表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/49

はじめの一歩




 チュートリアルだと言った白チョークの文字による説明が終わり、早速俺は初期配布のアイテムがどんなものかを見る為にレジへ歩く。

 相変わらず無人の売店は静かで、ぺたぺたと俺の裸足で歩く足音が響いている。


「さて、どんなものかな」


 レジに置かれていたのは大きな包み。

 丁寧にリボンでラペリングまでされている包装を丁寧に解き、中身を物色する。


「……木の剣?」


 まず最初に目に付いたのは木製の剣だった。片手で持てるような重さと長さ。ものが切れるように研がれてはないけど、触った感じは全力で殴れば生物の1匹や2匹は殺せそうなくらい頑丈そうだった。


 そして次は簡単な防具。服の上から被るように装備出来そうな革の胸当て。そこまで重さもないし、不思議と俺の体のサイズに合わせてあるから、動きの邪魔はされなさそう。


「おっ、サンダル。これはありがたい。いつまでも裸足では居られないからな」


 胸当ての他にも革のサンダルが入っていた。こっちもちゃんと俺の足にピッタリのサイズ。もう足裏の怪我は心配要らなそうだ。


「最後は……うん?ベルト?」


 包みに入っていた最後の初期装備はベルトだった。ズボンを固定するようなベルトではなく、腰に物を取り付ける為のベルト。四角いポーチが取り付けられていて、金具のボタンで開閉出来る。


 ポーチの中からジャラジャラと音がするから、なんだろうとポーチを開けてみれば、小さな小さなコインが沢山入っていた。


「……銅のコインって事はこれが通貨か」


 ひーふーみー、と数えれば計50枚のカッパーコイン。

 まだこの通貨で買える物の相場が分からないから、どれだけ価値があるのかは分からないけど、まあ最初の軍資金を貰えるだけありがたいものだ。


 カッパーコインをポーチに戻し、寝間着のTシャツの上から革の胸当てを装備する。心臓部だけを守るような質素な防具だけど、『防具』を着ているという事実に胸が踊る。

 多分記憶を失う前も、防具を身に付けたことなんてないんだろう。


 ベルトを腰に巻いて、木剣の鍔が引っかかるようにベルトに差し込む。


「似合ってるかな……鏡がないから分からないな」


 まあ、下に着てるのは寝巻きだから様にはなってないだろうな。

 この売店の、祭壇の上の……目玉商品って言おうか……あそこに服とか並ぶ時が来るといいけど。


「……次は売店の商品だな。ざっと値段とか確認して通貨の価値観を知らないとそもそもの話にならないしな」


 売店の横にある陳列棚に向かう。

 置いてあるのはほとんどが食品だった。しかもそのまま食べられるタイプのやつ。惣菜パンとか、おにぎりとか……お菓子なんかも売ってた。

 あとはタオルとか歯ブラシとか最低限の日用品なんかも置いてあったりする。

 ドリンクコーナーも水から始まってスポーツドリンク、野菜ジュースから炭酸飲料まで、種類は様々。

 

 その中でも1番目を引いたのは『低級回復ポーション』というもの。手のひらサイズの小瓶に一口分くらいしか入ってない緑色の液体だ。

 綺麗な色をしているし、それを飲むことに忌避感が感じるような見た目はしてないけど、値段が高い。1番高い。


 売店に売られている物のほとんどはカッパーコインで買えるようになっていた。1番安いはただのコッペパンと水で、このふたつでさえ、カッパーコイン5枚で買える。

 対して回復ポーションは1シルバーコイン。消費アイテムの回復薬でこの値段なら、現状の俺が手が出せるのは当分先の代物だろう。


「……地味なことに目を瞑れば、1食10カッパーコインで済むと考えれば、今の所持金で生活出来るのは持って2日か3日」


 すぐにでも探索に取り掛かり、少しでも稼がないといけない。けれども、拠点となるこの場所の探索を疎かにしてはいけない。


 一見出口も何も無い寝室からこの売店に繋がったように、この売店からどこかに繋がってる可能性はある!


