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第7話 人の霊も来るんだね





次男ヤシと三男ヤシも、こんな少女は知らないと言ったが、顔立ちは赤目守りにそっくりだった。


 しかし、赤目守りの色褪せた小豆色の浴衣と違って、奇麗な桜色の浴衣で、柄は黄色い蝶々、下駄が桃色だった。

 流れるように美しい黒髪を肩まで垂らして、ニコニコしていた。


(こいつ、赤目守りの妹か?こんな話、聞いたことねえけど)


赤目守りではない――それに気付いて、木の葉は精神的に復活した。


「おまえの姉ちゃん、妖怪か?」


「うん。あたしのお姉ちゃん、森の番をしてるから、悪さしちゃいけないの」


「君も、僕たちを捕まえに来たの?」


 見た目は、赤目守りよりも、二、三歳下といったところ――ことりも思い切って尋ねた。


 少女は、「ちがうよ」と言って両手を放した。

 ことりは、心からほっとして息をはいた。


「お兄ちゃんたち、さっきからずうっと樹に悪さしてるから、迎えに来たの。カラスたちから守ってあげる」


 少女は、左手の人差し指を小さな桜色の唇に、そっと当てて「お姉ちゃんには内緒ね、シィーよ」と小声で言った。


 それから、ことりと木の葉に「あたしに付いて来て」そう言うと、化けヤシを目掛けて走った。


 「あいつ体当たりする気か?」


 木の葉は、びっくりして言った。


 「まさか!そんなわけないよ!」


 ことりは、否定して声を上げた。


 「あれを見て!」


 少女の行く手に、光の道が出来た。

 それは、地中から浮き出て、地表に敷かれていた。

 まるで、煌々と輝きを放つ月明りに照らされたレールのようだった。

 その周囲だけ影が消えて、光が満ちた。


「僕たちも行こう!」


 ことりが先に走り出した。木の葉も急いで跡を追った。


「はあああ……今日は、奇跡ばっかり起きるぜ。妹のこと、ぜってえ、だあれも知らねえぞ。宝くじよりミラクルだぜ。俺ら、すげえこと知ったよなあ?」


間延びした調子で、ことりに同意を求めた。


「僕は宝くじが当たる方がいいよ。牡丹餅も買えるしね」


 木の葉が眉根を寄せた。


「嫌みか!」


「そうだよ、悪い?」


「案外、根に持つな」


 駆け出した少年たちを見て、次男ヤシが叫んだ。


「兄ちゃん!あいつら逃げるぜ、逃がしてたまるか!」


 ヤシの実をぶん投げようとしたが、長男ヤシが止めた。


「やめろ!もういい。我々は何も見なかった。取り逃がした、それでいい」


 長女ヤシは怪訝そうに兄ヤシを見た。


「お兄様、何も見なかったとは、どういう意味です?」


 妹ヤシと弟ヤシたちも黙って答えを待っていた。


「赤目守りさまを思うと胸が痛む。我々が先に出会って申し訳が立たない。今は忘れろ、いずれ森中の樹々が知る。天の目の復活は近い」


 木の葉とことりは、光のレールに足を踏み入れた。

 歩く度に足下がキラキラ光って、黄金の川を渡っているようだった。


三人は、三メートル歩いて立ち止まった。少女が、木の葉の腕時計を指差した。


「三十分経った?」


 木の葉が見ると、長針は短針と合わさっていた。


「ああ。おまえ分かるのか、すげえな」


 褒められて少女が頬を染めた。


「あたし、かえらなくちゃ。お兄ちゃんたち、がんばってね。この先に、りんごの木があるの。たくさんのインコとオウムが枝の上で休んでるけど、お兄ちゃんたちには見えない。飼ったことがないでしょ?カラスがいなくなるのを待てばいいよ。この森のカラスは、おおっきな、おおっきな懐中電灯を持っていて、化け樹たちを照らして影を作るの」


 少女はニコッと笑って、左手の人差し指を唇にあてた。


「ひみつだよ。あたしが来たことも、お姉ちゃんには内緒ね、シィーよ」


言ってから付け足した。


「見た目と違うの。お姉ちゃん、すっごく優しいの。あたし、大好き!」 


煙のように姿を消した。ことりは背筋が寒くなったが、木の葉は落ち着いていた。


「幽霊だったか」


「えええっ!幽霊も来るの?」


 ことりは仰天して木の葉の横顔を凝視したが、木の葉は、何の事はないといった調子で言った。


「霊は成仏してるから問題ねえよ」


「成仏してるなら来たらダメじゃ、あ、この森、お盆の森だった!人の霊も来るんだね……あれ?あの子は妖怪かな?どっちだろ……カラスの話、本当かな」


「さあな、初耳だ。どこで手に入れたんだ、そんなでっけえ懐中電灯……特注品か?」


「懐中電灯は大妖怪が作ったのかも。熟練奉公屋も手伝ったのかな?それとも、おばば様だけの妖力かな?あの子、どうして僕たちを助けてくれたの?あの子のお姉ちゃん、赤目守りだよね。姉は妖怪で、妹は幽霊なの?どこに帰ったの?天国?」


 ことりは興味しんしんだったが、木の葉は全く興味がないふうだった。


「赤目守りに聞け」


「絶対に会いたくない!」


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