拠点の新たな設備
「うわぁ……体が真っ赤っかだ」
シャワー室で自分の体を見下ろして見ると、いろんな所の肌がワームの胃酸にやられて赤くなっていた。
無理もない話だ。砂浜の砂を一瞬で溶かすほど強い酸性を持っていたんだから。
……そしてその胃酸にやられて、革製の物が大体ダメになってしまった。
全部溶けてしまった訳では無いが、表面が溶けてドロドロになり、その状態で固まった結果……革の柔軟性のようなものが無くなり、本来の性能を発揮出来なくなった。
「鉄縁の革鎧もやられたのは痛いな~……」
呟きながら、シャワーの温度を冷たくして患部を一旦洗う。ヒリヒリと痛い肌に水がしみるが、冷たいのが熱を持つ肌には気持ち良い。
鉄縁の革鎧も所々鉄板が張られているとはいえ、7割程度が革で……これも例に漏れずダメになってしまった物のひとつだ。
というか、着ていた物のほどんどがワームの胃酸に溶かされてしまっている。
「買い直さないといけないものが多いなぁ……」
服やブーツとかは売店でいくらでも買えるが、鉄縁の革鎧はまた目玉商品で並ばないと買うことが出来ない。それを待つよりも、別の新しい鎧が目玉商品に並ぶ方が早いだろう。
「装備更新しろって事かな」
もうそろそろ鉄縁の革鎧じゃあ不安を感じてくる頃でもあるだろう。丁度良いタイミングだったと、自分に言い聞かせておくとしよう。
「う~……ヒリヒリするぅ」
患部を洗い終わったので今度は回復ポーションを掛けて治して……いきたいところだが、中級と低級どっちを使おうか。
……数の多い低級でいいか。赤くなっている箇所が多いから、中級じゃ足らなくなりそうだ。
「お~、赤みが引いてく」
そういえば、革製品が軒並みダメになってしまっているのに、俺の肌は多少の炎症を起こして痛む程度で済んでいるのは何故だろう。
「……『剛体の巻物』が効いてるのかな」
防御力10%上昇の効果のおかげで、俺の体はワームの胃酸でそこまでダメージを負わなかったのかもしれない。
選んでいなかったら、もしかしたら肌が爛れていたかもしれないと考えると、少しゾッとする。
「選んでて良かった……よし、完治!」
ポーションを掛けてすっかり痛くなくなった体を今度はちゃんと洗う。
ボス戦の疲れが無くなっていくような爽快感を感じながらシャワーを終え、シャワー室を出る。
「ふぅ、スッキリ……さて、ボス戦の報酬をちゃんと確認しようかな」
水気を拭き服を着て、カウンターテーブルに置いていたワームのドロップアイテムを改めて確認する。
「まずは……ゴールドコイン1枚ぃ?」
トレントと変わらないのか。いや今の俺にとっては大金ではあるからありがたいんだけど……2エリア目なんだからもう少しあっても良いだろうとも思う。
「そんで……『拠点増設チケット』」
発展、では無い。ほぼ同じような意味だと思うが発展チケットほど、拠点が様変わりしないよ……という事だろうか。
「『拠点増設チケット』、使用」
使用を宣言しつつ、チケットを切り取り線で千切る。
チケットは光の粒子に姿を変え、ある方向に移動していく……
「物置部屋?」
光が向かった場所は物置部屋のあるところだった。
テーブルの上に置いてある最後のドロップアイテムを一瞬見下ろし……先に物置部屋の方を見ようと、席を立つ。
「おっ、部屋が増設されてる」
何も無い物置部屋の側面に新たな入口が増えていた。
中は……どうやら作業部屋のように見える。
「魔法陣みたいなのが描かれたテーブル……というか台座」
工具類の揃った作業台に、円形の回転式砥石……小さくて簡易的な金床と金槌。下で火を起こせる大釜、などなど。
「そうか。モンスターのドロップアイテムで、素材系のアイテムがたまにあるけど、それを使う用の部屋か」
使えるようになるまでがちょっと遅いような気もするけど、ダンジョンに来てから何日経ったけな。
やばい、ちゃんと数えてなかった。多分1ヶ月は経ってない筈だが……20日と少し、だったっけな。
「だけど砥石があるのは助かる」
武器の手入れをしたいと思ってたところだった。
砥石機は、研ぐときに武器を固定して一定の角度を保てるような補助アームも付いていて、砥石初心者も安心仕様になっている。
「作業台は作業台として……1番の謎はこの台座だよな」
他にあるものは、見ただけでどんな使い方をするのかある程度理解する事が出来るが……この台座だけは何も分からない。
「あ、冊子」
台座の上には、数ページの冊子が置かれていた。表紙には……『錬成の台座の使い方』?
