新たな装備
『水妖宮』に出現するモンスターはどれも魔法攻撃がメインのモンスターばかり。
物理系ならまだしも、そんな魔法を使ってくる相手とは戦ってきた経験が少ないため、探索時にどうしても怪我を負う事が多数あった。
昨日だけでも貝殻鱗の蛇に水の刃でたくさんの場所を切り裂かれたし……今までのモンスターより遥かにやる事の規模が違う水球モンスターには、肩と腹に穴を空けられてしまった。
まあ、そんな致命傷になってもおかしくない傷も全て回復ポーションを飲んでしまえば、たちまち治るのだが……流石に限度があるのか、体に傷跡が出来始めてきている。
ただ少しでも防御力のある防具があれば、そういった傷跡が増えるような事が減ると思っていたのだが……
「そういう事じゃないんだよ……!」
俺が膝を着いて嘆きの声を上げざるを得ない自体が起きてしまった。
俺が装備を入手する手段は、現状目玉商品として装備アイテムが並ぶしかない。イベントが開催されれば、装備も手に入るかもしれないが。
そんな目玉商品に並ぶアイテムは、レア度毎に出現率が違う完全ランダム制であるらしい。
武器や防具といった分類も、どんな効果を持ったものかも全てランダン。
……そんなランダムな目玉商品に、ある種奇跡のような事が起きた。
「3つとも全部盾って何!?……立派な防具ではあるけど!……鎧が欲しいんだよ、俺は!」
そう、3つランダムで選ばれる目玉商品に、3種類の『盾』が並んでしまった。
崩れ落ちてしまったよね。
いつものように朝起きて、顔を洗ったりして、朝ご飯を食べながら今日の目玉商品を確認して……全部盾だって知った時、膝から行ったよ。
食べかけのチョココロネが、床を転がってる。もちろん包装のビニールの中に入ったままだけど。
「はぁ〜〜〜…………」
デカイため息を吐きながら、何とか気を取り直して立ち上がる。
確かに盾も新しいのが欲しいなとは思っていた。今使っている青銅の小盾は、レア度がコモンだし、大きさもそこまででは無いのに重い。
そろそろこの盾じゃ心許無いなと感じ始めていた時だから、こうして新しく盾が手に入るのなら、嬉しい事だよ。
「えーっと、どれどれ……?」
チョココロネを拾い上げ、食べるのを再開しながら目玉商品に並んだ3つの盾から、何を買おうか選ぶ。
「『木の盾』?……要らな」
まず最初に目に付いたのは、多分コモンのアイテムの中でも最下層に位置してそうな木の盾だった。
ただ木の板を並べて固定しただけのこの盾は、驚くべき事に値段が10カッパーコイン。
「今じゃ1000個も買えちゃうねぇ〜……はい、次」
2つ目の盾は、『焔の盾』というレアのアイテム。
炎属性の防御盾で、炎ダメージを軽減すると共に受けた火炎を稀に跳ね返すことも出来るような、属性盾らしい。
「かっけぇなぁ……」
見た目も、燃え上がる炎をそのまま形取りましたといった形をしていて、凄く派手である。
赤とオレンジに彩られた盾は、なんと値段が36シルバーコインしかしないらしい。
明らかに特殊効果付きのレアのアイテムがしていい値段では無い。
「……やっぱり、目玉商品の値段も振れ幅があるのかな?」
最安値から最高値が決まっていて、アイテムがどの価格帯で売られるのかもランダムだとしたら……この『焔の盾』がめちゃくちゃ安いのにも納得が行く。
まあ、とりあえずこれは買いだ。買う以外に選択肢は無い。
「そんでもって3つ目が……おー!『魔鉄の盾』!」
『魔鉄の篭手【黒牙】』と続いて『魔鉄の盾』が目玉商品に並んでくれた。どうやら【黒牙】のように、特殊な機構は付いてないシンプルな盾っぽいが……なんとも縁を感じる出来事だ。
「こっちも28シルバーコイン……買いだな」
魔鉄の盾のフレーバーテキストには、魔力干渉に強く物理と魔法どちらの攻撃にも安定した耐性を発揮すると書いてある。
普段使いするとしたら焔の盾より、この魔鉄の盾だな。
祭壇に掛けられていた石板を取って、裏のバーコードを売店のレジに読み込ませる。