 ……と意気込んで、どこかに隠しボタンが無いか探そうとしたはいいものの、別の部屋に繋がる扉を開くボタンはすぐに見つかった。

 というか明らかにボタンがありますよ、という矢印が白いチョークで描かれていた。


 釈然としない気持ちでボタンを押すと、壁の一部が開き新たな空間へと繋がる。

 そこにあったのは鏡の無い洗面所と、ボットントイレ。


「……まあ、生活には必要だよな?」


 肩透かしを食らった気分だ。それに売店にレジの機械を置いてるのに、水洗トイレじゃなくてボットントイレなのも気に食わない。

 気に食わないが、受け入れるしかない。


「はあ……ATMに金を預けて探索に出よう」


 ため息を吐きながら、レジ横に設置されていたATMのような機械を起動する。

 普通のATMではなく、硬貨の投入口と受取口しかないそれの預金を選択し、ポーチからカッパーコインを投入口入れる。

 画面にに『現在ノ預金額ハ 45 カッパーコイン デス』と文字が流れるのを確認して、俺はドリンクコーナーに向かう。

 1本の水の入ったペットボトルを取り出して、レジに向かう。


「セルフレジか……」


 確かバーコードを読み込むんだったよな?と思いながら、持っていたペットボトルを見下ろすと、ペットボトルのラベルにはバーコードしか印字されていなかった。

 スキャナーでそれを読み取って、手元に残していたカッパーコインを支払い口に入れていけば、少しの読み込みの後『購入完了』の文字が画面に表示される。


「……よし」


 ATMもレジもそれが何かなのは覚えてないが、やはり使うことができた所に安堵の息を吐く。

 

 ペットボトルをベルトのポーチにしまう。

 ポーチはペットボトルがピッタリ収まる大きさになっているが、ボタンをしっかり止めて置かないと、勝手に開いてしまうかもしれないぐらい余裕は無い。

 ……まあ、使っていれば革も伸びていくだろう。


「よし!探索開始だ」


 パチンと自分の顔を叩き、気合いを入れる。

 怪我しない事を第一に、出来れば歯ブラシと歯磨き粉とタオルが買えるぐらい稼ぎたい。


 そんな決意を胸に、掲示板の【淵樹の密林:第1階層】の看板に触れる。

 すると掲示板が突如として消え、その後ろにあるはずの石レンガの壁も消え……鬱蒼とした森に続く入口へと変化した。


「なるほど、確かに密林だ」


 洞が複数個ある太い大きな木がいくつもあり、俺の背丈ほど雑草が地面が見えなくなるほど生えている。

 石レンガの拠点は物音ひとつ無い静かな空間だったが、【淵樹の密林】への道が現れた途端、様々な音が鳴り響いていた。

 流れる水の音、鳥のさえずり、木々や草の揺れる音、どこからか聞こえるモンスターの雄叫び。


「……緊張してきた」


 入口から試しに顔だけ覗かせて周囲を見回すと、沢山の植物のせいで見通しは悪いが、少なくとも目視出来る場所に生物の姿は見えない。


「……よし」


 安全を確認して、石レンガの拠点から1歩……【淵樹の密林】に足を踏み入れる。


 土を踏みしめる感覚。落ちていた枝を踏み、それがパキッと折れる音がした。


 依然として本当に密林に来た時のような沢山の音が鳴る。

 後ろを振り返れば、無機質な石レンガの拠点への入口が見えた。


「行きと帰りは同じ所って事か。場所を覚えておかないとな……」


 迷ってダンジョンの中を延々と彷徨うなんて事はしたくない。自分の通った場所を覚えるなり、頭の中でマッピングする必要がありそうだ。


「じゃ、行ってきます」


 拠点には誰も居ない。居ないけれど、自分が家から出る時は絶対にこう言っていた気がして、口に出す。


 ベルトに引っ掛けていた木剣を引き抜き右手で握る。

 そろりそろりと忍び歩きをしても、密林という場所の性質上音を立てずに動けないだろうし、精神的に疲れるだけだろうと、俺は堂々と歩き始める。


 ダンジョンの中だと言うのに木々の隙間からから漏れる日差しが眩しい。


「そういう場所なのか?」


 第1階層という文字もあったし、1番上の階層をクリアしたらダンジョンから脱出出来る。それを踏まえれば、俺がいるこの場所はダンジョンの最下層と言っても過言ではなく、太陽の光なんか浴びれる訳もない地下に存在しているはずだ。


