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いろんな種族




「うん、結構動くね。俺の体」


 鉄の戦槍で真っ二つに切り裂いたフェアリーが普通のモンスターとは違い、死体が光の粒子となって空気中に溶け出して消えていく中、自分の動きを振り返る。


「10mで……1秒ギリ掛からないくらいかな」


 ワームを倒した分、身体能力が強化されているのを加味して、まずまずの結構だろう。

 欲を言えばこの距離をコンマ数秒、それも1歩とかで移動出来るようになりたいものだが……まあ、それはおいおいか。


「ドロップアイテムは無しか。本当、イベントの為だけのモンスターって感じなのね」


 このダンジョンを作り上げた存在が、なぜこんな特殊なモンスターをわざわざ作り上げた上で、こんな催しを開催するのか甚だ疑問だが……まあ今の所はワイズさんの言っていた『お祭り』のような物として楽しませてもらおう。


「ん?」

 

 ほよほよと不思議な飛翔音を奏でながら、新たなフェアリーがこちらに近付いてきた。

 そのフェアリーは俺に近付きはしたが、俺の攻撃範囲内に入りはせず頭上に滞空する。

 上に飛んだらギリギリ届くかな、なんて考えて足に力を入れてフェアリー向かって跳ぼうとすると、フェアリーの体の光がだんだん強くなっている。


 そしてその輝きが最骨頂に達し、フェアリーの体と同じような光の弾が放たれた。


「うおっ!」


 真っ直ぐ俺に向かってくる光弾を咄嗟に青銅の小盾で防ぐ。盾にぶつかった光弾は、小爆発するようにぼわんと光を広げ、腕にそれなりの衝撃を伝えてくきた。

 それに、爆発と言っても全てが光で構成されていて、チカチカと光が目に染みる。


「くっ……!?」


 その結果眩しさに目を奪われて次弾が放たれているのに気付かず、肩に光弾を喰らってしまった。

 肩が弾かれるような強い衝撃を感じる。ミシミシと骨が軋み、鉄の戦槍を持っていられない程の痛みが全身を支配した。


「……〜〜!」


 食いしばった歯の隙間から声にならない悲鳴が漏れる。

 油断していたつもりは無かった。言い訳に過ぎないが、光に光が紛れていたせいで、攻撃の兆候を全く掴み取れなかった。

 生物と言っていいのか分からないような、フェアリーからは敵意や害意などの意識は感じられなかった。そもそも思考しているのかすら怪しい……そんなフェアリーの意を汲み取って戦おうとしていたのが間違いだった。


「……くそっ!」


 悪態を吐かずには居られないが、とりあえず痛みを我慢して、鉄の戦槍を拾い上げる。いつまでも無防備で居るのは危険だろう。

 

 今まで戦った事の無いタイプのモンスターだ。今まで戦ってきたモンスターは……物理、そう物理オンリーだった。

 体当たりをしてきたり、噛み付こうとしてきたり……そんなモンスターばかりだった。

 飛び道具という点では、トレントや水晶トカゲが同じような攻撃をしてきたが……


「お前、魔法使うのか」


 あの光の弾は多分、魔法というやつだろう。

 死体の残らないモンスターに原理も何も無いかもしれないが……魔法とでも言わないと説明がつかない。


 なんだよ、着弾すると爆発する光の弾丸って……ズルいだろ。カッコよすぎ、俺にも使わせろ。


「う、らやましい、なぁぁ!」


 痛みに竦む体を気合いで動かして、憎きフェアリーに肉薄する。跳んだ勢いを利用して鉄の戦槍を振り上げると、光の球体を切り裂いたにしては硬質な感触が穂先から伝わってくる。


「はぁぁ……」


 2体目のフェアリーを倒し、大きな溜息を吐く。

 失態だ。油断だ。調子に乗っていた。このイベントの浮ついた雰囲気に引っ張られていたのかもしれない。


「光弾の殺傷力が高かったら、肩が無くなってたかもな」


 それかあの光弾の威力がもう少し高いか、俺の防御力が低かったりでもしたら、骨が折れるかヒビが入るかしてたかもしれない。

 

 ポーチから中級回復ポーションを取り出して、中身を呷ると肩の痛みがスッと消えていく。


「……防具欲し〜!」


 鉄縁の革鎧でも装備していたら、肩にも鉄板が貼られていたし、ここまで痛みを感じる事は無かったかもしれない。


「はぁ、無い物ねだりだ」


 出来ればこのイベント期間中に防具系のアイテムが目玉商品に並べばいいんだが……それを買う為にもお金は稼いでおく必要がある。


 ほよほよと飛翔音を奏でながら、新たなフェアリーがやってきた。それも複数。


「3体か、キッツ……」





「あああぁぁぁぁ……」


 たまたまあった切り株に腰を下ろすと、疲れで思わず声が漏れてしまった。

 あれから沢山のフェアリーを倒した。何度も光弾を喰らったし、普通に体当たりも喰らった。


「でも、多分50体くらいは倒せたよな」


 ただ、俺が相当頑張って50体前後なのに……1位の人は約250ポイント稼いでいた。

 時計が無いから、イベント開催からどれだけ時間が経っていたかは分からないが……そう経ってなかったはず。


「それなのに250って、どんだけ強いんだか……」


 しかもあれから時間経ってるから、さらにポイントは伸びてるだろう。


「まあ、いいや。上を見上げても俺が強くなったりする訳じゃないし……帰ろ」


 ルキにご飯に誘われてるけど……汗をかいたから一旦帰ってシャワー浴びよう。武器とかも置いておきたいし。

 イベント専用集会所へ戻る出口に向けて歩き始める。このエリアに入ってきた時の物とは違う、エリアから集会所に戻る専用の出口だ。

 

