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つまりはそういうイベント

11話『謎の部屋』と12話『つまりはそういうイベント』が入れ替わっていたのを修正致しました。





「……大丈夫そうだな」


 入口付近にモンスターの姿も見えず、入口から顔を覗かせて見れば、部屋の中には何やら石レンガの拠点の売店で、目玉商品が浮かんでいる祭壇に似た台が3つ置いてあるだけ。


 ついさっきまで真っ暗闇を歩いていたから、人工物の明るさが目に染みるのを我慢しつつ、謎の部屋に足を踏み入れる。


「祭壇が3つ……巻物?」


 それぞれの祭壇には3つの巻物が浮かんでいた。

 3つとも全く同じ巻物という訳では無さそうで、それぞれ帯の色が違う。


「赤と紫と……黄色?」


 それ以外の見た目はほぼ同じ。紙は紙でも羊皮紙が使われている……ぐらいしか見た目では判断出来ない。

 巻物も開いている訳ではなく、中身が何なのかは見ても分からない。


「石版だ……」


 売店の祭壇よろしく、この祭壇にもアイテムの説明……あ、確かフレーバーテキストって言うんだったっけ?……が書かれているっぽく、その文字を読もうとした瞬間。


「はっ……!?」


 横の壁から、久しぶりに聞くチョークで文字を書いた時のようなカツカツとした音が聞こえてくる。


『取捨選択の部屋へようこそ。この神出鬼没の部屋には、ダンジョンの攻略を少し手助けするようなアイテムが3つ存在しています。その内の1つを選んでください』


「取捨選択……アイテム……」


 つまり3択のご褒美部屋、宝部屋って事か。それに神出鬼没という事は、宝箱と同じように階層のどこかに、同じ部屋が現れるという事だろうか。


 ……ここに来て、ダンジョンの地形の更新が意味を成してきたな。

 今までは一から探索をさせるようにして時間稼ぎと、階層のモンスターの分布の変化くらいしか意味が無いと思っていたけど……改めて考えれば更新されると、階層のどこかに宝箱が新しく出る可能性があるのか。


「……でも更新の時に毎度探索しなおすのは少しめんどいな」


 今はまだ【淵樹の密林】の3階層分しか行ける階層が無いけど、進めば進む程階層も増えていくと考えると……更新時、宝箱やこの取捨選択の部屋を探しに行くのは、ちょっと非効率的、か。


「……ちょっと待っても、新しい情報は出てこないな」


 少し考え事をしながら、白チョークの文字が増えるか待ってみたが、この部屋の説明をするだけで終わりらしい。


「それならそれで、3つの巻物をじっくり選ぶとしようかね」


 白チョークの文字が本当なら、この部屋は俺の強化イベント……みたいな意味合いなはず。

 この部屋が【淵樹の密林:第3階層】で必ず出現する確定イベントかは知らないから……第1階層の宝箱に続いて、俺の運が良いって事にしておこう。


「さてさて……巻物って言ってもどういうアイテムなのかな〜?」


 まずは1つ目、俺の1番近くにあった左の祭壇……赤い帯の巻物のフレーバーテキストを読む。


 


 『俊敏の巻物』

 [使用者の基礎能力の内、敏捷性を恒常的に10%高める]



 

「敏捷性……?」


 つまり移動速度などが高くなるって事か?

 それに10%……1割っていうのは今の俺の足の速さを例えば100とするならば、100の1割って言うことで(+10)されるって事か、 ……それとも(+10%)として、今は(+10)だとしても、大元の100の数値が110になった時(+11)されるって言うことか……


「あー……説明が簡素過ぎてどっちか分からない」


 でも恒常的に10%高めるってことは後者な気もする。

 そう考えれば、俊敏の巻物を選ぶのは大いにアリだ。ただただ俺の敏捷性が今10%上昇するだけでもアリなのに。


「ただ速度じゃなくて力を、筋力を高める物だったら、他が何であろうと即選択だっただろうな……」


 それだけに少し惜しい、と感じつつ次の紫の帯の巻物を見ていく。


 


 『エンチャントの巻物・攻』

 [武具に使用する事で、対象に攻撃力10%upの特殊効果を付与する]


 


「攻撃力アップ、か」


 俊敏の巻物の次に見ると、少しインパクトに欠けるが……後ろにある『攻』の文字を見るに、他にも種類があるという事だろう。

 どこまでこの特殊効果に種類があるのかは、今の所分からないがこれも実際選ぶのはアリだ。

 そもそも攻撃力という物が数値的に見れないから、10%の効果量が分かりにくいが、もしこのエンチャントの巻物を沢山集めれば……


「自分だけの……最強の武器、的な物が作れる?」


 実にそそられる響きだ。それに武器が強くなれば探索だって楽になること間違いない。


 もう既にどちらにしようか迷い始めてしまっている中、最後の黄色の帯の巻物のフレーバーテキストを読む。




 『直感の巻物』

 [使用者の直感を恒久的に研ぎ澄ませる]




