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ハプニング?




「──って、感じかな」


 ワイズさんに過去に起きたイベントの事や、その時の出来事などを話を聞いてそれなりの時間が経った。

 ワイズさんの話し方が上手く、話の内容も面白くて思わず時間を忘れて聞き入ってしまった。


「……面白い話だったな、マシロ」

「うん、すごい話だったね」


 特に攻撃の勢い余って後ろにある山も切り落としてしまった剣士の話が衝撃的だった。

 どれだけ強くなればそんなこと出来るのか、俺もそんな領域に上り詰められるのか気になるし……その切り落とした山が自分たちに向かって落ちてきてしまったっていう話のオチも相まって強く印象に残っている。


「いやはや……そんなに喜んでもらえると、ここに長く居た甲斐があるって感じるねぇ」

「ワイズさんはどれくらいこのダンジョンに居るの?」

「ん~?1年は経ってないと思うけど……はて、どれくらいだったかな」


 1年……まだ1ヶ月も経ってない身からすると途方もない日数だ。そんなに掛かるほどダンジョンの上層の攻略は大変なのだろうか。


「でもオジサンの話はそんなに参考にはならないと思うけどねぇ……そもそも、ダンジョンから脱出しようと考えてないから」

「そうなのですか?」 

「実はそうなんだよね~……オジサン、元々研究者だったから、こういう周りに迷惑の掛からない場所を1人で好きに出来るってなると研究に没頭しちゃってね~」


 なるほど、俺やルキとは違う考え方だけど、確かにそういう意味ではこのダンジョンはおあつらえ向きの場所かもしれない。

 生きる上で必要なものはモンスターを倒してお金を稼げばいくらでも手に入る。他人との交流も自分からしようとしなければ、全く無いし……


「自己研鑽に費やす時間は好きなだけあるのか」

「お、そうそう。そういう事なんだよね~」


 「そういう意味でも良い場所だよ、ここは」とワイズさんは言って、コーヒーに口を付ける。その姿から、大人の余裕のようなもの感じた。


「……ところで、2人ともイベントの方は進めなくても良いのかい?」


 ワイズさんにそう言われ、思わずルキと顔も見合わせる。


「わ、忘れてた!」

「確かにすっかり頭から抜けていた……ワイズさんの話が面白かったせいかな」

「おっと、それは悪いことしちゃったね。いやぁ、話が面白くてごめんねぇ」


 絶対悪いとは思ってない軽い態度でワイズさんが謝る……いや、ワイズさんは全く悪くは無いんだが。


「ワイズさん、急で申し訳無いですが私たちはこれで」


 立ち上がってイベント専用エリアに向かうための準備をする俺とルキ。それをにこやかにワイズさんは見守っていた。


「オジサンは気にしなくて大丈夫だよ。2人とも頑張ってポイントを稼いできな」

「はい!いろいろありがとうございました!」

「私からも感謝を……またお会いしましょう」

「はいよ~、イベント中は多分ここに座ってるか専用エリアにいるから、気軽に声を掛けてね~」


 そう言うワイズさんに見送られながら、ルキと1階に降りていく。

 

 1階では自分たちの武器や装備を見せ合っている人達や戦いに備えて武器の手入れをしている人、昼間から酒盛りで盛り上がっている人達が沢山居て、ワイズさんが言っていたような『お祭り』感のある熱気が感じられる。

 

 そんな人で溢れかえってる集会所の中を、人の合間を縫うようにして進んでいくとルキが唐突に口を開いた。


「面白い御仁だった」

「そうだね……知り合ったばっかの人だったの?」

「ああ、今日知った人だ。この集会所に来て、人の多さに辟易して2階の方に逃げたら、そこで出会った」

「へぇ、そうだったんだ」

「雰囲気が今まで見た人とは違ったから、話しかけてみたが……研究者だったとは」


 ルキは「思い切って話しかけて良かったよ」と笑った。

 確かにこの集会所にごった返してる人達と比べたらワイズさんは雰囲気が全然違う。鎧を身に付けて武器を背負うような人が多い中、ワイズさんはくたびれたシャツにロングコートを着込んでいるだけで武装の一つもしていなかった。

 

「(でも隙だらけって感じじゃなくて……むしろ隙なんて少しも無かったんだよな)」


 研究者と名乗っていても、ただの研究者では無いだろう……あの人は一体何者なんだ。


 そんなことを話しているとイベント専用エリアへの入口を見つけた。

 専用エリアへの入口には列が出来ていて、その最後尾に並ぶ。最前列に居る人はどんどんエリアの中に入っていくから列の進みは早いが、それ以上に入ろうとする人の方が多く、列は長い。


 列に並んで自分の番はまだかな、なんて呑気な事を考えていると、俺の後ろにいるルキからとてつもない圧を感じる。

 殺気、にしては俺に対する敵意や害意は無く……どちらかと言うと、これからのモンスターとの戦闘に向けた、漠然とした『戦意』といった感じだろう。

 周りにいる人からも似たようなやる気を感じるが……ルキから感じるそれは一線を画していて、思わず振り返ってしまった。


「っ!?」

「ん?ああ、すまない」


 ルキの顔を見上げると、ルキと目が合う。気にするなと言う様にルキは笑うが、圧は依然として強いまま。

 

