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異文化交流




「ルキは……まだかな」


 イベント専用集会所の中を1階も2階も探しても、目当ての人物の姿は見つからなかった。

 2階にはワイズさんの姿も見えず、どうやらあの人もイベント専用エリアに行っているらしい。


「ちょっと早く来すぎたかな」


 拠点に戻ってシャワーなど、別に急がなくても大丈夫だったらしい。

 まあ、時間があるなら集会所の中を少し探索でもしてみよう。


「とりあえず撃破ポイントで交換できる景品がどんなのか気になるな」


 1階にある、通常の集会所より遥かに大きい売店スペースには、イベント専用のスペースが併設されていた。

 大きなタッチパネルがいくつも並んでいて、どうやらそれを操作して景品の交換や換金をするらしい。


「意外と近未来的だよなぁ……」


 呟きながら、空いているタッチパネルの元に歩く。

 タッチパネルは俺が正面に立ったのを察知して、自動で起動する。

 画面には『1 シルバーコイン』から始まり、回復ポーション……あとはポイントの要求数が多いが『巻物』系のアイテムもあった。


「でも取捨選択の部屋で手に入る巻物より、数値が低いのか」


 あっちの方は攻撃力など分類された身体能力の上昇値が10%だったが、このイベントの景品として用意されているのは5%だった。

 それに各種5つまでしか買えない購入制限がある。


「んー……まあ、また今度でいいかな」


 俺のポイントじゃ巻物は1個しか買えないし、今交換すると荷物になる。


「ただ、明日からは頑張らなきゃな」


 使うだけで身体能力が上がるんだから、巻物は交換し得なアイテムだろう。1つにつき30ポイント必要だから……購入制限まで交換して150ポイント。

 種類は全部で6種類だから……


「え、全部で900ポイントも稼がないといけないのか」


 今日俺が稼いだポイントは、頑張って50ポイントなのに……全種類は諦めるとしても、一種類買うにしてもイベント開催期間ギリギリまでポイントを稼がないといけない計算になる。


「明日からは青銅の小盾持たないで、手斧と槍で二刀流して殲滅力高めで行った方がいいな」


 せめて攻撃力と器用、敏捷の3つは確保しておきたい。その為にも明日からは頑張らねば。


「……服なんかもあるんだ」


 タッチパネルを一番下までスクロールすると全身コーディネートされたセット服が項目としてあった。

 拠点に売っている服はただシンプルな無地のものだが、こっちはデザインがしっかりしている。いわゆるオマケのオシャレ装備のような感じのだろうか。

 目玉商品にも同じような物が並んでいるのを見た事がある。


「ああ、居た居た……マシロ」


 この声は……ルキだ。いつの間にか集会所に戻ってきていたらしい。

 後ろを振り返ると、女性ながら周囲と比べても背が高く、スタイルも良い美女が俺の後ろに立っていた。


「すまない、待たせたかな?」

「いや、大丈夫。ここで景品見てたら一瞬だったよ」

「それなら良かった。実はもうお腹ペコペコでね、すぐにでもご飯を食べたいんだが」

「俺も俺も」

「そう?じゃあもうご飯にしてしまおうか……何を食べようかな」


 ルキと並んで売店の中に入ると、こちらも中々の混み具合だった。


「おおー!沢山売ってる!」

「ああ、これは少し目移りしてしまうな」

 

 イベントが開催されているからか、売店で売っている物が何かと豪快だった。

 拠点ではパッケージされた弁当や、袋詰めされた惣菜パンなど、そもそも持ち運びの効く形で食べ物は売られているが……ここには、トレーに主食主菜副菜汁物と全てがセットの定食などが売られている。

 俺が最初ここを見て、フードコートみたいだと思ったのは間違いではなかったらしい。それほど沢山の種類の食事が売られていた。


「……ん?」


 どれを頼もうか、行ったり来たりして悩んでいると、端の方に売られていた物が目に入った。

 『シェフの秒替わり定食』という名の、メニュー写真が無いご飯の販売コーナーだ。


「どうした、何か見つけたか?……『シェフの秒替わり定食』……うん?秒?」

「うん、日替わりじゃなくて秒で内容が変わるみたい」

「それは、素直にランダムと言えば良いものを……」


 ルキがその捻くれた名前に苦笑している中、俺はそのコーナーに向けて歩く。


「まさか、買うのか?」

「うん。ちょっと気になっちゃったし」


 ルキの言っていた通り、秒替わりは詰まるところ内容がランダムという事だろう。

 どれにしようか迷っていたし、丁度良いんじゃないか?面白そうだし。

 

