イベント開催とそこでの出会い
その日は起きた時からダンジョンの雰囲気が少しが違っていた。
どこか浮ついているというか、そわそわしているような……そんな落ち着きがない雰囲気だ。
「なんだろ、この感じ」
朝ご飯を食べながら、なんだろうなと首を傾げる。
今日は3つ目のエリアの探索をしようかなと思ってるけど、それに何か支障をきたさなければいいが。
「今日の目玉商品は……ん~、最近欲しいと思える物が並ばなくてつまんないねぇ~」
今更『鉄の槍』とか並ばれても、その上位互換を持っているから必要は無い。他にも魔法防御力が上がるアクセサリーも、現状では要らない。
並んでいたのが『鉄の剣』だったら、剣も使ってみたいと思っていたし、即決で買うんだが……
「あ、そうだ……とりあえず新しい鎧が手に入るまでの、代用品買っとかなきゃ」
Tシャツ1枚でダンジョンを探索するのは、流石に心許ない。初期装備でも使っていた革の胸当てを買う……というかワーム戦でダメになってしまったから、全身一式を新しく買い揃える。
そんな中、掲示板に見覚えのない看板が増えているのを見つけた。
第2エリアのボスを倒して第3エリアに行けるようになったから……ではない。しっかり第3エリアへの看板は他にある。
俺が見つけた見覚えのない看板は、他とは違う並び方をしていて、一つだけ端の方にポツンと掲示されていた。
「なんだこの看板」
顔を近づけて文字を読む。書かれていたのは『イベント専用集会所』の文字。
「イベント……?」
『イベント専用集会所』とやらの様子を見てみようと、試しに文字に触れる。
そうして現れた入口から、集会所の中の様子を覗いてみると人でごった返していた。
「えっ!?」
10人や20人所の話ではない……想像以上の人の多さ。『選定の狭間のダンジョン』のこんなにも人がいるとは思わなかった。
基本的に自分が居るダンジョンには自分以外に存在せず、他人との交流も集会所を介さないといけない。そんな中、こんな大人数の人間を見るのは初めてだったから、思わずビビッて入口を閉める。
「イベントって何なんだ!?」
とりあえずそれを知るためにも早く準備をして、イベント専用集会所に行ってみよう。
朝ご飯を飲み込み、すぐに着替える。とりあえず革の胸当てなどを装着し、今出来る最大限の武装をする。
最後に姿見の鏡の前に立ち、人の前に立って恥ずかしい格好をしてないか、寝癖の有無などを確認していく。
「……防具より武器を優先した初心者って感じだな」
それか、目玉商品で買いたい物がなかなか並ばない運のない人。けど、とりあえずは準備が出来た。
「行くか」
中でイベントについて教えてくれそうな人を見つけられたらいいな、と思いながら、イベント専用集会所の入口を開く。
「人、多いなぁ」
石レンガの拠点から1歩、集会所の中に入った途端急にざわめき声が聞こえてくる。
本来の集会所は喫茶店みたいな雰囲気の落ち着いた空間だが、このイベント専用集会所は2階にもラウンジのある大きなフードコートのようだ。
「うお、でっけぇ掲示板」
一際熱気の強い人集りのある場所には見上げるほど大きな看板があった。
その集会所のどこに居ても見えるような大きな掲示板には、数字の横に人の名前らしき文字と……『撃破ポイント』なる数字が表示されている。
左上に表示されている1番、2番、3番目に『撃破ポイント』の数字が大きい人達には、それぞれ金銀銅の王冠が名前の前に付いていた。
「ランキング形式なのか」
つまるところ、あの『撃破ポイント』なる数字の多さを競うイベントなのだろう。
1位の人のポイントは『254ポイント』、2位の人は『247ポイント』と結構接戦をしているが、掲示板に表示されているランキングの1番下……右下に表示されているポイントは『57ポイント』と、数字の差は大きい。
「1位と……50位の間に200ポイントの差もあるのか」
というか確かに人は多いと思ってたけど最低でも50人がこの『選定の狭間のダンジョン』にいる事の方が驚きだ。
その上、俺のように0ポイントでランキング外みたいな人も居るだろうし。
「……マシロ」
「ん?」
名前を呼ばれた気がしたが、周囲を見回しても知っている人の顔は無い……というか俺を呼ぶ人なんて一人しか心当たりは無いけど。
「上だよ」
顔を上げると2階のラウンジの柵からルキが顔を出して、にこやかに俺を手招きしている。
良く俺に気付いたなと思いつつ、イベントの詳しい話を聞けそうな人を探さなくても良いことに安堵しながら、2階に上がる。
「おいで、こっちだよ」