「えーと、【この台座では『アイテム』と『アイテム』を掛け合わせる事で『新しいアイテム』を作り出す事が出来ます】……ほう?」
【台座を使用する際には、使用したいアイテムを台座の上に置いた状態で、側面のボタンを押すことで台座が起動し、錬成が開始されます】
「……これだけか。あとは、例として何個かアイテムレシピが書かれてるだけ」
ふむ。結構便利そうじゃないか?
『アイテム』と一括りされているのを見るに、素材アイテム以外は無理、なんて事も無さそうだし。
「……ドロップアイテムを求めて同じ階層で、同じモンスターを狙って周回するって事をしてないから、アイテムなんて全然持ってないけど」
そう……前提としてこの台座を使う時は、消費しても良いようなアイテムをふんだんに所有している必要がある。
先に進む事を目的としてダンジョンを攻略しているから、同じ階層に留まる事が無い今ではほぼ使い道は無いが。
「さて、最後のドロップアイテムを確認しよ」
作業部屋を出て戦利品確認に戻る。
最後に残っていたのは……首飾りだ。ワームの牙を1本加工して、紐を通したような簡易的な首飾り。
このままではどんなアイテムなのか、どんな効果を持っているのかが分からない為、首飾りを掴んでレジの鑑定機能を使う。
『穿牙の首飾り』
[ワームの牙を削って作られた『黒岩窟』の攻略を証明する証。装備者の攻撃力を少し上昇させる]
「おー、攻撃力アップ!地味に嬉しい」
早速首飾りを身につける。取捨選択の部屋では防御力を選択したから、こうして攻撃力アップの効果を持ったアイテムが手に入るのは嬉しい。
これでワームのドロップアイテムの確認は終わった。
今回はトレントの時とは違って、途中危険はあったけど怪我らしい怪我は無かったし……ほぼ満点に近い結果になっただろう。
「よし……じゃあ鉄の戦槍でも研ぐか!」
特にやる事も無くなったので、初日に鉄の戦槍を手に入れてから初の本格的な整備をしてみよう。
今まではタオルで拭く、くらいしか出来なかったが……作業部屋が出来た事で出来ることが増えた。
いくら頑丈な槍とは言え、『黒岩窟』に現れる甲殻虫の岩のような外殻等に遠慮無しに振るっているので、多少は消耗してしまっているだろう。
「よいしょ」
鉄の戦槍を担いで、作業部屋に向かう。
回転式砥石機にも、軽い説明書のようなものがあったので、それを頼りにしながら作業を進める。
まず、回転式砥石機の補助アームに槍が地面に水平になるように取り付ける必要があるらしい。
「ん?これ水平か?もうちょっと……こうか」
そしたら……円形の砥石を回転させる為にハンドルを回す必要があるみたいだ。
横のハンドルを握って回してみると、ガラガラと音を鳴らしながら回転していく円形の砥石。
「おー、すげー!」
ここに刃を当てて、研いでいくのか……やってる事が事だから、今の気分はさながら鍛冶屋って感じだ。
「角度を調整して、刃を寝かせてっと」
説明書を頼りに、鉄の戦槍の穂先をゆっくり砥石に近付ける。
そして穂先が砥石に掠め、一瞬火花が散った。
「お、お……こ、こうか」
ギャリギャリと音を立てながら、穂先が砥石と擦れる。
俺の記憶には砥石で何かを研いだような経験が残っていない為、おっかなびっくり手付きがどうしても慎重になる。
「穂先の形に合わせて……」
補助アームが無かったらまともに研ぐことも出来なかっただろう。多分砥石に対して一定の角度を保つ事すら、数秒も出来ない気がする。
そうして慎重に丁寧に、時間を掛けながら穂先を研いでいく。
「ふぅ……集中力使うなぁ」
たった一面研ぎ終わっただけでも、倦怠感を少し感じ始めて来ていた。
それもしょうがない。もし失敗すれば刃が潰れて、全部やり直し……最悪もう二度と使えなくなるかもしれない可能性すらある作業だ。
「でも楽しー!」
今まで体験した事無い……というか記憶喪失になってから殆ど体験した事無いものばかりだから、こういった作業でも新鮮で楽しい。
「補助アームの使い方にも慣れてきたし、次からはもっと早く出来そう」
鉄の戦槍を支えてくれている砥石機の補助アーム、どうやら結構自由自在に動かせるみたいだ。
あと多分『銀細工の指輪』の器用さが上がるという効果が役立っている。
「砥石の回転も遅くならないように気を配って……」
鉄の戦槍を研ぎ、濡れタオルで刀身を拭うと……新品同様の輝きを放ち始めた。
今までのモンスターとの度重なる戦闘に気付かないうちに、全体が曇っていたらしい。こうして研ぐ前と後を見比べてやっと気付けた。
「……鋼鉄の手斧も研ぐか!」




