 錬成の瞬間、最後にビカッと光るのはサングラスを付けていても直視すると眩しかった。


「うん、問題無さそうだね」


 出来上がったペットボトルの中に見える低級回復ポーションは、今までよく見てきた見慣れたもので、順調に錬成をする事が出来た。

 2本目も同じように錬成を行い……そして最後の錬成は少し実験を行う。


「魔力水1本分に対して……薬草が2束分」


 従来のレシピより素材に偏りを生ませて、錬成してみると、一体どうなるのか。

 出来るなら薬草が多い分、回復効果も相応に強い回復ポーションが完成してくれると嬉しいが……


「錬成開始!」


 台座を起動し、魔法陣に囲まれるペットボトルに入った魔力水と2束置かれた薬草を見守る。

 浮き上がった魔法陣が回転し、そして台座の上のアイテム達に吸い込まれ……


「おお!?」


 光が収まると、普通の物よりも緑色の濃い液体が入ったペットボトルが台座の上に残されていた。

 もしかすると……もしかするかもしれない。

 早速そのペットボトルを持って、売店のレジの鑑定機能を使う。


 

 『高濃度低級回復ポーション』

 レア度:アンコモン

 [通常よりも濃度が濃い低級の回復ポーション。本来なら吸収される成分が高濃度となったため、体に残り持続的な回復を可能にした。デメリットとして舌に残る苦味あり]



「えっ……まじ!?」


 たまたまの思いつきで、まさかの効果を持ったポーションを作ることが出来てしまった。

 持続回復ポーション……普通より味が苦くなる程度のデメリットなんか容易に受け入れられるメリットの強さを持っている。


 いちいち攻撃を喰らったらポーションを飲む……なんて事をせずに、戦闘前に1本飲んでおけば回復の時間が要らないかもしれない。


「いま、待て……中級回復ポーションでも同じ事が出来る……?」


 試す価値はある。試す価値はあるけど……一旦落ち着いて、この高濃度低級回復ポーションがどんな感じなのかを確かめてからだ。


「もしかしたら苦すぎて使い物にならないとか……効果時間が短かったり、逆に長すぎて全然回復が進まないとかあるかもしれないし」


 勇み足になり過ぎないで、落ち着いて事を進めよう。

 まずは低級回復ポーションの実験をし尽くすのが先だ。時間なんていくらでもあるんだから、着実に行こう。


「……よし、じゃあ次の実験だ」


 今度は完成した低級回復ポーションとスポーツドリンクを錬成してみる実験だ。

 果たして回復効果が移るのか、どうか。


 すぐに作業部屋に戻り、さっき買ったスポドリと完成したばっかの普通の低級回復ポーションを錬成の台座に乗せる。


「……っ」


 持続回復効果を持った物が生まれてしまった手前、今度の思いつきももしかしたら……と期待で唾を飲む。


 台座が眩しい光を放ち錬成が終わると……台座の上には、薄く緑色に染まったスポーツドリンクのペットボトル。

 それを見て思わずガッツポーズをする。


「っしゃ!成功!」


 錬成は失敗すると、使ったアイテムが錬成されず残ったままか、確率で消えて無くなってしまうかの2択の結果になる。

 錬成に使ったアイテムに何かしらの変化が発生していれば、その時点で錬成は成功と言っても良い。


 早速薄緑のスポドリの入ったペットボトルをレジの鑑定に見てみると……


「……あー」


 思っていた効果にはなっておらず、落胆の声が漏れる。

 本当はスポドリ味になって飲みやすくなった低級回復ポーションを望んでいたんだが……逆に薄まって、若干の疲労回復を促進する程度の効果しか無い、スポドリ味の健康飲料みたいな物になってしまった。


「いやポーションと掛け合わせようとした液体が同量だったから、薄まったって事でしょ?」


 ジュース100mlと水100mlを混ぜたら、味の薄いジュース200mlか、少し味のする水200mlが出来た……みたいな話だろう?

 それなら濃度の濃い回復ポーションと掛け合わせたら、結果的に丁度良い濃さになるんじゃないか?


「やっば……楽しくなってきた」


 インスピレーションがどんどん湧き上がってくる。

 

 今回はもう素材を使い切ってしまったから、新しくポーションを錬成する事は出来ないし……それにこの高濃度低級回復ポーションを全く試さないで消費したくない。

 丸々1本分は検証に使いたい気持ちがあるから、この思いつきを今すぐ試すことは出来ない。


 それでも、自分で思いついた物が結果として実を結ぶのはとても気持ちが良いと知ってしまった。


「……忘れない内にメモするか!」


 湧いてきた錬成案を忘れないようにメモする為に売店で、ペンとメモ用紙を買いに走る。


 午後からは早速、高濃度低級回復ポーションを試しながら探索しよう。

 素材集めもして……ああ、そうだ!


 ルキから教わった『水妖宮』にあるという、ダンジョン攻略とは関係無いエリアも見つけてない!


「なんで忘れてた。そしてなんで今思い出した!?」


 やる事が、やりたい事がいっぱいだ……!


 

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