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第34話 『能力最上・パワー200%ミントジュース』




「静花さんの指示通りに動きましょう。鬼はいないけど、祠はなくなる。爝火しゃっかさんが、祠ごと、ギュウジャッガンとワカチカを焼き払う。かなり燃え盛るわ。でも、手天一族の飴玉がある。水中に投げ込むと、火の神さまが現われて、水を呑み干して下さるの」


 一同は、神妙な顔つきで、熱心に耳を傾けた。


「でも今回は、火の神さまが現れたら直ぐに、天代の特製チョコレートを献上する。火の神さまの大好物だから。水を飲むのではなく、口に含んで炎を吹き消して貰うの。どんな炎も一瞬よ。それが計画。その為には、多量の水が必要。私たちは、水の確保に移るわ」


「でも、どこに、そんな水が」


 やはり口を挟んだ瀬奈に、皆の視線が注がれた。やっぱり………といった顔で見られて、瀬奈がしょんぼり俯いた。


樊籠はんろう小学校は、娘が生きていた頃は沼地だった。七不思議の通りなら、娘は北校舎の理科室の下に埋葬された。それなのに、西野小学校に娘の亡骸がある。その事実を、私たち三人は突き止めたの。だから当初の計画では、昼間のうちに娘の躯を掘り起こして、夜になってから祠を壊す予定だったわ。でも真実は、娘は成仏していた」


 落ち込んでいた筈の瀬奈が、又も口を入れた。


「ほんと、びっくり!さっき手紙を読んで驚いたわ。埋められていたのは、樊籠はんろう小学校の初代校長のミイラ化した躯だったなんて!」


 ごくっと唾を飲み込む音が三回した。


「今回の作戦は、その躯を利用するわ。ランちゃんの力を借りれば、過去へ行ける。当時の沼地を、森の中に引っ張って来るの。殺された初代の校長は、心底後悔したでしょうから。沼地に小学校を建てなければ、沼地さえなければって思った筈よ。だから、車で行くわ。運転手は小菊さんに、お願いしましょう。車上に乗るのは、ランちゃんとカティくん。ランちゃんと手を繋げば、カティくんも一緒に、校長先生が生きていた頃へ行けるから、校長先生の望みを叶えてあげられる。躯は、後部座席に横たえるから、頭の位置に、ランちゃんとカティくんが飛び乗る。今日は満月、校長先生が殺された日の夜に飛べるわ。過去の沼地を引っ張ってくるくらい、輝龍さんなら容易に出来るもの。輝龍さんに化けられる小菊さんは、輝龍さんの力が使えるから」


 そう言って、結花は、きまずそうにことりを見たが、ことりは、にこっと微笑んで言った。


「母さんは、すごかったから」


「そうよ!輝龍さんは、最強の奉公屋、《最高奉公屋》だったもの!」


 瀬奈が瞳をきらきら光らせて言うと、木の葉も奏も、そうだそうだと口を揃えた。知世は無言だったが、その両目は輝龍に敬意を表していた。


 六人は作戦を実行し始める前に、瀬奈の提案で、結花が作り直した『能力最上・パワー200%ミントジュース』を飲むことになった。

 しかし、眠らせる先生は五人しかいなかった為、ジュースも五人分しか作ってなかった。


 瀬奈と木の葉は、何も考えず、おいしそうに飲み干した。

 奏と知世も飲み終えて爽やかな気分になったが、ことりと結花は、残りの一杯を押し付け合った。


「作ったの、楠さんでしょ」


「気にしないで、皆の為に作ったの。私は、いらないわ」


「いや、僕も遠慮するよ。ハーブ系苦手なんだ」


「私もよ、でも、瀬奈が改良したブレンドミントは、ほんとに凄く元気爽快になるわ」


「じゃあ、譲るよ」


 会話は、いつまでも終わりそうになかったので、木の葉と奏が全力で止めるのも聞かずに、瀬奈が飲み干した。木の葉は溜息をついた。


「おい、どーすんだ。こいつ、400%になったぜ。ただでさえ危ねえ奴が、犯罪級の能力になったぞ」


「勝手になればいいよ」


 奏は投げ遣りになったが、知世は冷静に分析した。


「今日は決戦日だから。私達も通常以上の回復力を得たけど、より一層回復の早い者が、一人はいた方がいいわよ」


 ことりと結花は黙って聞いていたが、心の中で似たようなことを思っていた。


(いつも以上の力か………荒れそうだな)

(いつもの倍ね、暴走しそうな予感がするわ。静花草しずかそうを混ぜておけばよかった)


