新たな力
使用者の魔力量を『5』増やしてくれるという『魔力の巻物』……この5という数値が果たしてどんな量なのかは分からないが、この巻物を使用すれば俺は魔法を使えるようになる。
前までは魔力という物が何たるかを知らなかったから、魔力を増やす系統のアイテムに手を出してこなかったが、目玉商品でもこの巻物と似たようなアイテムが並ぶ事は多々ある。
「これからはさらに出費がかさむかもなぁ」
魔力を手に入れた以上、そういった系統の装備も充実させなければならない事を考えると、少し意識が遠のいてしまうが……どれもこれも俺にとって必要な物だから、しょうがない。
「さて、フェアリーに見つかる前に巻物を使っとかなきゃ」
鉄の戦槍の石突を地面に突き立てて固定し、魔力の巻物を取り出す。
この巻物は、文字がどこに吸収されていくんだろうなと思いながら巻物を開く。いつものように黒いインクで書かれた文字が羊皮紙の上から飛び出して空中を移動する。向かう先は俺の胸、いや……
「心臓か……?」
中心よりやや左寄りの胸部に吸い込まれていく文字。恐らく心臓に文字が張り付き、そして染み込んでいくんだろう。
このインクが体に吸い込まれていくのは、本当に体に害が無いのか毎度心配になってしまう。
「なんか、感じるな」
全ての文字が吸い込まれていった結果、心臓から何かを感じるようになった。
血液以外の何か。熱いもののように感じれるが、実際に温度がある訳でもない、そんな不思議な違和感。
そしてそれが不快という訳でも無い。
「これが魔力か……」
自分に宿ったこの言い表せられない力。俺が前から欲していたものだからか、少し達成感すら感じている。
「これを全身に広げると……ルキの言う魔力強化が発動するんだよな」
出身の世界が違うから、もしかしたら発動出来ないかもしれない。そうだとしても試さないと一生分からないままになる。
「……」
1度目を瞑って、この心臓に感じる新しい力が操れるかを探る。
「うん。行ける……!」
指を動かす。腕を動かす、足を……そんな自由自在とまでは行かないが、動かすこと自体は出来る。
心臓から全身に魔力を広げていく。トーストにバターを塗り広げていくような、そんな感覚。
そうして足先まで塗りムラなく魔力を広げた瞬間、 ……ブワッと体から力が湧いてきた。
……いや違う。いつもよりグッと力が入りやすい。
「バッと……いや、グオッ!て感じ?」
なんだろうな……まあ、いつもより遥かに体を力めるって感じだ。擬音でしか表せられないのが残念だが。
「……あは」
どちらかと言うと湧いてくるのは、全能感の方が強い。
いつの間にか俺は鉄の戦槍の柄を握り締めて走り出していた。
「あはっ、あっははは!」
いつもより走るスピードがずっと速い。神経の反応速度がすらも強化されているのか、いつもより身体の動作が軽い。
「ハッハァ!」
前方に木が迫り、ぶつかる寸前で直角に曲がる。勢いが良すぎたのか、地面の表面が抉れ大量の土埃が舞った。
自分の体で風を切る感覚が気持ち良い……だが、そんな感じで、調子に乗ってスピードを出し過ぎたのが悪かった。
「あっははは……あ?」
フッ……と、ロウソクの火が息を吹き掛けられて消えるように、唐突に俺の体から力が抜ける。
……正確には『魔力強化』で上昇していた分の力が無くなる。
「あっ、えっ!?」
魔力強化によって、神経の反応速度すら強化されていた。それが消える。するとどうなるか……正解は、残っていた身体の慣性に地面を蹴る足の回転が追い付かなくる、だった。
「うわぁぁぁあああああ!?」
足が思うように動かなくなって躓き、残った慣性のまま体がすっ飛んでいった。
身体のあちこちをぶつけながら、地面を何度も何度も転がっていく。視界がグワングワン揺れて回転して……体感数十mは転がっただろうか。
「い゛って゛!?」
最終的に途中に生えていた木の幹に、ひっくり返ったまま背中から激突して、俺の勢いは止まる。
「……」
俺がぶつかった事で、木が揺れて……木が実らせていた宝石のように煌めく果実が、カランと果実らしからぬ音を立てて地面に落下した。
「……」
身体の節々が痛む他、胸焼けのような妙な倦怠感を胸から感じる。
胸の倦怠感は恐らく魔力を使い切ったから感じているものだろう。俺は知ってる……魔力切れって、体調が悪くなりがちなんだと。
頭を強烈に打ったから、多分それで思い出した。
「……何秒だ」
俺は何秒で魔力を使い果たした?そこまで長い間走ってた訳じゃないと思う。
まだ感じる全能感に、はしゃいで夢中になっていたぐらいの間……つまり、数秒。魔力量が5しかない状態では数秒しか持たない事が分かった。
「……でも、きっとこれって魔力強化だよね」
ルキが言っていた事が、俺にも起きた。起こす事が出来た。たった数秒とは言え……出身の違う俺でも、異世界の技術を使える事が証明できた。
「っしゃあ!」
ひっくり返ったまま、拳を空に掲げる。これで俺も魔力さえあれば魔法が使える……!