「はぁ……思い切りが良いのか、好奇心が強いのか」

「へへ、まあまあ」


 値段は……シルバーコイン5枚か。まあ定食として出てくるんなら、相応っちゃあ相応の値段だろう。

 内容と量にもよるけど。


「……いいだろう。私も気にならないと言えば嘘になるし、面白そうなのは確かだ」

「あ、ルキもこれにする?」

「ああ、挑戦してみるとする」


 あは、いいじゃないか。こういうのもまた冒険の1つだろう。

 ATMからの支払いを選択し……どんな物がくるのかと、ワクワクしながらレジのカウンターを見下ろす。

 いつものように、実体の無いものを買った時に商品がいつの間にか現れるのと同じで、カウンターにはトレーがどこからともなく置かれていた。


「お!?……お?なんの料理だろう」


 出てきたのは、大麦パン、ロースト肉、見た事無い野菜のソテー、野菜と豆のスープが置かれたトレーだった。

 俺の記憶違いでは無ければ、この野菜のソテーの野菜は……見たことが無い。

 アスパラガスに似ているが、アスパラガスには真っ赤なひび割れた模様など走っていない。


「おや?それはテラルの料理だね、懐かしい」

「え、これルキの世界の料理なの!?」

「ああ、この野菜……フェルノ葉茎というんだが、ピリッとした辛味が特徴で、肉料理と合うんだ」

「へー!」


 すごい。まさかランダムで丁度ルキの世界……テラルという世界の料理を引けるとは。


「それじゃあ……このロースト肉も多分猪の肉かな?私の世界の定番メニューなら、多分そうだと思う」

「なるほど!うわー、食べるの楽しみになってきた!」

「ふふ、じゃあ私も買ってみよう。どんな料理が出るのかな」


 ルキがレジを操作して『シェフの秒替わり定食』を購入する。そして現れたのは……この世界に来てから一度も食べていない日本の料理だった。


「おや、私もこの料理の事は知らないな。肉料理なのは分かるが……」

「あ、それ日本の料理だよ。生姜焼き定食だね」

「ほう、生姜焼きというのか。この白い……米には合うのか?米はこっちに来てから良く食べるのだが」

「合う合う。多分だけどトップクラスで米に合う料理じゃないかな?豚肉を使った料理なんだ」


 偶然とは面白いものだ。

 まさか俺がルキの世界の料理を引き当て、ルキが俺の世界の料理を引き当てるとは……俄然この後の実食が楽しみになってきた。


「よし、それじゃあ……人の少ない2階に行こう。飲み物は、トレーを持ったままだと危ないし、着いてからだな」

「了解……ちょっと通りまーす!」


 人混みに声を掛けて、道を開けてもらう。その声を聞いて、みんな何だ何だと俺たちを見て、食事を運んでいると分かると快く道を開けてくれた。

 ……意外と民度が良いんだな。そういうのも、この場所に連れてこられる条件に入ってたりするのかもしれない。


 そんな事を考えつつ、2階に上がり近くの空いていたテーブルにトレーを置く。


「ワイズさんは……居ないようだな」

「みたいだね。俺が戻ってきた時も居なかったよ」


 イベント中は2階に居るか、エリアに出てるかしてると言ってたし、今ワイズさんはフェアリー狩り中なんだろう。


「ねぇ、ルキ。この料理に合いそうな飲み物って何?」

「うん?本当なら葡萄酒……ワインを勧めるんだが」

「俺お酒は飲まないよ?」


 ここは日本では無いとはいえ、未成年飲酒をするのは良くないだろう……飲んでみてみたいという気持ちが無いでもないけど。

 

「そうだな。そうなると……果物系のサッパリしたものならなんでも良い気がするな。大体大人は酒、子供は果実水だっまから」

「じゃあせめてもの、ぶどうジュースにしよう」

「ああ、それが良いかもな……じゃあマシロ、生姜焼きには何が合う?」


 生姜焼きかぁ〜……まあ、お茶系だろうな。お酒だったらビ、ビールとか?


「この場では飲まないから、酒じゃなくていいよ。マシロならどれを選ぶかを教えてくれたらそれでいい」

「俺が?……じゃあ麦茶かな」

「ほう?麦のお茶か。よし、それにしよう」


 ……なんか、こういうの良いな。異文化交流をしている気分だ。それも世界と世界を跨ぐような、すごい規模での交流。

 自分に無い知見を得られたような感覚がとても面白い。


 ルキも俺と似たような事を思っているのか、どこかソワソワとして楽しそうにしていた。


「さて、早速頂くとしよう……運んでいた時から食欲をそそる匂いがしてきて、我慢が大変だったよ」

「あは、俺も大変だった」


 2階のドリンクバーでそれぞれ飲み物を買って、テーブルに戻る。

 お互い向かい合って座り、顔を見合せ……


「「それじゃあ……」」

 

「いただきます!」

「大地の恵に感謝を」


 それぞれの文化での、食前の挨拶を済ませ食器に手を付ける。


 俺はまず真っ先に、ずっと気になっていた『フェルノ葉茎』をフォークで刺して口に運んだ。

 

「ん!これおいひい!」


 コリコリとした食感の中に、程よい塩味と舌が痺れるような不思議な辛さが、食欲をそそる。

 見た目は、緑色の茎に真っ赤な線状のヒビ模様と食品とは思えなかったが、1度味わってしまえばそんな些細な事が気にならないくらい好みの味だった。


「こらこら、食べ物を口に入れて喋るんじゃないよ……ふふ」


 ルキはそう俺を注意しながら、器用に箸を使って生姜焼きを食べる。すると一瞬目を見開いたかと思えば、口元が綻んだ。どうやら口に合ったらしい。

 

 自分が作った訳では無いが、それでも日本の料理を美味しいと思ってくれた事が嬉しかった。

 記憶喪失とはいえ、これは日本人としての性かな?


