表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/41

第13話 燃やされた手紙




布団に入る前、ことりは、机の引き出しからノーカーボン紙付きの便箋と、水色と赤色の封筒を一枚ずつ取り出した。

 そして、藍色の羽ペンと一緒に机の上に置いた。


 椅子の背もたれには、闇夜と一体化できる黒いマントを掛けておいた。


 そして、木の葉と奏が寝入るまで目を瞑って待った。


 樊籠はんろう小学校と、その周辺にだけ非常に激しい雨が降り出す前に、ことりは起き上がった。


 木の葉と奏の寝息を確かめて、物音を立てないように、そろり、のそりと窓辺に近付いた。 


 ノーカーボン紙付きの薄緑色の便箋は、焼のり一枚ほどの大きさで、化け狐の一族から特別に入手したもの。

 見た目も厚さも、普通の便箋と何ら変わらない。

 複写と本物の見分けがつかない便箋だ。


 藍色の羽ペンは、別の化け狐の一族から貰った一級品。

 書く度、二つの羽が、くるくる回りながら、筆記の内容をペンに取り込む、筆記帳とも呼べる羽ペンである。


  水色の封筒には、予め金色の文字で宛名が書かれてあった。

  ことりは月明かりを頼りに、ごそごそと着替えをしてから手紙を書いた。

  時刻は十二時を回って、日付けが変わっていた。


  『静花お姉ちゃんへ 


  僕は、昨日、伯父さんの伝で『西野小学校』に転入して、小守寮に住むことになりました。


 お盆の森で、赤目守りという妖怪に出逢いました。


 良い妖怪だったので、友達になりました。


 もしかして、お姉ちゃんの知り合いですか。


 ミステリー・スイーツ園芸部という部に入部しました。


 部のモットーは、『花とスイーツは、事件を握る鍵』だそうです。


 来週、森を潰すそうです。

 大事な友達の居場所を、奪おうとする悪者たちを許せません。


 早速、事件を解決する事になりました。

 僕たちミステリー・スイーツ園芸部の部員は、今晩、満月が昇る頃、学校に侵入します。


 母さんには内緒にして下さい。


 僕たちの力だけでは敵わない可能性が高いです。

 一緒に闘って貰えませんか?助けに来て欲しい!


 それと、やっぱり、僕は、ランちゃんとは結婚できません。

 だから、星川家には戻りません。


 僕は、母さんや静花お姉ちゃんみたいな奉公屋になりたくて、内緒で鍛練してきたのに、どうして結婚しなくちゃいけないんですか?


 僕だけ養子に出された理由、は何ですか?

 伯母さん、伯父さんは優しいけど、ともかく結婚は嫌です。


 結納の件は置いといて、僕たちの味方になって下さい。

 お願いします。


 この手紙は、天代てんよの使い、小菊さんに託します。


                             ことり』


 写しでない方を水色の封筒に入れて丁寧に封をすると、ことりは窓を開けた。


 夏の夜風が、青色のカーテンを揺らして入り込んだ。


ことりが封筒を差し出すと、風は、それを呑み込んで夜空へ戻って行った。


 「これで昼までには届く。普段はね」


 ことりは、そっと窓を閉めてカーテンを引いたが、片目で覗ける程度は開けた。

 外の様子を左目で伺うと、イチョウの枝の上で赤い火の玉が揺らいだ。


 「オオヨシキリの兄妹に感謝しなきゃ」


  ことりは落胆した。

  実の父と最後に目が合ったのは、いつだったか……やはり今日も、包帯の下は見えない。

 首から上は、全て覆い隠されて、目鼻も口も見えない。

 しかし、声だけはしっかり響いた。


「兄さんたくを出たと聞いて様子を見に来たが、一体何をやらかす気か」


封筒が夜空へ昇る直前に、爝火しゃっかは捕まえた。


ビリッと小さな音がして、便箋が中から滑り落ちた。

それを掴むと、さっと目を走らせた。


「困るなあ、こんな事されちゃあ。学校に喧嘩を売るなんて、馬鹿な息子に育ったなあ」


読み終わると、爝火は右手で握り潰した。

掌から薄い桜色の炎が、昇り竜のように踊り出て、手紙を燃やした。

炎は、あっという間に消えて、あとには何も残らなかった。


「グルだと思ったよ」


 ことりは、拳を握り締めて歯を食いしばった。

 今すぐにでも飛び出して、一発でも二発でも可能な限り、ぶん殴ってやりたかった。

 その衝動を必死に抑えているに、爝火は赤い火の玉に姿を変えて、ふわふわと飛んで行った。


「どんな顔して破いたの。息子の手紙を燃やすなんて、恥ずかしくないの」


ことりが四歳の時、母親は水色の封筒を何枚か与えてくれた。


「この中に書いた手紙を入れて、風に差し出しなさい。風が封筒を拾って、空へ届けてくれます。宛名のもとに、半日で届くでしょう。安心なさい、相手がどこにいても、風は運んでくれます。この空は、世界と繋がっているのですから。たとえ、その相手が過去にいても……。きっと、この封筒が必要になる時が来るでしょう。さあ、この羽ペンと便箋も無くさないようにね」


 封筒は、母親の能力をもとに作られた。父親も、それを知っている。

 今回は、それを逆手に取ったのだ。

 水色の封筒を囮にして、早々に引きあげて貰った。


 爝火は、ことりの視線に気付きもしなかったが、ことりは森を出た辺りから、実父の気配を感じていた。

 それに加えて、帰り道、オオヨシキリの兄妹が、鳴いて知らせてくれたのだ。


「爝火が来たよ、気を付けて」


「爝火は敵だ、油断するな」


 連れ戻しに来たのかと危ぶんだが、姿を見せなかったので、ことりは、ひとまず安心した。

 けれど、小守寮に戻ってからも帰る様子が見られない。それでピンと来たのだ。


「結婚が嫌になって逃げたんじゃなくて、僕が、何らかの目的で西野小学校に転入したと思っているのかもしれない。父さんは、母さんのことを怨んでいるし、僕のことを母さんの差し金だと睨んで、見張りに来たのかもしれない。心配とかじゃないんだね」


 ことりは、複写の方を赤い封筒に入れて、これも丁寧に封をすると再び窓を開けた。

 身を乗り出して、父親の気配が消えていることを再度確認すると、羽ペンを胸ポケットに挟んだ。

 マントを引っ掴み、素早く羽織ると芝生に足を付けた。


 「一階で良かった。飛ぶと目立つから」


 行き先は森の出口。昨日は会えなかったが、小菊は必ず待っている。


 森に向かって、ことりは突っ走った。

 満月は、明るく夜道を照らしてくれたが、有り難いと思えなかった。


 「闇がないとマントも無意味なのに」


 空を飛ぶにはリスクが高い。万が一を想定すると、地面を浮くにも危険である。


 「父さんが来なければ、走らず済んだのに。昨日も今日も、走る定めかな……」


 強張った表情に、乾いた笑みが浮かんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