「……いてて」
喜ぶのも程々に、ひっくり返ったままの体を起こして、怪我をしてないか確認しなければ。
立ち上がって体の土埃を払う。周囲を見回せばいつの間にか手放していたらしい鉄の戦槍が、少し離れた所に転がっていた。
「フェアリーは……よし、居ないな」
幸いな事に近くにフェアリーの姿は見えない。とりあえずの少しの時間はあるらしい。
一応の低級回復ポーションを飲みながら、槍を回収する。
「でも数秒かぁ……多分キリよく1の魔力に対して、発動時間は1秒とかそんなんだろうな」
そう仮定すると、魔力強化での身体能力上昇は5秒しか持たない事になる。
「……いや、それでも結構デカイな」
5秒間の強化状態……コンマ数秒、一瞬の隙さえ命取りになる戦闘に置いて、5秒という時間はとても長い。
「それに巻物を全部交換したら……多分25秒間?」
最優先で交換する物が決まったな。
『素早さの巻物』を一番最初に5個全て交換しようと考えていたが、考えを改める必要が出てきた。
魔力強化についてもっと検証と慣れが必須だな。
「一旦帰るか……!」
ほよほよと飛翔音を立てながら近寄ってきたフェアリーを真っ二つにしながら呟く。
ポイントを使って『魔力の巻物』を交換して、多分2階にまだ残っているルキ達に「魔力強化使えたよ」って報告もしよう。
イベントエリアの出口から集会所に戻り、まず先に交換所へ向かう。『魔力の巻物』の残り4つを120ポイント消費して交換し、それを抱えて2階に向かう。
予想通り2人はまだテーブルに残っていて、ワイズさんがルキに対して質問攻めをしているようだった。
「ん?……マシロ!どうしたんだ、そんな土塗れで!?」
ルキが近付いてきた俺の存在に気付き、そして俺の体が土で汚れているのを見て目を見開く。
ソファから立ち上がってこっちに駆け寄って心配してくれた。
「あはは、ちょっと盛大に転んじゃってね」
背中など、俺の手が届かない所の土埃をルキが払ってくれた。
「怪我は大丈夫かい?」
「はい、大丈夫です。回復ポーションしっかり飲んだので!……それよりも2人に報告があるんだよ!」
俺がそう言うと、2人はなんの報告だ?と首を傾げる。
「魔力強化!俺でも使えたよ!」
「……えっ!?それは本当か!やったな、マシロ!」
「おおー!すごいじゃないかマシロくん!……待てよ。そうなると出身地は関係無い……いや、この場所では世界が入り交じって……」
2人に魔力強化の事を報告すると、ルキは俺の頭や顔をくしゃくしゃに撫でながら褒めてくれて、ワイズさんはすごいと言った後、口元に手を当て眉をひそめながら何やらブツブツと思考に耽り始めた。
多分、研究者として何かを考察しているんだろう。
「どうだった、初めての魔力強化は?」
「あ、そう聞いてよ!魔力強化はさいっ……こうに良かったんだけど、全然魔力が無さすぎて数秒で切れちゃって!……まあ、すっ転んだよね……」
「ああ……だからそんなに土が」
ルキの言葉に照れを感じながらも頷く。
「ちょっとはしゃぎ過ぎちゃった。でもいつもより速く走れたのは、すごい楽しかったよ!」
「ふふ、良かったな。その巻物は……今交換してきたのか?」
「そう、全部魔力の巻物。これで魔力量も25に増やせる」
「はっ!?そうだ、マシロくん!」
「はいっ!?な、なんですか?」
ずっと考え事をしていたワイズさんが、突然顔を上げて俺を呼ぶ。その勢いに思わず驚いてしまった。
「少し質問、いいかね?……その巻物を使った結果、君の魔力は0から5に増えた。まずはこれで合ってるね?」
「はい、そうです。そもそも俺が居た世界は魔力、なんてものは無かったし、ルキとワイズさんの2人が俺の魔力が無い事を確認してるので、それで合ってると思います」
だよね?とルキにアイコンタクトを送れば、魔力が無いことをちゃんと確認した、とルキも頷く。
「そうだね、僕もそれは確認した。今の君から微小ながら魔力を感じるし、これは間違いないね」
ワイズさんの言葉におや?と首を傾げる。そういえばいつの間にか魔力切れで感じていた倦怠感は無くなっていた。
……ここにまでに自然回復したと言う事か?
