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7日ぶりの2度目




「ああ、それはワームだね」

「ワーム……?」

「『黒岩窟』のボスモンスターの事だ。マシロの言う『甲殻虫』が好物で、ボス部屋から飛び出して他の階層に顔を覗かせるのさ」


 『黒岩窟:第4階層』を探索中に見つけた集会所の入口。中に入ると、初めての時と同じようにルキがコーヒーを飲みながらくつろいでいた。

 大体7日ぶりの再会になるだろうか。その間にあった出来事をルキに話すと、俺の中で1番衝撃のあった物の解説が返事として帰ってきた。


「それにしても……うん。少し見ない間に成長しているじゃないか、マシロ」


 ルキは俺の体を頭から足までじっくりと眺めた後、頷きながらそう言った。

 戦ったとして到底叶わないと、俺の全てが訴えかけるルキ程の強者になれば、一目見ただけでも見た者の強さが分かるのだろうか。


「そうかな?実感とか自覚はあんま無いや」


 確かに『黒岩窟』に到達してからも沢山モンスターを倒しているし、つい最近も取捨選択の部屋で新たに強化されはしたけど……前回ルキと会った時よりどれくらい強くなったかは、自分では分からない。


「ふふ、自分から見たらそうかもしれないね」

「ふーん……」


 まあ他人から見て成長してるっていうのなら、むしろ良い事だから特に気にする必要も無いか。


「マシロは、ここに来る前も戦いとは無縁の生活だったんだろう?」

「多分だけどね……日本にはここみたいにモンスターとかそういう化け物は居ないはずだから」

「ふむ……それでその成長スピードなら、マシロには戦いの才能があるのかも知れないな」


 ルキは何故か嬉しそうにしながら、俺に才能があるかもしれないと話す。

 戦いの才能、ね。ただの学生だったはずの人間が、突然記憶も何も失ったとして、すぐにモンスターと戦えるかと言われたら……出来る人はそう多くないだろう。

 確かに俺に才能はあるのかもしれないが……


「もし俺に才能があったとしても……やっぱりここのダンジョンありきだと思うけど。だってモンスターと戦う度にちょっとずつ強くなってくじゃん」

「だとしても、の話だよ。まあ、モンスターと戦うだけで強くなるのは否定はしないけれどね」


 拠点があり、目玉商品や取捨選択の部屋など手助けがあり、何時でもモンスターと戦えて……モンスターと戦う度に身体能力が強化される。

 この場所……『選定の狭間のダンジョン』に突然連れてこられた人に必要な物は、覚悟くらい要らないだろう。


「あ……そういえば、ルキはここに来る前にどんな生活をしてたか聞いてもいい?ここのモンスターみたいなのと戦ってたの、とか」


 強くならない方がどうかしてるこの場所より、元居た世界で、この軽鎧に身を包んだピンクブロンドの女剣士がどうやって強くなったのかの方が気になる。


「もちろん構わないよ。そうだな、私の元々居た世界か……確かにモンスターのようなものが存在していたよ。私達の世界では魔物と呼んでいた」


 コーヒーを一口飲み、目を瞑りながら懐かしむように話すルキの口元には少し笑みを浮かんでいた。


「魔物の素材はその血から骨、皮や牙……何から何まで有用で、私はそんな魔物を狩って素材を売って生計を立てていたんだ」

「へぇ……!」

「国がサポートする為に組合を作るほど盛んな業種で、その身一つで成り上がる事も出来るから、新人が後を絶たなくてな……気の合う者同士でつるみ、それぞれの組織を作ったりもしていた」


 そこまで話した後、急にルキは顔付きを曇らせ深く溜息を吐く。


「私も女性だけで固まった組織に身を寄せて魔物と戦い、功績を残し……その組織の幹部にまで登りつめたんだが」

「だが……?」

「元々は男女のいざこざを煩わしく思うよう人間や、男性をあまり信頼出来ない人の為の受け入れ口だったのだが……年々男性蔑視が強まってしまってな。私や他の幹部など、組織の主力部隊がどんどんと功績を重ねるものだから、そういう者らが更に大きな顔をし始めたんだ」

