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分からぬ心



 何日か掛けて探索して『水妖宮』のボス部屋を見つける事が出来た。

 

 出来たんだが……流石に今日このままボス部屋に突撃出来るような体力は残っていない。

 それに何度も言うようだが、今の俺にはまともな防具が無い。いや篭手や盾は十分な性能を持っているんだが、一番肝心な胴体が無防備過ぎる。


 そんな状態で、今まで苦戦させられてきた『ボス』という存在に挑戦しようとは思えなかった。

 相応の防具を手に入れるまで、自己鍛錬とお金稼ぎの日々を続ける必要がありそうだ。


「目玉商品次第だな……ほんと」


 基本的に目玉商品で並ぶのはコモンのアイテムばかりだ。その上実際に使う場面があまりない様な消耗品カテゴリーのアイテムが多い。


「煙玉とかは使えるかもしれないけど」


 煙玉は、ついこの前あった厄介なモンスター同士が集まっている所に投げて煙幕の中奇襲する……みたいな使い方をしたり、そのまま逃げたり出来そうではある。

 ただ俺も煙幕の中の状況を全く把握出来ないというデメリット付きだが。


 他に使えそうなものと言えば……『スクロール』系のアイテムだろうか。

 使えば記された魔法が発動する、というアイテムでスクロールに書かれている魔法は、防御力アップなどのバフから、攻撃魔法まで種類がとても豊富だ。


「ただちょっと高いんだよなぁ」


 レア度がコモンのスクロールでも、1つにつき大体1シルバーコイン。更に使い切りな上、コモンのスクロールはバフの効果時間も短いし、ステータスの上昇値も低い。

 攻撃魔法のスクロールだったら、25分に1回しか使えない俺の魔法の方がダメージが出るから、わざわざ1シルバーコイン払ってまで買う必要性を感じられない。


「ボス戦だけバフスクロール使って見るものありっちゃあありなんだけど……」


 スクロールに手を出してもいいと考えられるくらい、財布に余裕が出てきたのは本当に最近である。

 それこそモンスターからドロップするコインがカッパーコインから、『水妖宮』の探索を初めてシルバーコインになってから、だ。


「あ、水の幽霊」


 探索中見つけた水の幽霊に、鉄の戦槍を構えて突貫する。走りながら魔力強化も発動すれば、水の幽霊を容易く倒す事が出来た。

 魔力強化数秒分しか魔力も消費してないし、結果としては上々だろう。


 そうしてドロップしたシルバーコインを拾い上げ、指でピンと弾く。


「……あー、一旦下のエリアに戻って錬成用の素材集めながら、ボスの再挑戦アイテム狙ったっていいな」


 クルクルと回転しながら落ちてくるシルバーコインを掴み取り、ポーチの中にしまう。

 

 まだまだ低級回復ポーションにはお世話になる事が多い。

 現状はイベントのランキング報酬で手に入った素材で作ったポーションがまだまだ残っているから心配は要らないが……回復薬なんていくら作ったっていいからな。


「やりようによっちゃもっと回復効果の高い低級回復ポーションとかも作れるかもしれないし……」


 低級回復ポーション同士を掛け合わせてみたり回復効果のあるアイテムを追加で錬成したりとか……


「ありっちゃありだな」


 もしボスと再戦が出来るというレアドロップのアイテムが手に入っても……トレントとワームならなんとか鎧無しでも倒せるだろう。もうそれだけで1ゴールドコインが手に入る。


「決定だな」


 目玉商品で良さげな鎧が並ぶまで、『水妖宮』のモンスターと戦って身体能力を上げつつ、お金を稼ぎ……下のエリアに戻って錬成用の素材を集中しつつ、ボスとの再戦を狙う。


「ダンジョン住みらしい生活になってきたんじゃない?」


 『選定の狭間のダンジョン』に来てから今日で……多分一ヶ月半くらい。やっとこのダンジョンを有効活用出来そうな考えが浮かんできた。


「急がば回れって言うし……強くなる為にもこういう地道な作業だって必要だろう」


 何も考えずただモンスターと戦うだけじゃ、多分ただ暴力だけが強くなってしまうだろう。別にそんな暴力人間になってしまっても構わないが……できれば色んな事もやれる人間になりたい。