 それなのに今、俺は陽の光を感じている。光を手で遮りながら上を見上げれば、天井らしきものは認識出来ない。

 疑問が増えるばかりだけど、気にしすぎても答えが得られる訳ではない。

 そういうものとして、あるがままを受け入れよう。


「っ!?」


 そうして上を向いていたから気づくことが出来た。

 今木々の間を跳ぶようにして何かが通り過ぎて行った。その影を、捉えることが出来た。


 がさり、がさり。


 大きな樹の枝と枝を移動する音が聞こえる。耳をすませながら、周りを見わす。

 音はどんどん近くなっていて……多分向こうも俺のことを認識しているのだろう。

 恐らくは、いや十中八九モンスター。


 音がピタリと止み、緊張感が高まる。


「……」


 右手に持っていた木剣を握りしめ、周囲を警戒する。

 すると俺の真後ろからがさりと音がした。

 瞬時に振り返り木剣を構えれば、見えたのは今まさに俺に飛びかからんとしていた小猿の姿が。


「う、おおお!」


 相手は空中。近くに掴めるものはなく、相手が俺の攻撃を避ける事は出来ないと瞬時に判断し、小猿が俺に襲いかかる前に木剣を振る。

 技術も何もないただのスイング。斬ることが出来ないとは言え剣の形をしているにもかかわらず、刃に当たる部分ではなく、剣の腹に当たる部分で殴る暴挙。


「ブギャ!?」


 それでも運良く小猿の脳天に木剣をぶつける事が出来た。


 ……当たった!

 ……小さな猿のモンスター。気持ち悪い顔してたな。

 ……出応え的には結構良かったけど殺せたか?いや分からない。


 それならば……追撃するのみ!


 いくつかの考えが頭を過ったが、すぐに追撃するべきと本能が判断し、地面に叩き落とされバウンドしながら地面を転がる小猿に向けて走る。


 今俺が出来ることは木剣で殴るしかない。

 木剣も刃を持たず斬ることは出来ず殴る事しか出来ない。


 再度木剣を振り上げ、未だ地面に倒れる小猿に再度振り下す。今度は剣らしく刃を立てて小猿の頭部を殴る事が出来た。

 バキ、と小猿の頭部から何かが割れる音がして、肉を潰す感触が木剣から手に伝わり……小猿の体が爆散する。


「……ぇ?」


 爆散、と言っても血肉を撒き散らした訳では無い。風船が割れるように、限界まで膨れ上がり破裂音を鳴らし消える……そう表現するしかない。

 その代わりに、カッパーコイン3枚と赤い果肉の小さな木の実1個がその場に残った。


「……おぇ」


 倒した。そう認識した後、湧き上がってきたのは吐き気だった。

 生物を殺した不快感。今俺は木剣で小猿の頭蓋骨を割り、脳を潰し、殺したんだろう。

 ひとつの命を摘み取ったという事実と感触が不快感を呼び、だが死に方から普通の生き物では無い事が分かる。

 だから実際に吐き出すことはしなかった。


「ふぅー……」


 深呼吸をして気を取り直す。他にもモンスターが近くにいるかもしれないと考えれば、いつまでも無防備では居られない。


「カッパーコイン3枚と木の実1個ね」


 第1階層という事もあるのか、あの小猿のモンスターは簡単に倒せた。けれどその簡単さに見合う相応の報酬、といった感じのドロップアイテムの少なさ。


「とりあえず……小猿10体分がノルマかな」


 木の実がいくらで売れるのかは分からないけど、どうせいくらもしないだろう。そこに期待はせずに、直接ドロップするカッパーコインを狙って行こう。

 30枚あれば最低限の日用品が買える。記憶を失う前の自分が綺麗好きだったかは覚えてないけど、これだけは絶対欲しいと直感が主張してくる。


「1回1回にそんな時間をかけてらんないしな……早く戦いに慣れるためにもドンドン行こう」



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