「それは、なんて言うか……」


 虎の威を借る狐みたいな……そういう人達は何もしていないって事の自覚が無いのだろうか。


「私は元々その道を歩むしか無かったし、魔物と戦って自分を鍛えていくのも嫌では無かったんだが……幹部になってからは、そういう問題の後始末などで戦いから離れる事が多くなって……つい組織を抜けてしまったよ」

「おー、思い切った決断だ」


 ルキは「私も自分でそう思う」と笑ってコーヒーに口をつける。


「そして煩わしく思う物から解放された日、久しぶりの安眠をしたと思ったら……」


 そこまで言って肩を竦めるルキ。なるほど、そうして起きたらこのダンジョンで目が覚めたって言うことか。

 ……そんな世界も存在しているのか。面白い話を聞けた。


「私がそこで立てた一番の功績は……確か飛竜の討伐だったな」

「飛竜……翼のあるトカゲみたいなやつ?」

「ああ、そんな感じのやつだ。空を飛び火を吐き、人を丸呑みするくらい大きく、並の武器では傷一つ付けられない硬い鱗と皮、鉄を容易く切り裂く爪を持つ生物」

「そんなやつを倒したの!?……1人で?」

「いや、その時は5人でだったよ」


 飛竜なんて俺は見た事がないけど……それでも功績として称えられる程なんだから、とてつもなくすごい事なんだろう。


「ああ、このダンジョンにもボスとして飛竜は居るらしいぞ」

「居るの!?」

「たまたま聞いた話だけどね……多分私と同郷では無さそうだったから、もしかしたら違う飛竜かもしれないけれど」


 そうか……いや、そうだとしても安心は出来ない。

 いつか俺も戦うことになるのだから、ルキから聞いた飛竜を1人でも倒せるくらい強くならないと……多分ダンジョンのクリアなんて夢のまた夢だろう。


「話は変わるけど……『黒岩窟』の探索の調子はどう?クリア出来そうかな?」

「……どうかな。洞窟が入り組んでて次の階層の看板があんまり見つけられないから、もしかしたらまだ日にちが掛かるかも」

「看板か……そればかりは運だからな。見つからない時はどうしようもない」


 まあ看板は探索に時間を掛ければ見つかるとして……問題はボス戦だ。

 ルキから教わったワームと呼ばれているらしい、あのデカミミズ。地中を掘って移動するあの巨体と戦うと考えたら、多分苦戦を強いられるだろう。

 一応中級回復ポーションを1日1本くらい買える程、稼げるようになってきているから、ボス戦に備えてちまちま準備はしているが……


「ワーム……倒せるかなぁ」

「話に聞くマシロの戦い方だと、そう苦戦はしなさそうと私は思っているけどね」

「そう?」

「ワームは確かに図体は大きい割に移動速度も速い。地中に潜ったりと厄介な行動も多いけど……本体自体はあまり硬くないんだ」


 本体の硬さか……あまり気にした事はなかったな。


「その槍……鉄の戦槍、だったかな?それで十分に攻撃は通ると思うよ。『淵樹の密林』のトレントより、多分ワームの方が相性は良いはず」

「そうなんだ……ありがとう、ルキ。ちょっとやれそうな気がしてきた」

「ふふ、どういたしまして」



 

 その後もルキと会話が続いていった。

 自分達がダンジョンで起きた出来事を話し終えたら、ルキが集会所で耳にした話だったり、ルキの過去の面白い話だったり……大体話のタネはこの『選定の狭間のダンジョン』歴の長いルキからだったが。


 今回でルキと顔を合わせるのは2度目。友達と言えるくらいの関係性に慣れてたらいいなと思う。

 今はどちらかと言うとルキに色々教えて貰って、お世話になる事が多いから……いつか何かしら恩返しのような事が出来れば良いけど。



 

 ルキと集会所で再会した後日の探索では、順調に『黒岩窟』の探索を進めることが出来た。特に大した出来事は無く、モンスターを倒してお金を稼いだ、ぐらいしか言う事は無い。

 モンスターがドロップする金額も階層が進んで行く事に多くなってくる。徐々に溜まっていくATMの残高を見て……更なる装備の充実も現実的になってきた。


 そんないつも通りのダンジョン探索の日々だったが……順調だった『黒岩窟』の探索は唐突に終わりを迎える事になる。



 

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