 メルヘンチックなエリアから集会所に戻ると、相変わらずの人の多さだった。まだまだ人が至る所に集まっていて熱気がすごい。

 エリア内には俺以外の人間が居ない静かな空間だったから、集会所がとても騒がしく感じる。


 そんな中一旦拠点に帰る為に、拠点への入口の方に向かって歩いていると、俺と似たような格好をした人が居た。

 Tシャツの上から、初期装備の革の胸当てを付けた新人って感じの少年だ。

 人集りに緊張でもしているのか、少し挙動不審な少年は、俺と同じ黒髪で……多分顔立ちも似ている。


「(日本人かな……というか、集会所には色んな人種でいっぱいだ)」


 肌の色も、髪の色も……果てには種族すら違う人も居る。

 頭に動物の耳や角を生やした人、耳が尖っていて少し長い人……ルキも日本や地球では無い世界の出身だし、そういう人種が居てもおかしくは無い。


 そんな光景によそ見をして歩いていたのが良くなかった。


「うわ……!」


 ガツンと硬い物……多分鎧に体がぶつかる。俺の前方不注意で、人とぶつかってしまった。


「おっ!?……おー!すまねぇ、大丈夫か坊主!」


 幸いにも、俺がぶつかった人は温厚な人だったのか、俺からぶつかったのにも関わらず、俺の心配をしてくれた。


「あ、大丈夫です。むしろぶつかってすみま、せ、ん……」


 ぶつけた場所を抑えながら、謝る為に顔を向けると……めちゃくちゃ体が大きくて、言葉が詰まる。


「でっ、かぁ」


 俺がぶつかった相手は、集会所に居る人達の中でも群を抜いて大きな人だった。

 頭1つ抜けている所の話ではない。多分身長が2m以上ある、巨人だった。


「お?坊主はティタニアン見んの初めてか!ガハハ、そりゃこんな所じゃ俺も珍しいわな!」


 ティタニアン……とは、この人の種族の名称だろうか。

 身長も肩幅も、何もかも俺の倍はある男性は豪快に笑って、集会所の注目を集める。


「俺ぁ、マキアっつうんだ。おめぇさんの名前は?」

「あ、俺はマシロって言います」

「マシロか!良い名前なんじゃねぇか!ガハハ、分かんねぇけど!」


 マキアさんはそう笑って俺の頭を簡単に包めそうな大きな手で俺の頭を撫でる。グリングリンと首が回って、ちょっと痛い。

 全体的に豪快だなぁ……というか、マキアって名前って……


「2位の人!?」


 掲示板に書かれている2位の人の名前も『マキア』だった。現在『473ポイント』の撃破ポイントを稼いでいる。


「お、そうそう!結構頑張ってんだけどなぁ、1位の『ルフェイ』っつう人に中々追いつけねぇんだよな!ガハハ!」


 本当に本人だとは思わなかったが……改めてマキアさんの事を観察すると、確かに2位に上り詰められそうなくらい強いって事が分かる。


 素材の分からない金属が使われた、ただ見ているだけでも威圧感の感じる全身鎧を、まるで空気を纏っているかのように重さを感じさせず、その上俺の身長なんか優に超えている大斧を背中に2本背負っている。


「んじゃ、俺はまたポイント稼いでくるわ!ガハハ、マシロも頑張んな!」

「あ、はい。ご、ご武運を……?」

「おう!ありがとさん!」


 どしんどしん、と歩くだけで振動を生み出しながら、マキアさんは専用エリアの入口に向けて歩いていく。

 その体の大きさとか、明らかにレア度の高い装備とか、そういう強そうな雰囲気に、周りの人も自然とマキアさんの道を開けていく。

 最終的にはエリアの入口の列に並んでいた人すら、マキアさんに順番を譲る程だった。


 マキアさんは順番を譲られてここからでも聞こえるくらい大きな声で「あんがとさん!」というお礼を言って専用エリアに入っていく。


「あ、入口のサイズって可変式なんだ……」


 マキアさんの体格に合わせるように、専用エリアの入口の大きさが変わっていた。

 ……もしかして、拠点とかもマキアさんの体格に合わせて規格が違ったりするのだろうか。


「……すごい人と知り合っちゃった」


 もしかしたら、向こうは俺程度の人間の名前はすぐに忘れてしまうかもしれないけど……それでも有名人と出会ったみたいな嬉しさを、ちょっと感じていた。


「ハッ!早く帰ってシャワー浴びないと」


 ルキとの予定が控えてるんだった。



 

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