「マシロくん、その魔力量が5の状態で魔力強化は何秒持った?強化率はどのくらいだった?」
「んー……まだ明確には分かってないですけど、多分1の魔力に対して効果時間は1秒って所ですね。強化率は……2倍未満なのは確実だと思います」
昨日俺は10m程度の移動に約1秒掛かっていた。魔力強化をしてからはもっと早く……コンマ数秒レベルの速度が出ていたと思うが、そもそも『素早さの巻物』を使っているため、細かい数字は出せない。
ストップウォッチなんかも無いし。
「強化率は分からないとしても、『魔力消費量』対『効果時間』は同等……マシロくんは今日から魔力強化を使い始めて、熟練度が無いからその数字なのか?……いや変に熟れた使い手では無い分、数字に対する信頼度は高い可能性が……」
ワイズさんはまた口元に手を当て、思考の沼に潜っていく。普段は飄々としたオジサンが目に真剣な光を宿らせている姿は少しカッコイイ。
「こう見れば、ワイズさんも研究者って感じだね」
「ああ、確かにな……マシロがイベントエリアに言った後、すごい勢いで質問されたよ。どの世界の研究者も、夢中になったら同じなんだなと思い知らされた」
「あはは、大変だったね……」
でも、何かを解き明かし明確にしようとするのは単純に尊敬だ。俺も気になることがあれば検証しようとする事はあるけど、ある程度理解出来たらそこで十分だと思ってしまうし。
「そうだ。マシロは身体のどこから魔力を感じる?どうやら人によって魔力の源の場所が違うらしいんだが」
「へぇ、そんな事あるんだ!……俺は心臓からだったよ。ルキは?」
「マシロは心臓か。私は鳩尾辺り、身体の中心点からだな」
「……あ、僕は脳に魔力があるよ。他に聞くのは、丹田っていうへその下辺りだったり、胸の中心だったり。ダンジョンで珍しいタイプだと、右手に浮かぶ紋章から、なんてのもあったね」
魔力を感じる場所の話をしていたら、思考中だったワイズさんも顔を上げて、話の内容に参加してきた。
「もう考え事は良いのですか?」
「うん、そっちはもう大丈夫。ありがとうね、マシロくん。僕にとってすごい貴重な良い話を聞けたよ!」
「それは良かったです!」
「それで提案なんだけど、マシロくん。僕と同じ『巡逢の割符』を持ってくれないかい?」
ワイズさんは真剣な顔付きでそんな提案を俺にしてきた。
「君は自分の魔力量が明確に判明している貴重な人間だ。しかも元々魔力を持っていなかったという存在でもある」
「……なるほど。研究対象になって欲しいって事ですね?」
「端的に言えばそうなる。君に頼みたい事は、魔力や魔法を使い始めて何か変化が起きないかを探る事。僕から出せる報酬は、魔法について教える事。どうかな?」
「分かりました。やります」
即答で答える。俺からしたらほとんどメリットしか無いような取引だ、受け入れる以外に選択肢は無いだろう。
「本当かい!?いやぁ、ありがとうね!じゃあ、少し待っててくれるかい?多分ここでも買えるだろうから、割符を買ってくるよ!」
ワイズさんは俺が提案を受け入れた事に、嬉しそうに笑って売店に向かっていった。
「私から見ても良い取引だと思うぞ」
「あ、やっぱり?……ちょっと俺が貰い過ぎかもと思ったんだけど」
「ふふ、ならマシロも細かく記録すればいいさ。ワイズさんにとってそれが報酬になる」
そうか……じゃあ些細な変化や疑問なんかも、事細かくメモして置くことにしようかな。
「……私にも、どうなかったか教えてくれても良いんだからな」
「あは、じゃあルキにもちゃんと報告するね」




