『レジェンダリー』
石レンガの拠点で売られているポーションは実の所、『回復ポーション』だけでは無い。
拠点発展チケットによって売店が大きくなった事で品揃えが増え、怪我を治す以外の効能を持つポーションが売られている。
その中でも代表的なので言うと、まず1つ目は『毒消しのポーション』……文字通り毒を中和し無害にする効能を持ったポーション。中和出来る限界はあるらしい。
そして『暗視ポーション』……暗闇でも視覚が一時的に働くようになるポーション。
最後に、前2つとは少し毛色の違う効能を持った……『気力のポーション』という、肉体的疲労をある程度回復させるポーション。
まだまだ『水中呼気』や毒消しと似た『耐毒』、『魔力回復』など種類はある。
なぜこの話をしたのかと言うと……現在開催されているイベントで、フェアリーを討伐して撃破ポイントを稼いでいくのに、俺にとって現状1番ネックなのが、この肉体的疲労によって探索を断念せざるおえなくなるという事。
今までは、普通にダンジョンを探索する時は疲れたらそこで探索を終了するだけで良かったが、このイベントで大量のポイントを得る為にも、そんな事をしてられない。
その為にも気力のポーションを買い、長時間の探索を乗り切る必要があった。
「いくら木霊の指輪で、疲労が回復していくって言っても無理があるからなぁ……」
トレントのドロップアイテムであるこの指輪の効果は、じわじわと疲労を回復させていく物だ。一応常時着けてはいるが、基本的には睡眠中の自然回復の補助を目的としたものだろう。
今はそんな微々たる回復量では足りない。
「ポーション類、良し」
いつも回復ポーションに加え、気力のポーションもポーチの中に入れ、イベントに向けて準備を始める。
今日は防御は捨てて、被弾覚悟でフェアリーを沢山倒すのが目的の為、青銅の小盾は拠点に置いていく。
「多分……大丈夫なはず」
昨日、フェアリーの攻撃を喰らった時の感じでは、盾で防御しないといけないほど、ダメージ量が多い訳ではなさそうだった。
恐らく、鉄の戦槍と鋼鉄の手斧の変則二刀流でも十分戦えるはずだ。
「本当は防具はしっかりつけておきたかったんだけど……」
今日の目玉商品に、鎧などの防具類は並んでくれなかった……ただ、その代わりという訳では無いが、今日はとても良いものを見ることが出来たが。
「すっごいなぁ……」
目玉商品の祭壇には、煙幕を発生させるレア度がコモンの『小型煙幕玉』と、相手の動きを拘束するレア度アンコモンの『粘着網』の2種類の消耗品アイテム。
そして『天空の戦鎚』という武器が浮いていた。
「レジェンダリーなんてあるんだな……」
そう……なんとこの『天空の戦鎚』のレア度は『レジェンダリー』だと記載されているのだ。
俺が今まで見た中で1番レア度の高い物でも『レア』な上、それも片手で数えられる程の回数しか無い。
そんなレア度レジェンダリーの『天空の戦鎚』……なんと販売価格が、脅威の68ゴールドコイン。
今俺の貯金を少し多めに見積もっても、80シルバーコインだ。気力ポーションを4本も買った後だから、それが無ければ1ゴールドコインはあったんだが……
「それでも60倍かぁ……」
値段もそうだが、何よりすごいのフレーバーテキストの豪華さと、戦鎚の持つ特殊効果だろう。
[天を仰ぎ、雲を砕き、稲妻と共に戦場を駆けた英雄の証。その鎚が振るわれるたび、空が応え、雷鳴が敵を討つ]
【特殊効果: 常時雷属性付与。一定時間ごとに「雷精」が宿り、次の一撃が必中+感電付与】
「……かっけぇー!」
正直な話、欲しい。めちゃくちゃ欲しい。だって100%強いだろう、こんな武器。
見た目もテキストも能力も、全てが文句の付けようのない程カッコイイなんて、欲しがらない方がどうかしてる。
「ただ買えるわけないんだよなぁ……」
68ゴールドコインなんて大金、用意出来るはずも無い。
まだ1日の収入が10シルバーコインを超えれば良い方なのだから。