「これは、面白い風味をしているな」

「ご飯に合うでしょ?」

「ああ、このショウユ?の味と相まって米が進むよ。ここに来てから何度も思ったが、地球の料理は美味しいな。特に日本の物は」

「でしょう?確か日本は『食の国』って呼ばれてるくらい、食文化が発展してたと思う……まあそれでも世界一ではなかったはずだけど」


 そこら辺は少し曖昧な記憶しか無い。記憶喪失とか関係無く、ただ『前の俺』もあまり良く知らない分野だったらしい。


「……!」


 今度は猪のロースト肉を頬張ってみたが、こっちもこっちで美味しい。テラルで採れるハーブが下味に使われているのか、地球の物とは違う香りで、少し不思議な味わいだ。


「ふふ、美味しいかい?」


 俺がルキを見ていたように、ルキも料理が俺の口に合うか見ていたらしい。

 さっき注意されてしまったから、俺は口を閉じて咀嚼したまま首を縦に振る。


 そうしてお互いの食文化に触れ、楽しい食事の時間が過ぎていった。


 




「あ、そういえばランキング2位の人と会ったよ」


 食事が終わり、食後の雑談タイムに変わる。

 トレーは2階にも設置されていた食器返却口にちゃんと返した後だ。


「2位と言えば……『マキア』という名前の人だったね?」

「うん。ティタニアンっていう種族らしくて身長が……た、多分3mぐらいあった」


 身振り手振りで、マキアさんがどれだけ大きかったかを伝える。


「ほう?そんなに大きい人なのか。それに『ティタニアン』……テラルでは聞いた事も無い種族名だな」

「じゃあルキとは同郷では無いんだ」

「ああ。私が居た世界もマシロ達と同じように『人』は『人』だったよ。エルフだの獣人だのは存在していなかった」


 やはり同じ異世界という括りでも、一つ一つを見比べたらそういう差異はあるのか。

 ……というか何故言葉が通じてるのだろうか。今更になって疑問が湧いてきた


「ねぇ、ルキ。ちょっと気になったんだけどさ……なんで俺達って言葉が通じてるの?」

「ん?そうか、それは説明してなかったか……どうやら私達は、私達をここに呼んだ存在によって言語が統一されているようだぞ……『日本語』にな」

「えっ!?日本語に!?」


 な、何故日本語が選ばれているのだろうか。そういえば確かにどこの文字も日本語で書かれているし、日本の技術で作られたような物も多い。

 売店で売られている物とか。


「も、もしかしてここを作った人って親日家なのかな……」

「ふふ、さあどうだろうな。くじ引きでたまたま日本語が選ばれたから、そっちに文化を寄せたっていうのも有り得るぞ?」

「えー?でも、日本人あんまり見かけないよ?じゃあ文化を寄せる必要無くない?」

「ふふ、それはただ単にマシロが日本人とあまり出会えてないだけだよ……そう考えると今の所マシロは、マシロから見て異世界人としか交流してないのか」


 あ、ワイズさんも地球人じゃないのか。いや、そんな気はしていたけれども。


「まあ、それもあんまり他人と交流を持とうとしなかったからだね」


 一度同年代の日本人を見つけたけど、別に話しかけようとはしなかったからな。


「……機会が無かったとも言うけど。でもさ、もし地球の人と話す事があったら、なんでうちの国の言葉じゃなくて日本語が選ばれたんだ!みたいな事、言われるのかなぁ?」


 それはちょっと嫌だな。気まずいし、俺じゃなくて偉い人に言ってくださいって感じだ。

 

「んふっ、ふはは!……もしかしたら、あるかもしれないな!」

 

 ルキは俺の発言がツボに入ったのか、肩を震わせて笑っている……他人事だと思いやがって。

 ムッと来て、ルキの事を睨んでいるとルキが笑い混じりに弁明をはじめる。


「ふふ……そんな事を言われるマシロを想像したら、面白くてつい、な?」


 な?……では無い。


「そんな顔するなよ……ふふ」


 ルキが手を伸ばして俺の頬に触れる。そして目元を指で撫でてきた。


「ルキってスキンシップ激しいよね」

「そうか?……そうかもな。だが別に誰彼構わずやっている訳では無いさ」


 ルキはクスリと笑いながら、それでも俺を撫でるのを辞めなかった。微笑みながら俺を見つめるその目が何ともむず痒い。


 俺は新たに感じた『選定の狭間のダンジョン』への疑問をとりあえず頭の片隅に放置して……


 むず痒さを誤魔化すように、フェアリーと戦った時に魔法を使ってみたいと思った事や、ポイントが思うように稼げず、景品の交換が思うように行かなさそうな事などといった、そんな取り留めのない話を続けていった。



 

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