「行くぞ」


 木の葉の一言で、子供たちは気を引き締めた。


 小守寮を出ると、立派な楠が日陰を作っていた。

 その下に、秋人と、龍絵が立っていた。

 そして、龍絵の隣には、真っ白な狐が二本足で寄り添うように立っていた。


「どうした、おまえら」


 木の葉が目を丸くした。


「ゆいちゃん、ともちゃん、せなちゃん、久しぶりだね」


 龍絵が、嬉しそうに右手を振りながら駆けて来た。

 その穏やかな笑みを見て、三人も自然と頬が緩んで笑顔になった。


「うん、久しぶり。元気そうで良かった」


 瀬奈が、にこやかに返した。


「ほんと、久しぶりね。でも、どうしたの?落ち合うのは夜でしょう?」


結花が聞くと、秋人が声を上げて答えた。


「水の確保に、協力しに来た」


 子供たちは目を丸くしたが、如何なる場合も、知世だけは沈着である。


「ありがとう!とにかく座りましょう。立ち話は体力を消耗するわ」


 子供たちは、円を描くようにして楠の下へ腰を下ろした。

 そして、秋人が最初に話し始めた。


「静花さんから沼地の作戦は聞いた。ただ、沼地より遥かに良い条件で水が手に入る方法を、俺と龍絵は知ってる」


「えっ、ほんと?」


 瀬奈が、期待に満ちた目で龍絵を見つめた。

 瀬奈の本音は、――首のない骸なんか、掘り起こしたくない。七不思議が実話だとしたら……校長先生の首は獣に噛み千切られた!確か、そうだったよね。そんな骸、見たくない――だった。


 知世も、瀬奈と似たことを考えていた。


(娘の骸を掘るのにも抵抗があるのに、首のないミイラだなんて、手袋ごしでも触りたくないわ)


 西野小チームは皆が同じ気持ちだったので、秋人の話に期待した。


「樊籠小学校には、スーシ―ランドがある。母親に嘘をつけば、魔女ばあさんに誘拐されて、スーシ―ランドへ行ける。そこに、スシ・ポンドがある。校庭の半分ほどはある池だ。それを移動させた方が早い」


 西野小チームは、ポッカーンと大きく口を開けて、瞬きもしないで聞いていた。

 秋人は、六人の反応を確かめながら、木の葉に告げた。


「木の葉さん、トイのやつ、地獄わさびを使ったんだぜ。妖怪殺しの一品は、魔女にも効く筈だって、実際に使って殺しちまった」


 秋人が、この場にいないトイを非難すると、木の葉が、立ち上がって瀬奈を咎めた。


「瀬奈、おまえだろ!どうせ、おまえが栽培したわさびだろ!」


 ことりと奏も、白い眼で瀬奈を見た。


「どうして危ないものばかり作るの?」


「瀬奈、地獄わさびって何?」


 三人に睨まれて、瀬奈は素早く立ち上がった。

 龍絵の後ろにさっと回ると、隠れるようにして座り直した。


「あげたのは、あたしじゃない!ゆいちゃん!」


 栽培したのは自分だと白状したようなものだが、ことりは、瀬奈を無視して秋人に聞いた。


「魔女ばあさんを殺したのに、どうやってスーシ―ランドに行くの?」


 龍絵は小声で、「死んでないよ」と、瀬奈に言って、ことりたちに答えた。


「とー君は、三年前に亡くなってるから。魔女ばあさんを殺しても、魔女ばあさんは死なないの。死んだ妖怪は、生きた妖怪を殺せない。殺しても生き返るんだよ」


「トイの父ちゃん、母ちゃんは、輝龍さんが殺されるより先に、悪い妖怪に殺された。その後、トイも殺されたんだ。けど、おばば様に時間を貰って生きてた………」


 秋人が、右ポケットから赤い小箱を取り出した。

 指輪を入れた箱かと、子供たちは興味を持ったが、


「トイは、未練がなくなって、昨日の昼……成仏した。この箱を俺に託して……」


 衝撃的な真実を聞かされて、ことりを除けた西野小チームは、打ちひしがれた。

 ことりは、トイを知らないので、――可哀想だな――と客観的に思ったが、瀬奈は一瞬で青ざめた。


「トイ君も死んでた………」


 木の葉たちも、顔面蒼白になった。


――尊敬する大妖怪・輝龍の死だけでも、十分すぎるほど、心に大打撃をこうむった。この上更に、大事な友の死を、受け入れなければならない――


 魂が抜けたような顔をして、一斉に俯いた。

 沈黙が続く中、ことりが立ち上がった。


「僕は、トイ君に会ったことも、喋ったこともないけど、きっとトイ君は幸せだったと思う。トイ君は、亡くなる前から、一人で頑張ってたんだ!だから、おばば様は、時間を与えたんだよ。君たちと出会って、トイ君は心強かったと思うし、楽しかったと思う。トイ君のお父さんも、強い妖怪だったと思うけど、僕の父さんも、すごく強い。父さんは、母さんの仇を討つ為に、仲間を裏切ったふりをして七区ななくに潜入してた。さっき知った話だけどね。内側から少しずつ分裂させていって、姉さんとランちゃんが過去から戻ってくる前に、七区を打ち滅ぼした」


 ことりは、一瞬目を閉じた。燃やされた手紙を思い出したのだ。騙されている我が子を知って、どう思ったのだろう。


「………最後のつめは祠だ。ギュウジャッガンと、ワカチカを消滅させる。絶対、トイ君と、トイ君のお父さん、お母さんの仇を討ち取ってくれる!僕たちには、スシ・ポンドが必要だ!スーシ―ランドへ行こう!トイ君は、会いに来てくれる。だから、全力で森を護ろう!」


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