「これまた、毛色の違う……」


 ……いや、確かに毛色は違うけれど『強化』という側面で見れば3つとも同じ方向性ではある。

 

 ただ直感、直感か。


「直感って一体何だろうな」


 第六感って言い方をして無いのを見るに、人間の五感以外の『何か』で物事を感じるっていうことを指しては無いのは分かる。

 当てずっぽう……は運の側面が強いし。


「……そういえば少し前に親猿と戦った時、直感で親猿の攻撃が防げない、みたいな事思ったな」


 〇〇そう、〇〇っぽい……みたいな、漠然と得た情報の精査をする能力が、直感って事?


「『多分』とか『もし』って言葉が付いたらそれはもう、直感か」


 ……しっくりくる。

 直感というものがどういうものか、考えついてスッキリくると同時に、今回選ぶ3つの巻物の内どれを選ぶのかも決まった。


「直感の巻物だな」


 俊敏の巻物は、俺がモンスターを沢山倒して身体能力や基礎能力を高めれば……まあ、なんとか出来る。これが筋力を高める物だったら、本当即決だったと思うけど。

 

 エンチャントの巻物も現状の『鉄の戦槍』で十分、いや過剰なくらい攻撃力が足りているのを考えるに今すぐ必要という訳では無い。


「そう考えれば、直感を研ぎ澄ませるって他で代用出来ない強化内容なんじゃないか?」


 俺の直感が……『直感の巻物』を選べと言ってくる。


「……なんてな」


 祭壇に浮く黄色の帯の巻物に手を伸ばす。

 石レンガの拠点で目玉商品が売っているのとは違い、この部屋の祭壇の上に浮かぶ巻物はどれも実体がある。


 だから巻物を祭壇から掴み取る事が出来る。


「……おっ?」


 手に羊皮紙の少しザラザラした感覚を感じ、直感の巻物を握った瞬間、祭壇を照らしていたスポットライトのような明かりが消える。

 他の祭壇の上に浮かんでいた巻物のいつの間にか消えて無くなっているが、俺の手には直感の巻物が残っているのを見るに、ちゃんと直感の巻物を選択出来たって事だろう。


「早速使って損はないでしょ」


 自分にどんな変化が訪れるのか、少しワクワクしながら巻物の帯を解いていく。

 そしてスルスルと巻物を開いてみれば……文字のような記号が羅列してあった。


「……全く読めない」


 少なくとも白チョークや石レンガの売店で使われている日本語や英語またはアルファベットでは無いことは分かる。

 一体何語なんだろうか。そもそもこれは文字なのだろうか、などと首を傾げていると、巻物の記号に変化があった。


 羊皮紙の文字が震える。プルプルと何か堪えるように震えたと思ったら、羊皮紙の表面から飛び出して記号が宙に浮く。


「……なるほど?」


 そして羊皮紙から飛び出した記号は、意志を持っているかのように俺に向かって動き出してきた。

 多分だが、これを受け入れれば俺の『直感』の強化が成されるという事なのだろう。

 

 それを拒む気は全く無いが、試しに記号に手を伸ばして動きを遮ろうとしてみると……記号は実体が無いかのように手をすり抜けていった。


「うわ、頭に入ってくるんだ」


 記号は俺の頭……脳に向かって居るらしい。

 まだ羊皮紙に記号が描かれていた時は黒いインクかなんかで書かれていたと思うんだが……それがそのまま頭の中に入ってくるってちょっと怖いな。


 そうして記号の全てが俺の頭に吸い込まれると、持っていた羊皮紙が煙のように消えていく。


「……これで終わり?」


 自分の頭を触ってみても何も変化は感じない。自分の思考が何か変わった気も今の所無い。

 ちょっと拍子抜けを感じつつも、もうこの取捨選択の部屋に居ても意味が無いので、ダンジョンの探索に戻ろうとこの部屋の入口に向かう。


 そして安全に出られるかの確認で、入口付近にモンスター居ないかを確認しようとしたところ……


「あ、こういうことか」


 すぐに俺の直感が周囲にモンスターの存在は無いという結果を弾き出した。

 今までは端から端まで見通して、モンスターの姿が見えなければ安全と判断していたが、直感が強化された事によって、パッと景色を見ただけでその判断が出来るようになったらしい。


「ん〜……便利」


 実質、情報処理能力が上がったという事だ。便利の一言で済む話では無い可能性だってある。


「直感を信じて良かった」


 身に染みるような実感を感じながら、この真っ暗な第3階層の探索を続ける。

 暗闇の中、目を凝らすように周囲を見回しつつ慎重に進んでいくのは取捨選択の部屋を見つける前と変わらない。


 ただその時より頭が冴えている気がしていた。



 

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