「合計で64シルバーコイン……盾ふたつ買っておきながら、これは安い」
しかも片方はレアの盾だ。これを買うだけで60シルバーコイン掛かったっておかしくないだろう。
「おっ!……カッコイイー!」
決済を完了するとレジのカウンターに、2種類の盾が現れる。
とりあえず朝ご飯のチョココロネを食べきって、ゴミを捨ててから盾に触れる。
「思ってたより軽いな」
初めに持ったのは焔の盾。一体どんな金属が使われているのか分かりはしないが、想像よりも軽い。
軽く叩いてみても、硬度は十分ありそうだし普通の盾としての機能に心配は要らなそうだ。
そして魔鉄の盾。こっちは大きさ相応に重い。
凧のような形をしていて、縁が形取られているだけで無駄な装飾は一切無く、盾の表面は篭手と同じ黒鉄色に光を反射しているだけの、無骨なデザインと言える盾だろう。
盾を2つとも持って、物置部屋に移動する。
そうしたら、盾を左腕に装着して、壁に立て掛けていた鉄の戦槍を右手に待って構えるだけ構えてみる。
焔の盾と魔鉄の盾、どちらでもそれを行って……今度は魔鉄の篭手を装備してまた行う。
どこか違和感は無いか……装備同士が干渉してしまわないか、入念に確かめる。
「……良い感じ」
とりあえず、試してみた感じは問題無さそうではある。
部屋を移して、姿見のある寝室で自分の格好を確かめると……ようやっと金属の防具を身に着け始めて、駆け出しから脱せそうな自分の姿が見えた。
「魔鉄か……全身揃えても良さそうだなぁ」
篭手と盾と来て、あと揃えるの必要があるは鎧と……脚甲か。
魔鉄装備はレア度がアンコモンだし、目玉商品への出現率も高いから、全身を魔鉄装備で揃えるのも不可能な話ではないだろう。
「武器まで魔鉄に……しなくてもいいけど、まあ売ってたら買ってみようかな」
今持っている鉄の戦槍と鋼鉄の手斧と騎士の剣以外の武器種で、魔鉄の武器が売っていたら買ってみよう。
出来れば大斧とか大剣とかで出てきて欲しい。
「これで、青銅の小盾ともお別れだなぁ」
物置部屋に戻り、片隅に置かれていた青銅の小盾をしゃがんで見下ろす。
この盾のお陰で、だいぶ怪我をする回数が減った。もし無かったら……ちょっと危ない場面も多々あっただろうし、ダンジョンの探索に置いてどれだけ助けになったかは、計り知れない。
「流石に売れないし、捨てられないな」
まだまだ物置部屋はスペースが有り余ってる。もし、1000個の木の盾を買ったとしても、多分物置部屋の中には収まるだろう。
それぐらい余裕があるし、何より思い入れのある物だから手放さず、このまま物置の片隅に置いたままにしよう。
初期装備で貰った木剣と共に、持ったままでいよう……このダンジョンでの、思い出の品として。
「……ありがとう」
意味は無いだろうが青銅の小盾に感謝を伝える。
数秒間黙礼をした後、俺は立ち上がり篭手を外していく。
「……今日も『水妖宮』の探索、と言いたいところだけど」
昨日の探索で、低級の方の回復ポーションを使い切ってしまった。ちょっとした怪我を治すのに丁度良くてグビグビ飲みすぎてしまったらしい。
また大量に買い足しても、もう簡単に元が取れるくらいにはなったが……解放してから武器を研ぐだけ以外に使って無かった作業部屋がここで役に立つ。
イベントのランクイン報酬として俺は『低級の素材アイテム』を貰っている。
色んな種類が揃ったそのアイテムの中には、低級回復ポーションを作る為の素材があり……錬成の台座を使えば、自分で回復ポーションを作る事が出来るだろう。
錬成の台座の使い方が乗っていた冊子に、低級回復ポーションの製作レシピは載っている。
「今日は錬成デーだ」
いくらモンスターからお金が稼げたとしても、節約出来るところはしていきたい。
イベントで貰った賞品も、こうでもしなきゃ物置部屋にずっと置きっぱなしだろうし……
いつかは中級回復ポーションも自分で作れるようになったら、素材集めをして自分で作れるようにもなりたいし、今から錬成の台座に慣れておいて損は無いだろう。