 自分と比べたら当たり前にルキの方が強いとは感じていたが、まさかこの集会所に居る人達と比べても、いっそう強いとは思わなかった。

 ……それを、戦意一つで思い知らされるとは。


「でも、よく気が付いたな。やはりマシロには戦いの才能があるな」


 偉いぞ、とルキの手が俺の頭を撫でる。


「……そうかな?結構分かりやすいくらい違かったけど」

「周りをよく見ろ……私の事を見ておきながら、気配の変化に気付いてない奴ばかりだぞ」


 ルキが顔を近づけ、周りに聞こえないように耳元でそう言うので、視線だけ動かして周りを観察する。

 ……確かに周りに居る人は、ルキの整った容姿に鼻の下を伸ばすか、羨むような視線を向ける人ばかりだった。


「……美人は大変だね」

「おや?マシロがそんな事を言ってくれるとは……ふふ、有象無象に言われるより何倍も嬉しいよ」


 俺の頭を撫でる手がより一層優しくなる。

 少し気恥しいが……それよりも、周りから「なんだあいつ」と言わんばかりの嫉妬の視線が突き刺さってくるのが気になる。


「周りの目が痛いね」

「それが役得という物さ……でも美人に撫でられて嬉しいだろう?」


 ルキが揶揄うような顔でそんな事を言ってきた。明らかに俺が美人だと言った事を弄ってきてる。


「……もう言わない」

「ふふ、拗ねたな?」

「……」

「ごめんごめん、冗談だよ。つい思わず、な?」


 謝ってくるが、それも無視して前を向いても、後ろ髪を撫でられる。

 なんだか胸がムズムズして、どうも調子が出ない。風邪でも引いたんだろうか……でも体調が悪い訳では無いし。


 そんな事を考えているうちに、俺が専用エリアに入る順番が回ってきた。


「じゃあ、行ってくる」

「ああ、行ってらっしゃい。終わったら集会所で待っててくれ、ご飯でも食べよう」

「ん、了解」


 ルキと一旦の別れを言って、イベント専用エリアに足を踏み入れる。

 

 集会所から、なにやらメルヘンな雰囲気の景色に切り替わった瞬間……前方から急接近してくる存在を感じた。

 俺の顔面向けて飛んでくる光の玉……『フェアリー』も俺を狙った訳では無く、ただ飛んでいたら正面に俺が急に現れたって感じだろう。

 

 お互い避けるのが間に合わなくて……


「痛っ!」

「……!」


 光の玉が俺の額にガツンと衝突し、俺は後ろに仰け反ってしまった。


「おっ、と……大丈夫か?マシロ」


 このまま体勢を保てず、後ろに倒れる……ってところで後頭部が柔らかい何かに受け止められ、体が支えられる。

 その状態で上を向けば、ルキが俺のことを心配そうな顔で見下ろしていた。


「……エリアに入った瞬間、フェアリーと正面衝突した」

「みたいだな、おでこがもう赤くなってるよ」


 すり、とルキに細長い指が俺の額を撫でる。

 ああ、体勢的に俺の頭を受け止めたのはルキの胸か。事故とは言え、女性のデリケートな部分に突っ込んでしまった。


「流石に入った瞬間は反応出来なかったや、ありがとう。あとごめん」

「かまわないさ。次は気を付けるんだよ」


 その言葉に頷くと、ポンポンと頭を撫でられた。

 改めて別れを告げ、今度は慎重に顔だけ中に入れて周囲を確認し、安全を確かめて中に入る。


 イベント専用エリアは、さっきも言った通り随分メルヘンな場所だった。


「空がピンクだ」


 空は常に夕暮れや夜明けのように淡いピンクや金色に染まり、星型の星が昼間から瞬いている。雲の色は水色だし、そこから虹の橋が架かっていた。

 地上では紫色の草原が一面に広がり、カラフルな花が至る所に生えていて、背の低い木には宝石のように煌めいた果実が成っていた。


 そんな場所に沢山の光の玉が飛んでいる。

 ふわふわと輪郭が曖昧な、野球ボールのような大きさの光の玉。その背には虫の羽が光る鱗粉を撒きながら羽ばたいていた。


「あれがフェアリー」


 実体が無いように見えるが、実際は結構体が硬いことをさっき正面衝突したときに知っている。


「あれが、1体1シルバーコインのモンスター……」


 他の景品と交換することも考えたら、ポイントはあればあるだけ良い。

 流石に今からランキングに名前を載せることは出来ないかもしれないが……この3日間、出来るだけ多く討伐させてもらうとしよう。


「ワーム戦でもっと動けるって気付いたし、どこまで動けるようになったのか確かめるにも丁度良いな」

 

 ただの光の玉だから、大量に倒したとしても良心の呵責に苛まれることもないだろう。


 とりあえず、前方10m先を飛んでいるフェアリーに向かって大地を蹴る。

 邪魔な常識を捨て去り、枷を破ったように動く俺の体は……一瞬にしてフェアリーに肉薄し、その光の体を鉄の戦槍で真っ二つに切り裂いた。



 

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