ルキは、無精ひげを生やした初老の男性とテーブルに座っていたみたいだった。
「ワイズさん、私の友人もご一緒しても?」
「うん、もちろんいいとも……こんにちは、僕はワイズ。気軽にオジサンって呼んでね~」
ワイズと名乗った男性を火のついてない煙草を咥えながら、緩く手を振っている。
「こんにちは、俺は……マシロっていいます」
『マシロ』と名付けてくれた人が居る前で、名乗るのは少し気恥ずかしい。ルキもそんな俺をニコニコと見つめていた。
「マシロくんだねぇ?……うんうん、良い名前だ」
「でしょう?」
ワイズさんのそんな言葉にルキが自慢げに反応する。その大きな胸を張ってドヤ顔をしていた。
「ああ、そういえばマシロ、装備が変わっているね」
「前の装備は使えなくなっちゃった。今は新しい装備手に入るまでの繋ぎ」
「早く変えられるといいね」
それは本当にそう。今度は鉄とかの全身鎧を着てみたいところだ。
「あ、というかイベントって何なの?」
「マシロくんは最近ダンジョンに来たのかい?よし、じゃあこのオジサンが説明してあげようかな」
「じゃあ私はその間に飲み物でも買ってこようかな」
ルキが席を立って売店の方に歩いていく。それを見送っていると、ルキとすれ違った人のほとんどがルキのことを目で追っていた。
……なるほど、確かにルキは美人だからな。
「さぁ、イベントについての説明をしようか……と言ってもオジサンもそんなに詳しい方じゃないんだけどね」
ワイズさんがコホンと咳払いをして、説明をし始める。
「このダンジョンでは、不定期で普段のダンジョン攻略と違う……お祭り、みたいなのが開催されるんだよね」
「ほう、お祭り……」
「うんうん。今回のイベントは、イベント専用のエリアで、イベント専用のモンスターの討伐数を競うって感じの内容だよ」
普段一人でダンジョンの攻略をしている人たちにとって、ちょっとした息抜きって感じの行事ってことなんだろう。集会所に居る人達もみんな少し浮かれているというか、楽しそうな感じだ。
だから今日は起きた時からダンジョンから感じる雰囲気が浮ついていたのか。
「あの大きな掲示板を見たら分かると思うけど、討伐数で順位付けされてるよ。1体につき1ポイントって感じだね」
「イベント専用エリアがこの集会所から行けるって感じですか?」
「1階に入口があるよ。専用エリアに現れるモンスターの強さは人によって違くて、その人のダンジョンの攻略具合で変動するっぽいんだ」
「その人の最高到達階層のモンスターの強さが反映されるようだよ」
ルキがワイズさんの言葉に続いて説明をする。
戻ってきたルキの手には、俺とワイズさんの分の飲み物もあった。
「マシロはオレンジジュースで良かったかな?」
「うん、ありがとう!」
「ワイズさんは、コーヒーのおかわりを」
「オジサンの分まで……どうもね」
ルキから紙コップを受け取る。
……なるほど、ルキの言葉通りなら俺は『黒岩窟』の……ボス部屋をすぐ見つけてしまって全く探索しなかった第5階層基準になるのか。
「専用モンスターには、まれに高得点の亜種個体が現れるらしい」
「亜種個体……それは一目見て亜種個体だって分かる?」
「分かるよ。モンスターの見た目は『フェアリー』って呼ばれている黄色い光の玉なんだけど、亜種個体は黄色じゃなくて、青とか紫とか別の色をしているんだよ」
『フェアリー』、光の玉……話を聞いただけではどんなモンスターか分からないから、これは実際に見て見ないとな。
「あと設定しておくのは……『撃破ポイント』は専用の売店で景品と交換出来るって事かな」
「へえ、景品と交換……」
「ああ、1ポイントにつきシルバーコイン1枚だ。マシロにとって金策に丁度良いかもな」
シルバーコイン1枚!……まだまだダンジョンでモンスターを倒してもドロップするお金はカッパーコインの俺からしたら破格の金額だ。
「イベントの開催期間は内容によるけど……今回は3日間あるから、マシロくんも頑張ってね」
「はい、色々教えてくれてありがとうございました、ワイズさん」
「いやいや、先輩として当たり前の事をしただけだよ」
ワイズさんは軽く笑って首を振る……全体的に緩い雰囲気の人だな、とこれまでの会話で感じた。
「ルキくんも今回のイベントが初めてなんだっけ?」
「そうですね、私もどちらかと言えば最近来た人間なので」
「じゃあ今回のイベントは丁度良いね、イベントの内容によっては参加するのに制限時間なんかあるやつもあったから」
「そういう内容もあるんですね……」
「うん、オジサンが知ってるので良かったらもう少し話してあげようか?」
「「ぜひ!」」