 それに戦うだけの毎日だったら、多分精神が病む。


「ノイローゼ……って言うんだっけ、そういうの」


 そもそも集会所でルキに出会って、俺は独りじゃないって分かって無ければ、どこかおかしくなってた可能性だってある。


「そういう意味でもルキには感謝しないといけないな」


 ……でも、なんで俺はこんなにもルキに対して感情が揺れ動くのだろう。

 『強くなってルキに追いつきたい』となぜ思うんだろう。


 記憶喪失になり、感情や心なんかの人間関係の機微に関係するような、そういったものに対しての知識も無くなっているみたいだ。


「初めて会った人だから?……ありそう」


 『マシロ』という名前を付けてくれた人だから?……これもありそう。

 自分の中で『なぜ』を切り詰めていく。記憶喪失で何も知りません……では、居られない。

 ダンジョンで死ぬつもりは当然無い。なら、ダンジョンから脱出した後の事も考えなければいけないだろう。


「ルキが俺の事を気に掛けてくれるから、それのお返しで?……うーん、ちょっと違うかもな」


 ルキが女性だから、男として良い所を見せたい、見栄を張りたいって思ったり……いや、そもそも出会った時に俺は新米感満載だったから今更見栄なんて張っても意味無い。


 でもルキが女性だからって言うのは、そこまで間違っては無さそうではある。

 ルキの姿を思い浮かべてみる。

 

 俺からしたら少し見上げるくらい高い身長。

 ポニーテールに結っている、ピンクブロンドの綺麗な髪。

 イベント専用集会所で、男女問わず注目を浴びる程整った容姿。

 胸が大きく、腰は細く、尻も大きい……あと意外と足のサイズも大きい。

 

「性欲?……では無いかもな」


 ルキが男好きのする体型をしている事は分かる。

 たまに俺もルキの胸に目が引き寄せられたりする時もあるから……性欲としてルキの事を求めているのかと思ったが、少し違うような気がする。

 そういった行為の知識自体はあるけど、そこまで興味が湧かないし。


「1番ルキに対して惹かれるのは……やっぱあの強さかな」


 ルキに対して1番気になる物は?と言われたら、ひしひしと感じるルキの強そうな雰囲気だろう。

 だからこそ、俺は強くなって追いつきたいと思ったんだから。


「でももしルキが男だったとして、それでも惹かれるかと言われたら『はい』って断言出来ないんだよな」


 それってつまり、ルキがこんなにも気になる理由の内1つに、ルキが女性だからっていうものが入っているという事だろう。


「なんで?……なんでルキが女の人だから気になるの?恋愛感情を抱いてるってこと?」


 分からない。

 考えれば考えるだけ、なんで自分が追いついたいと思った人物がルキだけだったのかが分からなくなってくる。


「んんんんんん……!」


 思わず頭を掻きむしる。疑問で頭が埋め尽くされ爆発する。

 自分の事なのになんで分からないんだと……こればっかりは記憶喪失である事を恨んでしまいそうだ。


「はあ……俺もまだまだ子供って事かな?」


 こんな感情ひとつ分からないなんて思わなかった。

 大人なら、俺が抱いているこの感情が何なのかすぐに判別して結論を出せる……じゃあ結論を出せない俺は、子供って事だろう。


 一旦、この謎は放置しよう。

 今考えてても分からないものは分からないし……ルキの強さに追いついた時に、もしかしたら答えが見つかるのかもしれない。

 それか誰か大人の人に話を聞いて貰ってみてもいいかも。


「……答えのない問題を解こうとするのって……イライラするんだな」


 正確にはフラストレーションみたいな鬱憤が溜まる。

 大声出したり、体をめいっぱい動かしてスッキリしたい気分だ。


「だから……お前らには憂さ晴らしに付き合ってもらう」


 タイミング良く、青蟹が2体集まっている所に出会す事が出来た。

 鉄の戦槍を構えて、魔力を体に広げていく。

 これからするのは全力の八つ当たりみたいな物だ。防御力の高い青蟹が2体居て良かった。


 他の種類のモンスターだったら、すぐ終わってしまうから。



 

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