「ふぅ、買えない物を欲しがってもしょうがない。切り替えていこう!」
パンパンと頬を叩き、気合いを入れる。買えない手に入れられない物より、現状で手が届く物に意識を向けるべきだ。
「まず今日の目標はフェアリーを……200~250体は倒したいな」
昨日頑張って54体。今日は特別にポーションも用意したから、昨日の4倍から5倍は成果を得たい。
「とりあえず、イベントエリアに行く前に景品交換で『素早さの巻物』を交換しよう」
前に見た『敏捷の巻物』よりも効果量が少ない、ランクの低いの巻物。
現状攻撃力は足りている。それなら必要なのは殲滅スピードにも直結する、自分の移動速度だろう。
最後にチラリと『天空の戦鎚』を見て、いつかはああいう武器を手に入れられるくらい成り上がるぞ、と決意を固めつつ、掲示板を操作してイベント専用集会所への入口を開く。
「おお?」
集会所の中は、もしかしたら昨日よりも盛り上がっているかもしれない。そんなくらいの熱気があった……いや、もうこれは熱狂って言ってもいいかもと思えるくらいだ。
そんな中、ランキングが掲示されている掲示板から歓声が上がった。
武装集団が諸手を挙げて喜んでいる絵面に少し苦笑しつつ、自分のその集団に混じるべく歩みを進める。
「おい、見たか!?マキアさんが1位のいけすかねぇジジイを抜いたぞ!これで有言実行だな!」
「ああ見たさ!やっとだな!くうっ〜……やっぱあの人はかっけぇ漢だぜ」
……周りの人達の話を盗み聞くに、マキアさんが昨日は1位の『ルフェイ』という人物のポイントを抜かしたらしい。
というか、ルフェイさんはお爺さんだったのか。
「(というか、今ここで歓声を上げてたのって全部マキアさんのファンって事?)」
……まあ、あの人が人気なのは少し理解は出来る。
普通よりも弱肉強食の側面が激しいこのダンジョンでは、特に『強さ』は『正義』だろう。それにあの豪快な性格だ……憧れを抱く男性は多いんじゃなかろうか。
「……940ポイントかぁ」
数十分もしない内に1000ポイントという大台の数字に乗りそうな勢いだ。本当、どこまで強くなればそんなポイント稼げるんだか。
既にランキング下限の50位の人でさえ、300ポイントを稼いでいるくらいには、ランキングは白熱しているらしい。
「……あ、ルキだ。ワイズさんもいる」
景品の交換所に向かう途中、何となくランキングに目を通していくと、自分の知る人の名前が掲示されていた。
【31位:ルキ 453ポイント】
【19位:ワイズ 656ポイント】
「すごい人と知り合いなんだなぁ、俺。よし!今日は頑張るかぁ……出来ればランキングにも乗ろう!」
ルキは特に俺の事を気にかけてくれている。その理由は今の所俺には分からないが……そんな俺が不甲斐ない成績で居るのは忍びない気がしてくる。
勝ち負けの話でも無いし、ルキがそんな事気にする人でも無い事は分かってるが、俺の気分の問題だ。
「『素早さの巻物』……交換、っと」
タッチパネルを操作して、『素早さの巻物』をポイントと交換する。そして現れた巻物を手に持って、俺はイベントエリアへの入口の列に並んだ。
順番待ちをしている間に、手に入れたばかりの巻物を開く。もう3回目になる巻物の使用……今度の巻物は、2回目と同じく肌の表面に文字が吸い込まれていくが、心無しか下半身に吸い込まれる量が多い気がする。
「ふぅ……」
巻物を使い終え手持ち無沙汰になった事で、顔を上げて周囲を見てみれば、巻物を大量にテーブルの上に置き、1個1個使用している人や……交換して手に入れた素材アイテムを袋詰めにして持ち帰ろうと頑張っている人の姿が見えた。
掲示板の前でランキングの行く末に賭け事までしている人も居た。
所持品の譲渡や交換は出来ないようになっていると、ルキは言っていたから……多分雰囲気を楽しむだけか、この場での食事の奢りなんかを賭けているんだろう。
「楽しみ方は人それぞれだなぁ……」




